そんな感じで、お互いの近況報告もそこそこに、俺はずっと言えずにいたことを、ようやく絵玲奈に伝えることができた。
「そういや、高校のとき、噂になっていたんだよな。しかも、それがデマで。何ていうか、すまなかったな。気づいてやれなくって。力になってやれなくって。」
「小森君が気にすることじゃないわよ。あれは私の問題だし。」
そうあっけらかんと言った絵玲奈ではあったが、辛い思い出のある当時を振り返る彼女の瞳は、やはりどこか悲しそうなものであった。
「でも、そうね、あの当時は本当に辛かった。信じていた親友に裏切られ、誰にも信じてもらえず、自暴自棄な毎日だった。見返そうとして、無理に背伸びして、みんなよりも大人に見せようとしていて、また傷ついて…。この前、同じ状況で、小森君に助けてもらう夢を見たのよ。実際にはほとんど接点なかったのに、何か笑っちゃう。もし現実にそうなったら、きっと違う人生になっていたんだろうけどね。もっと素敵な、最初に思い描いていたような、楽しくて、きらきらした高校生活が送れたんじゃないかなって。」
俺は苦笑いしていた。まさか、パラレルワールドではそれが現実だと言っても信じてもらえないだろうし、夢になっていたということも、事情を知っている俺としては、何となく気恥ずかしい気もした。
「そんな、どん底で彷徨っている自分がたまらなく嫌で、私、アメリカの大学に行ったの。他の人みたいに、決して何か目標があって、というわけじゃなくて、とにかくあの時は、『今』から逃げ出したかったの。言葉の壁、いわれのない理不尽な差別、誰も頼ることができない孤独感、向こうでも色々あったわ…。」
当時の苦悩や葛藤を、包み隠さず彼女は俺に話してくれた。
「でも、変わりたい一心で、そこでもがいていた。そしたら、段々と、それ以上に楽しいことも増えていった。色んな人に会って、その中には、もっと波乱な人生を歩んでいる人もいて。彼らと一緒に過ごしていくうちに、考え方も変わってきた。向こうでの4年間で、自信を取り戻して、もう一度、自分の可能性を信じて、前を向いて生きてみようって思えるようになったの。だってそうでしょう、泣いても笑っても、人生は一度きりなのよ。だったら、過去に囚われて泣いているよりも、みんなが羨むくらいに、笑って過ごしたいじゃない!」
絵玲奈の力強い笑顔と、その前向きな言葉は、俺の心を少しだけ救ってくれたような気がした。今を全力で生きている彼女が、輝き眩しく見えた。
「へぇ、すごいよ。あんな辛い過去があったのに、そんな風に前向きに考えていけるなんて。尊敬できるよ。そういう姿勢って。」
それから、俺は本題を忘れて、もう少しだけ絵玲奈と話をしていた。そうこうするうちに、先ほどの秘書と思われる男性が、絵玲奈を迎えに来ていた。これからオンライン会議で、もう一本、外国企業との商談があるということだから、驚きであった。事実、よく見ると、彼女が頼んでいたものは、全てノンアルコールカクテルであった。
「さて、私、そろそろ帰るわ。ここの支払いと不具合解消のデータ送信、ちゃんと明日の昼までに頼んだわよ、迷チームリーダーさん!」
その言葉で、俺は我に返った。そうだ、クライアントにお詫びで来ていたんだと。絵玲奈との『再会』が嬉しくて、俺はすっかりそのことを忘れていた。
『あちゃあ、やっぱ知っていたし覚えていたか…。さすが外資系でバリバリのキャリウーマン…。俺と違って、全く抜かりないわ。』
そして、俺は手帳から1枚の写真を取り出すと、少しだけ笑った。
『相変わらずの毎日だけど、前と違って、少しは俺も、前向きに頑張ってみようと思うよ、みんな。』
それは、あの時から唯一もって帰ってくることが許された、別れ際に真人や絵玲奈たちと5人で取った、最後の写真であった。
