トランプリスクとバイデンリスク | 上下左右

上下左右

台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

アメリカ大統領選挙が差し迫ってきました。
過去記事[トランプ大統領がオバマ前大統領よりも日本に有益という風潮に異を唱える]から、私のスタンスを反トランプ/親バイデンと認識されている読者様がいらっしゃるかも知れませんが、私の判断基準は常に『日本にとって有益か否か』であり、両者のリスクを考慮したところトランプ大統領の勝利が願わしいと思っています。

◯通商政策
トランプリスクの最たるものはコレです。実際に日本はアメリカの拡大通商法第232条により『安全保障上の脅威』扱いされ、鉄鋼やアルミに高関税をかけられてしまいました。
しかし昨年日米貿易協定第一弾(以下日米TAGと呼称)が締結され、日米TAGが守られている限りは232条を適用しないと言質を取りましたので、この時点で232条リスクはほぼ解消されたと言ってよいでしょう。
また今後の日米貿易協定第二弾(以下日米FTAと呼称)以降の展望ですが、本ブログで何度か取り上げたように日本は精力的に外交を進め、下記のとおり日米FTAにおいて日本が有利になる土台を築き上げてきました。

①前述のとおり、日本が日米TAGを遵守する限り、日本に対して上記の拡大通商法第232条を適用しないとアメリカから言質を取る。
②ブラジルが盟主となっている関税同盟であるメルコスールとのEPAを進める。ブラジル大統領来日でメルコスールとのEPA進展か
③わずか4ヵ国しかいないメルコスール加盟国であるウルグアイからの牛肉輸入を19年ぶりに再開。ウルグアイ産牛肉、19年ぶりに日本向けに輸出される
④アメリカからのトウモロコシ250万トン追加輸入要請に対し、▲350万トン輸入減少で応える。トウモロコシ輸入実績
⑤④で減少した輸入トウモロコシをブラジルからの輸入で賄う(前年比+約390万トン、約6倍)

今日本はブラジルの牛肉を検疫の問題で輸入していませんが、ブラジルは世界最大の牛肉輸出国です。
日本は世界最大のアメリカ産牛肉輸入国ですが、日本がそんなブラジルから牛肉輸入を解禁すればアメリカの輸入牛肉が一気にシェアを奪われる可能性があるわけです。

①によって日米FTA交渉においてアメリカ最大の外交カードを封じ、②~⑤によってブラジル牛肉の輸入解禁を匂わせ『トウモロコシでできたことが牛肉でできないと思うかい?』と日本から圧力をかけている、というのが日米FTA交渉の現状であり、USTRのライトハイザー代表が日米FTAについては日本車の輸出に数量規制を設けないと明言するなどかなり日本に配慮していることが伺えます。


日本がどこの国と協定を結ぼうと日米TAGには反しませんし、実際にアメリカからのトウモロコシの輸入額は牛肉の約2倍ですから、本当にトウモロコシでできたことが牛肉でできない道理は無いんですよね。
そしてこの『外交カード』がより深く刺さる=日本にとって交渉を有利に進めやすいのは、南部に多くの支持層を持つトランプ大統領ということになります。バイデン氏が大統領になればアメリカのTPP復帰も現実味を帯びますが、今となってはそれほど意義があるとは言えません。

◯対中政策
今年カナダが中国とのFTA交渉を打ち切った際、単純にカナダと中国との関係悪化を原因と見る報道ばかりでしたが、今年の7月にUSMCA(改正NAFTA)が発効しており、私は中国との交渉打ち切りはこの協定の中に非市場経済国とのFTAを制限する旨の規定があることが最大の要因だったのではないかと思っています。
これは実質的に中国を狙い撃ちにした規定であり、アメリカ議会がこれを通すほどアメリカ国内の対中強硬論は高まっていますので、トランプ大統領は言うまでもなく、バイデン氏が大統領になったところで対中政策の方向性を変更するのはかなり難しいでしょう。

◯国内経済対策
バイデン氏は前々から富裕層および法人への増税を掲げています。さすがにコロナショックが落ち着くまでは増税しないと思いますが、長期的にはアメリカ経済を冷え込ませる可能性があります。
アメリカがくしゃみをすれば日本が風邪を引くと言われるように日本経済はアメリカ経済の影響を強く受けますので、バイデン政権が誕生すれば日本経済の低迷につながる可能性があります。

◯大統領選挙リスク
トランプ大統領の劣勢が日々報じられていますが、仮に投票結果でトランプ大統領が敗北しても本人がそれを認めない限りは新大統領が誕生しないのがアメリカです。
今回の大統領選は大量の郵便投票が予想され、すでにトランプ大統領は「不正の温床だ」と投票結果を認めないことを示唆(主張)していますので、トランプ大統領が選挙結果で敗れたとしてもすぐに敗北を認めることはまずないでしょう。そうなれば世界で最も影響力のあるアメリカ大統領が中々決まらずに世界的な政治の空白期間が生まれ、それこそ中国がコレ幸いと一気に傍若無人な振る舞いを進めることになりかねません。

バイデン氏にまつわる諸疑惑を考慮に入れなくとも今の日本にとってはバイデン氏の方がリスクが高く、トランプ大統領が再選した方が有益でしょう。

そのトランプ大統領は早期に退院したものの、新型コロナウイルスに罹患してしまいました。これが「大統領がコロナを恐れないのはすぐに最高の治療が受けられるからで、貧困層には命に関わる問題だ」と、新型コロナウイルスへの認識の甘さが貧困層の支持を損ねる結果に繋がりかねないと危惧しています。