こんばんは、今日もお疲れ様です。

2作目「Another Past―もし、過去をやり直せるとしたら―」いかがだったでしょうか?

の作品が、今まさに悪戦苦闘しながらも、全力で生きているみなさまの背中を押してくれるようなもの、あるいは、少しでも前を向いてやっていこうと思うきっかけみたいになってくれたのであれば、とても嬉しいです。

次回の作品については、まだ何も構想はありませんが、いずれ、お届けできればいいなと思います。

最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございます。

また、次回作でお会いできればと思います。
それでは。

また、いつか、どこかで 
2014.2.8 
藤川貴大

そんな感じで、お互いの近況報告もそこそこに、俺はずっと言えずにいたことを、ようやく絵玲奈に伝えることができた。

「そういや、高校のとき、噂になっていたんだよな。しかも、それがデマで。何ていうか、すまなかったな。気づいてやれなくって。力になってやれなくって。」

「小森君が気にすることじゃないわよ。あれは私の問題だし。」

そうあっけらかんと言った絵玲奈ではあったが、辛い思い出のある当時を振り返る彼女の瞳は、やはりどこか悲しそうなものであった。

「でも、そうね、あの当時は本当に辛かった。信じていた親友に裏切られ、誰にも信じてもらえず、自暴自棄な毎日だった。見返そうとして、無理に背伸びして、みんなよりも大人に見せようとしていて、また傷ついて…。この前、同じ状況で、小森君に助けてもらう夢を見たのよ。実際にはほとんど接点なかったのに、何か笑っちゃう。もし現実にそうなったら、きっと違う人生になっていたんだろうけどね。もっと素敵な、最初に思い描いていたような、楽しくて、きらきらした高校生活が送れたんじゃないかなって。」

俺は苦笑いしていた。まさか、パラレルワールドではそれが現実だと言っても信じてもらえないだろうし、夢になっていたということも、事情を知っている俺としては、何となく気恥ずかしい気もした。

「そんな、どん底で彷徨っている自分がたまらなく嫌で、私、アメリカの大学に行ったの。他の人みたいに、決して何か目標があって、というわけじゃなくて、とにかくあの時は、『今』から逃げ出したかったの。言葉の壁、いわれのない理不尽な差別、誰も頼ることができない孤独感、向こうでも色々あったわ…。」

当時の苦悩や葛藤を、包み隠さず彼女は俺に話してくれた。

「でも、変わりたい一心で、そこでもがいていた。そしたら、段々と、それ以上に楽しいことも増えていった。色んな人に会って、その中には、もっと波乱な人生を歩んでいる人もいて。彼らと一緒に過ごしていくうちに、考え方も変わってきた。向こうでの4年間で、自信を取り戻して、もう一度、自分の可能性を信じて、前を向いて生きてみようって思えるようになったの。だってそうでしょう、泣いても笑っても、人生は一度きりなのよ。だったら、過去に囚われて泣いているよりも、みんなが羨むくらいに、笑って過ごしたいじゃない!」

絵玲奈の力強い笑顔と、その前向きな言葉は、俺の心を少しだけ救ってくれたような気がした。今を全力で生きている彼女が、輝き眩しく見えた。

「へぇ、すごいよ。あんな辛い過去があったのに、そんな風に前向きに考えていけるなんて。尊敬できるよ。そういう姿勢って。」

それから、俺は本題を忘れて、もう少しだけ絵玲奈と話をしていた。そうこうするうちに、先ほどの秘書と思われる男性が、絵玲奈を迎えに来ていた。これからオンライン会議で、もう一本、外国企業との商談があるということだから、驚きであった。事実、よく見ると、彼女が頼んでいたものは、全てノンアルコールカクテルであった。

「さて、私、そろそろ帰るわ。ここの支払いと不具合解消のデータ送信、ちゃんと明日の昼までに頼んだわよ、迷チームリーダーさん!」

その言葉で、俺は我に返った。そうだ、クライアントにお詫びで来ていたんだと。絵玲奈との『再会』が嬉しくて、俺はすっかりそのことを忘れていた。

『あちゃあ、やっぱ知っていたし覚えていたか…。さすが外資系でバリバリのキャリウーマン…。俺と違って、全く抜かりないわ。』

そして、俺は手帳から1枚の写真を取り出すと、少しだけ笑った。

『相変わらずの毎日だけど、前と違って、少しは俺も、前向きに頑張ってみようと思うよ、みんな。』

それは、あの時から唯一もって帰ってくることが許された、別れ際に真人や絵玲奈たちと5人で取った、最後の写真であった。
指定された時間の5分前、外で車が止まる音がした。少し離れた入口からウエイターとのやりとりが漏れ聞こえてきた。どうやら、相手先が見えたようであった。

