もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第3話 ③
そこに、園長と保母に連れられて1人の少年が幼稚園から出てくる。
園長:「ツヨシくん、元気でね。」
ツヨシがとても寂しそうな顔をする。
園長:「そんな顔しないの。あなたは1人ぼっちになるんじゃないのよ。これからあなたが行くところは、お友達がたくさんいる楽しいところよ。先生も遊びに行くから、待っててね。」
ツヨシ:「うん。」
園長:「じゃあ、この子をお願いします。」
保母:「わかりました。」
ヤスヒコ:「あっ、ツヨシくん。」
ヤスヒコがツヨシに駆け寄る。
ツヨシ:「ヤスヒコくん。」
ヤスヒコ:「ツヨシくん、どこに行くの?」
ツヨシ:「ヤスヒコくん、ばいばい。」
ヤスヒコと保母を乗せたタクシーが幼稚園を出ていく。
ヤスヒコ:「先生、ツヨシくんは、どこに行っちゃったの?」
園長:「ツヨシくんは、新しいお家に引っ越すことになったのよ。」
ヤスヒコ:「じゃあ、新しいお家はどこ?」
園長:「あとで教えてあげるから、タケルくんと一緒に遊んでいなさい。」
ヤスヒコ:「うん。」
ヤスヒコとタケルが幼稚園に入っていく。
増井の妻:「園長先生。さっきのツヨシくんって子は、どうされたんですか?」
園長:「ツヨシくん、ご両親が単珍赴任するというので、半年前からお預かりしていたしていたお子さんだったんです。そしたら、おとといご両親から離婚すると連絡がありましてね。2人とも経済的な理由で子供が育てられないということで親権を放棄しているので、それでツヨシくんは児童擁護施設に預けられることになったんです。」
増井の妻:「ええっ!」
園長:「この幼稚園は、通常の幼稚園の業務のほかに、単身赴任されるお母さんのために、長期でお子さんをお預かりする託児施設もやっていたんです。ところが最近、ツヨシくんのようなお子さんが増えてきてましてね。」
増井の妻:「まあ、ひどい。」
園長:「単身赴任を理由に子供さんを預ける親はいるのに、その後子供さんを引き取りに来る親は少ないんですよ。働くお母さんをサポートしようと思って始めた業務なのに。」
増井:「無責任な親ですね。」
園長:「でも、ツヨシくんはまだましなほうなんですよ。契約期間を過ぎても親が子供さんを引き取りに来ないので連絡先に電話したら、引っ越していて所在が分からなくなっている人がほとんどなんです。」
増井の妻:「先生、どうしてそんな親を叱らないんですか?」
園長:「・・・前任の園長が所在不明の親を探し出して、叱りつけたことがあるんですよ。その時は親が子供さんを引き取ったんですけど、次の日、その子供さんが殺されたというニュースが流れたんです。」
増井の妻:「かわいそうに。」
園長:「警察の調べでは、殺された子供さんは、ここに預けられる前、日常的に虐待を受けていたそうです。その時に、ここでお預かりしている子供たちも、もしかしたら、同じ環境にいたんじゃないかと思ったんです。それでこの子たちを預かっている間だけでもこの子たちの味方になって、ここを子供たちの居場所にしてあげることにしたんです。」
増井の妻:「そうだったんですか。」
園長:「でも正直、複雑です。長期でお預かりしている子供たちに笑顔が少ないんですよ。寂しい気持ちを隠しているみたいなんですよね。ツヨシくんもそんな子供でした。ヤスヒコくんは大丈夫ですか?ヤスヒコくんも、最近笑顔が少ないんですよ。」
ヤスヒコの母:「ええっ!ああ、あの子なら大丈夫ですよ。」
と、答えたヤスヒコの母だったが、その表情は暗かった。
もしかしたら実話になるかもしれない作り話 第3話 ②
ヤスヒコ親子の車が幼稚園に到着する。幼稚園では親子連れがそれぞれ挨拶を交わしていた。ヤスヒコはある親子を見つけて駆け寄る。
ヤスヒコ:「タケルくん、おはよう。」
タケル:「ヤスヒコくん、おはよう。」
増井の妻:「ヤスヒコくん、おはよう。」
ヤスヒコの母「聖子おはよう。昨日はごめんね。あのクッキー、本当は加奈子のために持ってきたものだったんでしょ。それなのにこの子がほとんど食べちゃって。ヤスヒコ、お礼を言いなさい。」
