新国立劇場バレエ団「ジゼル」@オペラパレス | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

テーマ:

振付 ジャン・コラーリ/ジュール・ペロー/マリウス・プティパ

改訂振付/ステージング アラスター・マリオット

音楽 アドルフ・アダン

池田理沙子/奥村康祐/木下嘉人/山本涼杏/東真帆/石山蓮/飯野萌子

 

 毎度のことですが、キャスト違いのリピートはせず1回のみの観劇なので奥村くんの回を。彼もいよいよ40の大台に乗り、もしかしたら今の新国プリンシパルの中では最年長? 彼が踊る姿を観られる機会が減っていくと思うと、もう、1回1回が貴重です。それにしても今回の「ジゼル」、他の4ペアが2回踊るのに対して理沙子さん奥村くんペアは1回しか踊らないって、あからさまな差別を感じてしまいますね😠

 2022年に初演された、このアラスター・マリオット改訂振付版。私はこのジゼルが一番好きかも。振付や演出がとてもよく考えられていて、その世界観が「ジゼル」の物語に合っていると思うからです。その辺のことは最後にちょっと触れます。

 

 ジゼルを踊った理沙子さん、感情表現が随分うまくなったと思いました(←上から目線💦🙇‍♀️)。持ち味としての少女らしい可憐さや純粋さ、控えめな可愛らしさを発揮し、1幕の前半は軽やかに踊る。アルブレヒトに見せる恥じらいや、花占いに不吉を見て眉根を曇らせるところも丁寧。狂乱シーンは、その繊細さゆえに神経が麻痺し心が崩れていくのが納得でき、ウィリの気配を感じて視線を宙に彷徨わせるところなど、真に迫っていました。その演劇性とダンステクニックがピタッと重なるとさらに良いよねー(←エラそう💦🙇‍♀️)。

 2幕でのウィリは終始無機質な感じだったな。それが却って人外の存在を表していたかも。母性とか神聖さとか、そういう包み込むような慈愛はあまり見えず、アルブレヒトにひたすら恋心を注ぐ乙女のままだった。最後に地中に戻っていくところの寂しげな表情が胸を打ちました😢

 

 奥村くんのアルブレヒト苦労を知らずに育ったボンボン風だった😅 ジゼルとの逢瀬もあまり深いことまで考えていなくて、ジゼルが好きだから一緒にいたいだけという……相手への気持ちが愛であることに気づかない能天気おぼっちゃん😅。私は他のアルブレヒトを見てないので分からないのだけど、奥村アルブレヒトは隙があればジゼルにキスしようとしているのが笑える。スキンシップを求めるところに人懐っこさと同時に人恋しさもあるのかなと思ったり。で、バチルドが現れたことで突然に、自分がジゼルにしてきた事の重大さ、彼女への愛の深さを知るわけですが、そうなってからの狼狽と自責感がすさまじい。バチルドの手を取った時その向こうのジゼルを見て顔を歪め、婚約者として振る舞わなければならない自分の情けなさに絶望する彼の痛みが伝わってきました。

 2幕ではダンスの上手さが際立っていて、力尽きかけながら踊るところもエレガンスは失っていなかった。幻のジゼルと踊ることで心は癒されていくようだったけど、ジゼルが消えた後その墓に覆い被さる姿は、襲ってくる現実(ジゼルはいない、自分のせいで……)に押しつぶされたように見えました😭

 

 木下さんのヒラリオンカッコ良さの中に森番らしい粗野な感じを出していて(ジゼルの腕を掴む時の乱暴さとか、アルブレヒトとは大違い😅)理沙子ジゼルが惹かれない理由がわかる造形になっていましたね。ジゼルの家の前に花束を置く前に、肩に付いた埃を手でササッと払い、髪を(別に乱れていないのに)慣れた手つきでなでつけるという、一応身だしなみを整える芸が細かい。でもジゼル狂乱で深い後悔と罪の意識に苦しんでいて、性格は悪くないって分かるから辛い。2幕で登場したときの立ち姿はむしろノーブルで、悲しみと悔悛を背負った肩から背中のラインが切なかった。

 今回の発見はペザントPdDを踊った石山蓮さんで、きちんとしたテクニックがありダンスも伸びやかで見ていて気持ちが良く、溌剌とした雰囲気と相まって期待度大でした。

 

 演出と振付で好きなのは特に2幕、ウィリの存在がキリスト教以前の異教(土着宗教)のそれであることが表現されているところです。ウィリたちが輪になってミルタを囲むフォーメーションとか、ヒラリオンを輪の中に入れて翻弄するところとかね、とても呪術的。1幕で心を乱したジゼルが剣を手にして、自分を中心にして「魔法の円」を描くところはマリオット版でなくても見られるけど、あそこもオカルティズムを感じさせるところで、自分は今そういう世界(=ウィリの世界)に入り込んでいく、というのを示唆しているはずです。

 また、ヒラリオンがジゼルのお墓を訪れたとき、持ってきた花輪を十字架の下に置くのでなく、十字架の上から掛けるんだけど、そうするとそれがケルト十字になっていることに気づきました。ウィリとケルトの宗教とは関係ないけど、こうした造形にしたことで、あの場の異教的な雰囲気が強まりますね。そういうところ、とっても好き👍と思った次第でした。

 さて、7月の「ジゼル」ロンドン公演は全5公演とかなり強気の公演数。脇役も含め、どなたが踊るんでしょうか。観には行けないけど気になります。

 

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