「専務、相手先の方がお待ちです。」

「分かっているって、あなたはちょっと外していて。1時間たったら迎えにきてちょうだい。」

相手先が見えると、すかさず、俺は今回の件についてお詫びの言葉を伝えた。

「すみません、今回の件については当方の不手際で…」

そこまで言ったとき、相手先から思いもよらない言葉が返ってきた。

「あれ、小森君じゃない!私よ、覚えてくれているかしら?」

「え…と…、ちょっと待ってください…。」

そう話す女性の顔に、正直、俺は見覚えがなかった。だが、彼女の目だけは、どこかで見た記憶があった。

やがて、出かける前に見た、相手先の名前を思い出し、1つの心当たりが浮かんできた

「え、絵玲奈か、もしかして!?」

「そうよ、高校以来だわね!」

思いもよらないめぐり合わせに、俺は驚きを隠せなかった。こちらの世界で、彼女が海外留学したことまでは分かっていたが、その後の足取りは全く途絶えていた。実に、およそ20年ぶりの再会であった。

本題についてはサクっと打ち合わせると、仕事のことは一旦ここまで、再会を楽しもうと絵玲奈が言い、彼女は飲み物と料理の追加注文をし始めた。

絵玲奈は留学先で知り合った相手と国際結婚をしていた。夫と一人娘の3人家族で、見せてもらった写真からは、絵玲奈の家族が暖かい家庭を築いていることが伝わってきた。

世界中を飛び回っていても、できるだけ連絡を取るようにし、休日と祝日は娘と一緒に過ごすようにしていると、絵玲奈は話してくれた。彼女の今ある幸せは、家族の協力はもちろん、並々ならない絵玲奈自身の努力の賜物であると思った。
「いらっしゃいませ。おー、亮介か!もう体調は大丈夫なのか?」

「久しぶり、とりあえずはな。胃薬くれ、いつものやつ。」

「また外回りついでに顧客先でお叱りか?相変わらずだな。」

「うるせーよ。」

こちらの世界で、真人はドラッグストアの薬剤師をしていた。研究職を志し、大学院まで進みはしたが、研究で無理を重ねたことが災いし、体調を崩したため、研究職からの進路変更を余儀なくされたのであった。

「それでも、18年間やってきたんだな、お前。高校の頃からずっと希望していた、金融の世界で。」

「真人だって薬剤師で、立派に大黒柱になっているじゃないか。来月からは関東一円で、統括エリア長になるって言うし。すごいよ。」

「ははは。それでも、憧れていた医療薬学分野での研究職に未練が無いって言ったら嘘になるよ。あの時、最終選考直前に、体さえ壊していなければって、ふとした時に考えたりするし。」

そう話す真人の表情は、流石に少し寂しげであった

「それでも、今の仕事を頑張って、家族を守るって決めたから、今はそれに向けて頑張るだけだよ。ほら、胃薬。用法・用量守って正しく飲めよ。」

「分かってるよ。じゃあな、ありがとな。」

受け取った胃薬を服用し、この後に備えると、俺は重い足取りで待ち合わせの場所に向かった。出てくるのはため息ばかりであった。
目が覚めてから1ヶ月、精密検査を受けた後、異常が無いことが確認された俺は、3ヶ月ぶりに、再び日常に戻っていった。

未来と時也からは、向こうの世界では、俺は最初から存在していなく、明日香は一人っ子ということになっているが、真人と絵玲奈にだけは、今回の一連の出来事が記憶に残されているという連絡を受けた。そして、それぞれの人生を前向きに生きていると聞いた。

少し寂しい気もしたが、ほっと一安心もしていた。そして、2人と会うのも、これが最後であった。

「さて、生まれ変わった小森亮介を、存分に見せつけるぞ!」

そう意気揚々に、俺は久々に会社へ向かった。

3日後、俺はチーフの席の前にいた。プログラムが一部異なっており、想定していたとおり稼動しなかったため、先方からの問い合わせがあったのだ。原因は、上司であるチーフ・平上の設計ミスであった。しかし、俺が実際の作業を行っていたため、

「良く確認すれば気づくはず、お前のミスだ!」

と散々言われていた。

新規に契約を結んだ、大口の顧客であったため、直接お詫びに伺うことになった。先方からの希望により、場所は都内のダイニングバーで、経費はこちら側の負担でという運びとなった。社長は自身が単独、または平上と2人でと提案していたが

「小森君にも、こうした交渉を一人で解決する経験させたほうがいいと思う。」

と平上が進言したことで、俺が一人で行くこととなった。結果としてみれば、厄介ごとを押し付けられた形だ。

「すまんな、小森。頼むな。」

社長のその言葉が、せめてもの救いであった。やれやれといった思いで、俺は外回りに出た。相手側の対応者は外国人のようであり、俺は考えるだけでも気分が滅入ってきた。

緊張で胃が痛くなってきたため、途中で胃薬を買おうと、近くのドラッグストアに入った。