イギリスがTPPに加入した場合の日本への影響 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

イギリスの総選挙でボリス=ジョンソン氏が率いる保守党が単独過半数を獲得する勝利を納めました。前々からジョンソン氏はEUからの離脱について「いかなる延長もせずに離脱する」と主張していましたので、来年の早々にイギリスがEUから離脱する可能性が高まったと言えるでしょう。
前々から言及していましたが、安倍総理は保守党の勝利を受けて改めてジョンソン首相のもと、TPPに英国参加なら心から歓迎すると述べています。
なおイギリスは太平洋に自国領(ピトケアン諸島)を保有しているため、環太平洋と強弁することはできなくもないです。それがなくても例えば大西洋と全く関係ないトルコがNATO(北大西洋条約機構)に加入してたりしますし、それほど問題はありません。

仮にイギリスがTPPに加入した場合、日本はどのような影響を受けるでしょうか。
①非貿易分野
TPPは日本国内にとっては関税など貿易関連以外では以外はほぼ影響のない形で決着しましたので、イギリスが加入しようとこれは何も変わりません。(参考:過去記事[日本に有利すぎたTPP]
イギリスも特に外資規制は残っておらずTPPに加入したところで両国とも大きな影響はないものと思われます。
②貿易分野
現在の日英貿易の主要品目は輸出入ともに自動車・原動機(エンジンなど)が1.2位となっています。とは言え日本の自動車市場は国産車が9割以上の圧倒的シェアを閉めており、10%に満たない外車シェアも半分以上がドイツ製で、日本の自動車市場全体におけるイギリス産の自動車は1~2%と非常に小さいものです。日本はすでに自動車の輸入関税を撤廃していますので、イギリスがTPPに加入しても日本の輸入が増えることはほとんどないでしょう。
逆にイギリス自動車市場における日本車のシェアは10%の関税がかかっている現在でも10%前後であり、TPPにより関税が撤廃されれば更なる輸出拡大が見込めます。
また、イギリスは日本と違って自国産の自動車シェアが15%以下と低く、市場シェアの約7割をEU諸国からの輸入が占めているため、EUからの離脱により関税が復活した場合にはTPPによる関税撤廃の効果と合わさり、日本車は非常に大きなチャンスを得ることになります。
日本にとってTPPでは農畜産物の輸入拡大が懸念されていましたが、イギリスは農業国ではないのでこれも特段の懸念はないでしょう。
③TPPにおける主導権争い
現在のTPPはアメリカが抜けた後日本がまとめ上げたものであり、日本が主導権を握っている状態ですが、TPP参加国にはイギリス連邦の国が多いためイギリスが主導権を握る可能性があります。
流石にこれはどれほどの影響があるのか未知数と言わざるを得ません。EUを離脱したイギリスがまたEUのような枠組みを作る可能性は低いと思われますが、常に警戒が必要でしょう。

総論としては、イギリスのEU離脱条件次第ではありますが、現在の枠組みを前提にするとイギリスのTPP加入は日本にとっては非常に有益な案件となるでしょう。イギリスは日欧EPAからも除外される(日欧EPAも猶予期間は設けられるかもしれませんが)ため、EUとの関税が復活するなど経済的に切り離された場合、世界的にも珍しい経済的に孤立した先進国となります。
日本としてはチャンスを逃さないようにしたいですね。

<2020年6月19日追記>
有り難いことに最近本記事をご覧くださる方が増えているようですので、関連記事を追記いたします。
お時間がある方は是非合わせてご覧ください。

さらにお時間のある方はこちらもご覧いただければ、より理解が深まるかと思います。

<2020年8月8日追記>
TPP加盟の前段階として日英FTAが大筋合意しました。
(2020/8/8)

<2020年10月23日追記>
日英EPAの署名式が行われました。
(2020/10/23)