早期乳がんの術後補助化学療法として、TC療法が広く行われている様です。
「いる様です。」とはっきり明言しなかったのは、私が患者さんに勧めたことや、実際に投与したことが一度も無いからです。
私が患者さんに勧めない理由、それはbiology(生物学)から考えれば、治療効果が低いと推察していたから。
どんなに早期だろうが、ある程度進行していようが、患者さんからすれば、再発したく無い気持ちは同じです。
少なくとも私は、患者さんからそう感じとっています。
早期乳がんの中でも、ある程度再発リスクが高い方に、アンスラサイクリンを追加しなければ、再発予防効果は確実に低下します。
早期乳がんで比較的再発リスクが低そうな場合、例えば腫瘍が小さいとか、リンパ節転移が無かったり、リンパ節転移が少ないけれど、化学療法をやっておいた方が良さそう、と言う時に、多くの施設(医師)でTC療法が選択されている様です。
しかしその様な患者さんに化学療法をするのなら、私であればなおさらTC療法は選択しません。
そもそもその様な一見おとなしそうな、小さい乳がんやリンパ節転移の無い乳がんにもかかわらず再発してくるのは、相当悪性度が高いからです。
小さくて悪性度が低ければ、再発してきません。
患者さんは、自らの乳がんが早期に見えても、安心出来ず、どうしても再発したく無いから、化学療法を希望されるのだと思います。
本当に再発リスクが低いのであれば、TC療法をはじめ化学療法自体やる必要は無いと思います。
一見再発リスクが低そうに見えても再発してくる乳がんは、本気で叩かないとやっつけられない、本当に悪性度の高い乳がんです。
その様な乳がんは、治療効果の下がるTC療法のみでは、とても太刀打ち出来ない可能性が高いです。
であれば患者さんが、小さい乳がんでも再発する悪性度の高い乳がんを根治させたい、と言う希望を持たれて化学療法を選択をされるのであれば、やはりTC療法のみはお勧め出来ない、と言うことになります。
2023年4月15日に、私の考えが正しいことの裏付けとなる論文がEBCTCG(世界で唯一早期乳がんの統合解析をする権威あるグループ)よりThe Lancet(世界で非常に権威のある雑誌の一つ)に出ました。
Lancet 2023; 401:1277-92
https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S0140-6736%2823%2900285-4
この論文ではTC療法の様にタキサン系抗がん剤のみではなく、アンスラサイクリン(ドキソルビシン or エピルビシン)も併用すると、再発率が平均14%も低下することが報告されています。死亡率も12%低下すると報告されていました。
ルミナルタイプ乳がん(ER+乳がん)でもリンパ節転移0個の乳がんでも、同様にTC療法のみではアンスラサイクリン併用と比較して、再発率は高くなります。
2022年版のガイドラインにはこの論文は反映されていないので、TC療法の適応に関しては、2022年版のガイドラインは既に役に立ちません。
今後、おそらく早期乳がんにTC療法のみが選択される頻度は低下すると考えています(あくまで私個人の意見です)。
少なくともTC×4 サイクルを選択する意義は無くなってしまったと思います。
臨床試験をただ鵜呑みにするのではなく、生物学的根拠をしっかりと踏まえた上で、臨床試験結果を解釈していく姿勢が、とても大切であることを改めて感じました。