日英EPA署名/日本とイギリスの立場の強弱 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

本日日英EPAの署名式が開かれ、来日している英国のトラス国際貿易相と茂木敏充外相が式典に臨みました。
ブレグジットにより今年の年末で日欧EPAに基づく優遇関税が切れますので、イギリスとEUとの交渉次第ではありますが、日英EPAが無ければ年明け以降に日英間で関税が上がる恐れがありました。

それでは日英EPAの内容はどのようなになるのでしょうか?
ほぼ日欧EPAをベースにして、微細な点に変更が生じた形ですね。

<日本からイギリスへの輸出品>
◯工業製品
100%の関税撤廃。
・日EU・EPAで獲得した即時撤廃を維持。
・追加的に鉄道車両・自動車部品等の即時撤廃を確保。
◯農林水産品等
主要な輸出関心品目について関税撤廃を獲得した日EU・EPAの内容を維持。
・輸入規制の撤廃(日本ワイン)や農産品・酒類GI(地理的表示)の保護を維持、全ての酒類の関税の即時撤廃を継続。

<イギリスから日本への輸出>
工業製品
100%の関税撤廃(日EU・EPAで即時撤廃したものを同様に即時撤廃)。
◯農林水産品
日EU・EPAの範囲内。
• 新たな関税割当ては設定せず(※)。
(※)チーズについては日EU・EPAの関税割当てに利用残が生じた場合に限り、それを活用できる仕組みを設定。
• 日EU・EPAでセーフガードが設定されている品目について、日EU・EPAの下でと同じ内容の
セーフガー ドを措置。

<その他>
◯原産地規制
EU原産材料・生産を本協定上の原産材料・生産とみなすことを規定。
◯電子商取引・金融サービス
・情報の越境移転の制限の禁止、コンピュータ関連設備の設置要求の禁止、暗号情報の開示要求禁止、ソースコード開示要求の禁止の対象にアルゴリズムを追加。
・金融サービスにおけるコンピュータ関連設備の設置要求の禁止を規定。
◯競争政策
・日EU・EPAの内容を維持しつつ、消費者保護に係る規定を追加。
◯ジェンダー(貿易と女性)
・女性による国内経済及び世界経済への衡平な参加の機会の増大の重要性を認めること等を規定。

ジェンダー規定など一部よく分からないものも含まれていますが、日欧EPAと比較すると日本からイギリスへの鉄道車両・自動車部品等の輸出関税が即時撤廃される分、日本に有利な協定となっています。
また、過去記事[日英FTA交渉が実質大筋合意]でも紹介しましたが、イギリスは8月の茂木外相の訪英に先立ち、NECや富士通がファーウェイに代わる調達先となる可能性に言及して手土産を用意し、訪英中には英製薬大手アストラゼネカ社から日本国内向けに1億2千万回分の供給を受けることで基本合意させる(アストラゼネカのワクチンは品質の雲行きが怪しくなってきましたが)など日英EPA外でも大盤振る舞いをしています。
何故イギリスがここまで必死なのか、それは難航を極めるEUとの交渉を少しでも有利に進めるためです。
イギリスは来年正式にTPPへの加入申請をすることを予告しましたが、『EUとの交渉においてイギリスの経済パートナーはEUだけではない』ということを示さなければ、孤立したイギリスはEUから苛烈な条件を飲まされることになります。
それを避けるためにTPPへの参加を現実のものとし、あるいは米英FTAを合意させることが必要になっているのです。


来年にはTPP交渉が始まるでしょうが、交渉におけるイギリスの立場は弱いため、貿易品について再交渉を行う可能性は低く、また貿易以外についても現行のTPPルールをそのまま適用することになるでしょう。

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