「そういや、高校のとき、噂になっていたんだよな。しかも、それがデマで。何ていうか、すまなかったな。気づいてやれなくって。力になってやれなくって。」
「小森君が気にすることじゃないわよ。あれは私の問題だし。」
そうあっけらかんと言った絵玲奈ではあったが、辛い思い出のある当時を振り返る彼女の瞳は、やはりどこか悲しそうなものであった。
「でも、そうね、あの当時は本当に辛かった。信じていた親友に裏切られ、誰にも信じてもらえず、自暴自棄な毎日だった。見返そうとして、無理に背伸びして、みんなよりも大人に見せようとしていて、また傷ついて…。この前、同じ状況で、小森君に助けてもらう夢を見たのよ。実際にはほとんど接点なかったのに、何か笑っちゃう。もし現実にそうなったら、きっと違う人生になっていたんだろうけどね。もっと素敵な、最初に思い描いていたような、楽しくて、きらきらした高校生活が送れたんじゃないかなって。」
俺は苦笑いしていた。まさか、パラレルワールドではそれが現実だと言っても信じてもらえないだろうし、夢になっていたということも、事情を知っている俺としては、何となく気恥ずかしい気もした。
「そんな、どん底で彷徨っている自分がたまらなく嫌で、私、アメリカの大学に行ったの。他の人みたいに、決して何か目標があって、というわけじゃなくて、とにかくあの時は、『今』から逃げ出したかったの。言葉の壁、いわれのない理不尽な差別、誰も頼ることができない孤独感、向こうでも色々あったわ…。」
当時の苦悩や葛藤を、包み隠さず彼女は俺に話してくれた。
「でも、変わりたい一心で、そこでもがいていた。そしたら、段々と、それ以上に楽しいことも増えていった。色んな人に会って、その中には、もっと波乱な人生を歩んでいる人もいて。彼らと一緒に過ごしていくうちに、考え方も変わってきた。向こうでの4年間で、自信を取り戻して、もう一度、自分の可能性を信じて、前を向いて生きてみようって思えるようになったの。だってそうでしょう、泣いても笑っても、人生は一度きりなのよ。だったら、過去に囚われて泣いているよりも、みんなが羨むくらいに、笑って過ごしたいじゃない!」
絵玲奈の力強い笑顔と、その前向きな言葉は、俺の心を少しだけ救ってくれたような気がした。今を全力で生きている彼女が、輝き眩しく見えた。
「へぇ、すごいよ。あんな辛い過去があったのに、そんな風に前向きに考えていけるなんて。尊敬できるよ。そういう姿勢って。」
それから、俺は本題を忘れて、もう少しだけ絵玲奈と話をしていた。そうこうするうちに、先ほどの秘書と思われる男性が、絵玲奈を迎えに来ていた。これからオンライン会議で、もう一本、外国企業との商談があるということだから、驚きであった。事実、よく見ると、彼女が頼んでいたものは、全てノンアルコールカクテルであった。
「さて、私、そろそろ帰るわ。ここの支払いと不具合解消のデータ送信、ちゃんと明日の昼までに頼んだわよ、迷チームリーダーさん!」
その言葉で、俺は我に返った。そうだ、クライアントにお詫びで来ていたんだと。絵玲奈との『再会』が嬉しくて、俺はすっかりそのことを忘れていた。
『あちゃあ、やっぱ知っていたし覚えていたか…。さすが外資系でバリバリのキャリウーマン…。俺と違って、全く抜かりないわ。』
そして、俺は手帳から1枚の写真を取り出すと、少しだけ笑った。
『相変わらずの毎日だけど、前と違って、少しは俺も、前向きに頑張ってみようと思うよ、みんな。』
それは、あの時から唯一もって帰ってくることが許された、別れ際に真人や絵玲奈たちと5人で取った、最後の写真であった。