月ヶ瀬小春のブログ -99ページ目

もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第4話 ②

 数日後、病院の前にタクシーが止まり、中から高橋が下りてくる。高橋は病院の様子に戸惑いながら、廊下を歩いていく。すると、「第3処置室」と書かれた札が付いているだけの人気のない静かな廊下に出る。高橋は道を間違えたと思い、引き返そうとすると、第3処置室の扉が開き、中から医療スタッフが患者を乗せたベッドを押して出てくる。よく見ると、患者の顔には白い布がかぶせられていた。そのあとから女医が出てくる。
高橋:「横山・・・・」
 高橋は声をかけようとするが、ただならぬ雰囲気がが漂っていて、黙って見ているしかなかった。そんな高橋の背後から、看護師が声をかけてくる。
三村看護師:「高橋先生?」
高橋:「ええっ?ああ、三村君。久しぶりだね。」
三村看護師:「先生、お帰りなさい!」
岸本看護師:「高橋先生、お帰りなさい。」
高橋:「ああ、ただいま。」
 横山が高橋たちの声に気づき、振り向く。
高橋:「みんなに挨拶に行こうと思ったら、迷っちゃってね。」
三村看護師:「ここ、去年出来たばかりの新館だから、迷うのも無理ありませんね。ご案内します。」
岸本看護師:「先生は昨日帰国されたばかりなんでしょ。もっとゆっくり休まれたらいいのに。」
高橋:「向こうにいた時の癖かな、なんだかじっとしていられなくてね。今日はとりあえず挨拶だけでもと思って。」
三村看護師:「怪我一つなく無事に日本に戻られたんですから、あまり無理なさらないでくださいね。」
横山:「高橋君!」
高橋:「おお、横山。久しぶりだな。」
横山:「現地のことニュースで見たわ。大変だったわね。あなたは本当に医者の鑑よ。」
高橋:「それは言いすぎだろ。それよりもみんなに挨拶したいんだけど、建物が新しくなってて、迷っちゃったんだ。」
横山:「ああ、そっか。ここ、去年立て替えたばっかりだからね。いいわ。案内してあげる。でもその前にナースステーションに行きましょう。」
高橋:「ええっ!なんで?」
横山:「この病院のナースは、あなたのファンと、藤堂先生のファンの派閥があるのよ。だけどあなたが海外にいる間あなたのファンのナースたちの元気がなくてね。今行ったら、あの子たちきっと喜ぶわ。」
高橋:「俺、今日は挨拶に来ただけなんだけど・・・・・。」
横山:「いいからいらっしゃい。」
 高橋は横山に引っ張られてナースステーションに向かう。

もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第4話 ①

 ある病院の分娩室。1人の妊婦が陣痛で苦しそうにしている。
藤堂(男):「あともう少しだ。がんばって。」
 妊婦は苦しそうにしながらも藤堂の言葉にうなづく。
 院長室のドアが開き、院長が飛び出してくる。院長が向かった先には分娩室があり、中に入ると、その惨状に唖然とする。医療スタッフたちは、疲れ果てた表情で床に座り込んでいて、中には洗面台にうずくまり、スタッフに背中をさすられながら咳き込んでいる看護師もいた。妊婦の心電図は、平行線を描き、ピクリとも動かない。院長は胎児の様子を見るが、あまりにも無残な様子に目をそむける。
院長:「急いで妊婦と胎児を検査して原因を調べてくれ。」
藤堂:「最後の検診の時はあんなに元気だったのに。今度こそは大丈夫と思っていたのに。」
看護師A:「だから私、分娩室に入るのは嫌だったのよ。」
 と、看護師がぼやいた。
院長:「もう7年。続いているんだな・・・・。」
 分娩室から出てきた院長に男性が話しかけてくる。
山田:「先生。私の妻と子供は、どうなったんでしょうか。」
院長:「ああ、あなたは?」
藤堂:「この方は、さっきの妊婦の旦那さんです。今回のことは私から説明します。山田さんこちらへ。」
院長:「ああ、頼むよ。」
 藤堂の診察室では山田が藤堂の説明を受けていた。
藤堂:「私たちも最善を尽くしたのですが・・・申し訳ありませんでした。それで検査の結果なんですが、お子さんのDNAに異常が見つかりまして、さらに山田さんと奥様のDNAを調べましたら、2人のDNAに共通している部分が見つかりましてね。」
山田:「共通している部分ってどういうことです?」
藤堂:「つまり、あなたと奥さんは・・・兄弟である可能性が高いです。子供さんの件は、それによる遺伝障害が原因ですね。」
山田:「そんな・・・・・・。」
藤堂:「その・・・・・。話しにくいとは思いますが、何か思い当たることはありませんか?」
山田:「そう言われても・・・・・。まさか・・・・・。実は僕は、幼いころに両親が離婚しまして、その両親が経済的な理由で子供が育てられない、と言って親権を放棄され施設に預けられたんです。それが今回の事と関係があるんでしょうか。」
藤堂:「お話からすると、関係があるかもしれませんね。離婚した山田さんの実のご両親のどちらかが再婚し、その間に生まれた子供が山田さんの奥さんだった可能性があります。」
山田:「そうですか。おそらく、僕の実の父親の方かもしれません。僕の父・・・・・妻の父親は僕たちが知り合う3年前に亡くなりました。そして妻が初めて僕を妻の母親に紹介した時、妻の母親は僕を見て亡くなった夫にそっくりだと言って笑ってました。女の人って、長い間離れて暮らしていても自分で産んだ子供は解るって言いますよね。でも、妻の母親は、僕を見て笑っていたんです。それは、この事を意味していたんですね。妻も子供も、かわいそうなことをしてしまいました。こんな変な夫婦、私たちだけですよね。」
藤堂:「・・・・・それが、あなたたちだけじゃないんです。むしろ、増えているといった方がいいかもしれない。新聞やニュースなどでご存知かと思いますが、この7年、日本には1人も子供が生まれていないんです。」
山田:「ええっ!」

もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第3話 ⑦

 と、言いながらベビーベッドの中を覗き込んだ高橋は息を呑んだ。ベビーベッドで眠っていた赤ん坊の額には、もう1つ目が付いていた。高橋は、部屋のベビーベッドをすべて見て回るが、どの赤ん坊にも額に目が付いていた。
高橋:「・・・・・・どうして?」
水木:「着床前遺伝子治療で生まれてきた子供よ。」
高橋:「着床前遺伝子治療?」
水木:「子宮に着床する前の受精卵の遺伝子を調べて、先天性の障害や病気を持っている可能性があった場合、その遺伝子を正常な遺伝子と組み替えて健康な子供が生まれてくるようにするための治療よ。」
高橋:「じゃあ、どうしてこの子たちは・・・君は遺伝子治療の権威だろ?」
水木:「実験の時には本当に健康な子供が生まれていたのよ。だから、実用化しても大丈夫だと思った。病気や障害で苦しむ子供を助けられると思ったのよ。それで国の認可をもらって本格的に治療が始まったのよ。そしたら1年後に国の役人が私を訪ねてきたの。」
高橋:「国の役人?」
水木:「私はある場所に案内されたの。そこには・・・そこにあったのは、着床前遺伝子治療で生まれた子供の標本だった。」
高橋:「標本?」
水木:「中には、本当にこれが人間なのかと思うほどひどいものもあったわ。その部屋の奥で眠っていたのがこの子たち。人を助けるために考え出された治療法だと思っていたのに・・・。それで医者でいるのが怖くなって、病院には辞表を出してこの子たちとここに。」
高橋:「君が僕をここに呼んだのは?」
水木:「着床前遺伝子治療をやめさせたいのよ。でも、この子たちに何かあったらと思うと、心配で。」
高橋:「連邦裁判所に行くしかないんじゃないか。こんな恐ろしい事実をいつまでも隠してちゃだめだよ。」
水木:「国を訴えるってことよね。でも・・・。」
高橋:「大丈夫だよ。連邦裁判所は、訴えた人が身の危険を伴う場合は、身柄を保護してくれるらしい。」
水木:「本当?わかったわ。やってみる。」
高橋:「がんばれよ。」
水木:「うん。高橋君も、国境なき医師団の仕事、がんばってね。」