先日、クローズアップ現代で、延命問題について取り上げられていました。

No.3199
2012年5月17日(木)放送

人生の最期 どう迎える? ~岐路に立つ延命医療~



文藝春秋でも同じ問題が。



■何のための医療、何のための延命か(渡辺淳一/松木康夫)
  大事なのは「生きる目的はどこにあるか」。
  医者に任せてばかりではいけない

・医療の進歩が不幸を運んできた
(pp.245-6)


医療が進歩すれば、単純にみんなが幸せになると思っていました。
しかし進歩は同時に悩みや不幸もいっぱい運んできましたね。
たとえば、高齢の男性ですが、定年後の二十年をどう過ごすか。
家庭には居場所もなく、みんな時間を持て余しています。
デパートや図書館はそんな男性でいつもいっぱいですよ。

また、一昔前まではお医者さんにすべてお任せでしたけど、
今は様々な情報が手に入り、選択肢があり過ぎます。
最善の治療を求めて医者を探せるようになったのは、時代の進歩と言える半面、
この治療でいいのかと悩み、どんな死に方をしたいかまで、
患者は自分で考えなくてはいけない時代になりました。

いわゆる「延命治療」の弊害も、現代医療の陰の部分として、よく指摘されていますね。
意識がない植物状態に陥っているのに点滴の管をつながれて生きている方や、
食べる力がなくなり、自分では意思表示ができないままに
胃ろうをつけられて生きている認知症の方がいますが、
そのような状態で生きていることは、本人やその家族にとって本当にいいことなのか。
悩み、迷われている方が大勢いらっしゃいます。
また、たとえば、七十、八十になって、全身に転移した癌が見つかったときに、
癌を切除するために何回も手術をしたり、抗ガン剤をどんどん打つのは、
本当にいい治療なのか。

医学が進歩したことで、医者も患者もその家族も
常にそのような問いを突きつけられるようになりました。
「いい医療とは何か」という問いは、結局のところ、
人間が生きる目的はどこにあるのか、という問題に帰着すると思います。

(中略)

そのことをしっかり考えておかないと、
何のための医療であり延命なのかを見失ってしまいます




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胃ろうを造設したりして、命を延ばしても、

そこまでして命を延ばす意味があるのだろうか、

かえって苦しみを延ばしているだけではないのか、という自責の念が生じかねない。


逆に、延命に反対しても、

延ばそうと思えば延ばせた命を、人間の手で、自分の判断で、

一人の人の命を縮めていいのだろうかと、これまた罪悪感さえ覚えてしまう。

どちらを選んでも、もやもやした、言い知れぬ気持ち悪さが残ります。

このモヤモヤの正体は何なのか?

命を延ばしても延ばさなくても、どちらを選んでもスッキリしない。



これは、「目的なき手段」の是非が議論されているからであり、

そこに答えが出ない、あるいはどちらを選んでも後味の悪さが残るのは、

手段が手段としての意味を持たないからであり、目的が不明瞭だからだと思います。


生きる手段としての、胃ろうや、抗ガン治療。

そして、私たちは、生きるために生きるのではなく、幸せになるために生きている。

その「幸せ」とは一体、何なのか?

「まだまだ生きていられる」という前提が通用しない時は必ず来る。

今はまだ若くて、健康で、元気な人にも。


体が動くなら、

あと○年は生きられるなら、

家族に迷惑かけないなら、

など、条件付きで命は尊いのではなく、

本来、生命は無条件に大切なもののはず。


そういう、「~たら」「~れば」の楽しみではなくて、

もっと根本的な意味での、生きる目的、幸せとは何なんだろうか?


それが、胃ろう問題を始めとした、医療、延命が突きつけている問題ではないでしょうか。





↓ぜひ以下の記事もご覧ください↓

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