ヤスヒコ:「おばさんクッキーありがとう。」
増井の妻:「どういたしまして。私は久しぶりにみんなが集まるって聞いたときに、子供たちのおやつにと思って持ってきたクッキーだったのよ。加奈子のことは後から聞いたことじゃない。ねえ、ヤスヒコくん。クッキーおいしかった?」
ヤスヒコ:「うん!」
増井の妻:「そう。じゃあクッキーたくさん作って待ってるから、また遊びに来てね。」
ヤスヒコ:「うん!」
ヤスヒコの母:「これっ!ヤスヒコ!」
タケル:「ぼく、ケーキのほうがいいな。」
増井の妻:「ケーキは誕生日とクリスマスでしょ。」
ヤスヒコ:「タケルくんのおかあさんって、ケーキが作れるんだ。」
タケル:「そうだよ。」
ヤスヒコが寂しそうな顔をする。しかしヤスヒコの母親はそれに気付いていなかった。
もしかしたら実話になるかもしれない作り話 第3話 ①
ある家族の朝の食卓。妻は台所で朝食と子供のお弁当を作っていて、夫はテーブルで新聞を読んでいる。その向かい側で子供がパンを食べている。テーブルのそばにはテレビがあり、ニュースが流れている。
アナウンサー1:「目は口ほどにものを言う、とはまさにこのことでしょうか。先月10日埼玉県の山林で女性の遺体が発見された事件で、容疑者として逮捕された男が犯行を認めました。決め手となったのは2枚の写真でした。」
テレビには2枚の写真が映っていた。1枚はガラスの灰皿、もう1枚はある風景をバックに男女2人が映っていた。
アナウンサー2:「こちらがその写真です。一見、事件とは全く関係のない写真ですが、男女2人が映っている写真は女性の遺体が発見された場所と同じ場所で撮影されたもので、もう1枚は遺体から検出されたガラス片を復元した凶器と思われる灰皿です。」
アナウンサー1「警察はこの2枚の写真をスライドビューラーを使って容疑者に見せ、瞳孔測定器で容疑者の瞳孔の反応を見るという調査を行った結果、こちらの2枚の写真に大きな反応を示したため、容疑者を追及したところ、犯行を認めたということです。」
妻が夫にコーヒーを出すが、2人の会話はない。子供がその様子を寂しそうに眺めている。
アナウンサー1:「次のニュースです。3月に起きた池袋女性殺害事件の続報です。容疑者は被害者の女性に対しストーカー行為をしていた男が殺人の容疑ですでに逮捕されていますが、連邦裁判所は女性が殺害される直前までストーカー被害の相談を受け持っていた警察官に逮捕命令を出しました。」
アナウンサー2:「連邦裁判所によりますと、被害者の家族から、被害者は事件前警察にストーカー被害の相談をしていたが、事件性が低いということを理由にほとんど取り合ってくれなかったと言う証言を得たということです。このことから警察が迅速に対応していれば事件は防げたとして、警察の初動捜査のミスと判断し、逮捕命令を出したということです。」
ヤスヒコは、パンを少しだけ食べると、テーブルに置かれた箱の中からクッキーを取り出し食べ始めた。
ヤスヒコの母:「ヤスヒコ、クッキーばかり食べないでこっちを食べなさい。まだこんなに残ってるじゃないの。」
ヤスヒコ:「いらない。」
夫が新聞をかたずけ、玄関に向かう。
ヤスヒコの母:「あっ。あなた。晩御飯はどうするの?」
夫は何も答えず、出かけてしまう。
ヤスヒコの母:「そのぐらい教えてくれてくれたっていいじゃない。」
ヤスヒコはクッキーを食べ続けていた。そこに電話がかかる。
ヤスヒコの母:「もしもし。ああっ加奈子?昨日はごちそう様。ええ。わかったわ。じゃあ、家の前で待っててちょうだい。」
ヤスヒコの母が車を運転している。助手席には加奈子、後部座席にはヤスヒコが座っていた。
ヤスヒコの母:「重大発表があるから家に着てって言うから私、てっきりあんたが結婚するのかと思ったのよ。それがシングルマザーだなんでねえ。」
加奈子:「いいじゃない別に。いい相手が見つかれば、って思ってたけど、よく考えたら、子供なんて簡単に作れるのよねえ。」
3人を乗せた車が駅に到着する。
ヤスヒコの母:「今、一番大事な時なんだから、無理しちゃだめよ。」
加奈子:「大丈夫よ。じゃあまたね。ヤスヒコくん。」
加奈子は車を降り、駅に向かう。