日本に有利すぎたTPP | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

日米貿易協定の国会通過が近づき、TPPへの関心が高まってきたように感じます。
そこで日本とアメリカが合意したTPPについて振り替えってみたいと思います。

タイトルに書いたとおり、TPPは相対的にアメリカに不利な協定となり、結局アメリカ議会を通すことができずに離脱を許す結果となりました。
その後TPP11として再発進したものの、日本としてはアメリカと対等な立場で協定を結ぶチャンスを逃したのは大きな失策と言えます。
アメリカがTPPから離脱していなければ日米FTAなど結ぶ必要はなく、アメリカ有利な条件を突きつけられることもなかったでしょう。トランプ大統領は米韓FTAやNAFTAの再協議を強要しましたが、それは協定締結後にアメリカの貿易赤字が拡大したという名分に基づくため、発効から間もないTPPに即時再協議を求めるのは困難だったと思われます。

では何故アメリカはTPPから離脱したのか。当然アメリカにとって有利な条件を勝ち取れなかったからです。
日米間に限ったTPPの条件を見ていきましょう。

日本:95%
アメリカ:100%
一目瞭然ですね。

②政府調達(公共事業)の外資への開放
日本:元々WTOのGPA基準を上回る内容で外資に開放していたため、現状維持。

③医薬品のデータ保護期間
日本:現状維持
アメリカ:12年から8年に短縮
※発展途上国が5年を要求し、アメリカは12年を要求。結局折衷案として日本の現行基準と同じ8年(バイオ薬品は12年)で合意。
http://www.kanzei.or.jp/nagoya/nagoya_files/pdfs/cus_info/20161004-2-3.pdf

④食料輸出
日本:特に影響なし
アメリカ:輸出補助金を明確に禁止されたことで政策の転換を迫られる。

等々、TPPは日本よりも圧倒的にアメリカが譲った部分が多い協定でした。

◯その他(いわゆる毒素条項)
・ISD条項
TPPは半分が発展途上国であり、法的リスクを考慮すればISD条項は必須と言えます。日本はこれまで官民合わせて勝率100%で、政府は提訴されたことさえありません。対してアメリカは、政府こそ負けなしですが民間の勝率は高くなく、NAFTAのケースだと勝率は30%程度です。
なお、アメリカと直接協定を結ばなくともアメリカ企業は進出した国(メキシコやシンガポールなど)から日本を提訴できますので、実は多国籍企業にとってはそれほど重要ではなかったりします。

・ラチェット規定
これは個別の規定に対して設定されたりされなかったりするものであり、一纏めに語るものではありません。

◯そもそも対象外と定められたもの
・公的医療保険など社会保障制度全般
・遺伝子組み換え作物に関する法令や制度
・教育制度
・単純労働者の移動
・安全保障関連の規定(エネルギー関連含む)
など。

以上、TPPは農畜産物以外はほとんど日本に影響を及ぼさないレベルの協定であり、逆にアメリカにとっては農畜産物以外に旨味はなく、自分達は自動車関税や公共事業など色々と身を切っているため、流石に飲めない内容となりました。

何故アメリカはこんな内容の協定に署名したのか。それはオバマ前大統領の事情と中国の台頭にあります。
アメリカ2009年11月にTPPへの参加を公式に表明しましたが、オバマ大統領の任期は2017年1月までであり、国会を通すのに必要な期間を逆算した場合のリミットが迫っていました。大統領の任期のほとんどの期間中交渉をしておいて結局纏まりませんでした、では流石に面子が立ちません。外交成果を焦って締結に走り、最後の詰めを後回しにしたのはTPPの再協議規定にも表れています。
そしてもう1つはオバマ前大統領がTPP署名時に語った「中国のような国に国際経済のルールを書かせてはならない」という言葉が雄弁に語っています。
更には日本の国会では首相が「TPPが頓挫した場合はRCEPに軸足を移さざるを得ない」と発言しており、アメリカからすれば日本を中国の経済圏に取り込まれるか否かの瀬戸際だったわけです。
時間はアメリカの敵であり、日本や他の加盟国に有利に働きました。その結果がアメリカ不利のTPPです。
とは言え、過ぎたるは及ばざるがごとくで結局アメリカに離脱されてしまいました。

日米貿易協定は物品の交渉を終え、次のフェーズに移ろうとしています。今度は腕力外交とでも言うべきトランプ大統領が相手ですので一筋縄ではいかないでしょうが、何とか踏ん張ってほしいですね。