そして、無治療の原発巣(水色)、無治療の転移巣(緑色)、何かが作用した後の転移巣(オレンジ色)について、遺伝子発現を比較しています。
何かが作用したとは、大腸がんでは5Fu系の抗がん剤を、乳がんでは内分泌療法剤を術後補助療法として投与しています。
肺がんでは喫煙が影響しているかを見ています。
ドライバー変異とは、発がんの原因や転移の原因になる遺伝子や、増殖、薬剤耐性等の悪性化に関する遺伝子変異です。
この研究では、原発巣と無治療(喫煙なし含む)の転移巣との間のドライバー変異の違いはほとんどありませんでした。
もう少し詳しく言うと、原発巣には薬剤感受性の高い細胞や薬剤耐性を獲得した細胞等が混在していました。
しかし、大半は薬剤感受性のあるがん細胞が占めていました。
無治療の転移巣は、その原発巣での大半の薬剤感受性のあるがん細胞に類似していました。
違ったのは、「転移に関する変異」くらいでした。
ところが、乳がんだけに関して言うと、術後補助療法として、内分泌療法を行なっていて、遠隔転移が出現してきた症例の54%で、薬剤耐性に関するドライバー変異が出現していました。
以前にブログに書いた以下の全く異なる研究と、比較してみます。
この研究では、局所進行乳がんに内分泌療法(レトロゾール)を投与すると、原発巣は、薬剤感受性のある上皮系優位から薬剤耐性を示すがん幹細胞系優位に、その50%が変化する事を示していました。
最初に示した研究結果と見事にほぼ一致します。
これらの知見をリンクさせ、私は次の様に解釈しています。
「ルミナルタイプ乳がんは、本来原発巣も、遠隔転移巣も、(無治療の場合)薬剤感受性の非常に高い乳がんが占めている。
特に転移巣では、薬剤感受性の高い乳がん細胞の比率が高い(場合によっては全ての細胞)。
ところが、内分泌療法±CDK4/6阻害薬を投与して生き残った乳がんは、そのおよそ半数の症例で、原発巣も転移巣も共に、治療抵抗性の高い細胞が優位に変化してしまう。」
これが最初の疑問に対する、現時点での私の考えです。
(あくまでも私個人の考えです。)