月ヶ瀬小春のブログ -103ページ目

もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第2話 ⑤

 連邦裁判所の法廷は、部屋の中心にテーブルが置かれ、その横には大きなテレビ画面が置かれていた。テーブルには2人の裁判官が席についていて、その向かい側に被告人が席についていた。被告人の席には仕切りがあり、被告人の顔は裁判官の席からしか見えないようになっていた。
裁判官(男):「それでは裁判を始めたいと思います。被告人の罪は、今年4月に被告人が勤務していた病院で当時措置入院していた35歳の男性患者を安楽死させた殺人罪ですが、これは間違いありませんか?」
緒方(被告):「はい。間違いありません。被害者を安楽死させたのは私です。」
安藤:「ええっ!安楽死って殺人になるの?」
笹川:「日本じゃまだ認められてないんだよ。」
裁判官(女):「安楽死が殺人になることは知っていますよね。」
緒方:「はい、知っています。」
裁判官(男):「ではなぜ、被害者を殺害したのですか?」
緒方:「このまま被害者の治療を続けるのは、被害者には残酷だと思えたからです。被害者は事件を起こしてしまった事と、多重人格障害を患っていた事もあり、安楽死を希望していたんです。ですから治療はなかなか進まず、正直苦労していました。」
 
平川:「先生、僕を安楽死させてください。」
緒方:「何をばかなことを言っているんだ。病院というところは人の命を助けるところであって、人を死なせるところじゃないんだよ。」
平川:「先生は、僕がここに来た理由を知っているでしょ?僕は家族全員を惨殺した凶悪犯ですよ。たとえ治療を終えたとしても、僕は刑務所に入らなけらばならない。それならいっそのこと・・・・」
緒方:「そんな考え方をするのはやめなさい。事件を起こしたのはいちばん凶暴な人格「ビル」がやったことじゃないか。君のせいじゃない。」
平川:「それはわかっています。でも、次にまた「ビル」が出てきたら、取り返しのつかないことになる。早く僕を安楽死させてください。」
 
緒方:「毎日、こんなやり取りでした。そんな時にまた事件が起きてしまったんです。」
裁判官(男):「その時の状況を説明してもらえますか。」
緒方:「はい。あの日も私は被害者の治療をしていました。そのときにまた、被害者に「ビル」の人格が現れ、暴れだしたんです。私は突き飛ばされ気を失っていたようですが、駆け付けた看護師に起こされ、診察室を見ると、被害者の姿はありませんでした。私は、最悪の事態が起きたと思い、あわてて廊下に出ました。」

もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第2話 ④

 ある日、連邦裁判所に5~6人の男女の社会見学のグループがやってくる。それぞれが片手にガイドブックを持ち、珍しそうにあたりを見回しながらロビーを歩いている。
安藤(女):「うわー。連邦裁判所って、名前もすごいけど、建物も立派ね。」
笹川(男):「昔の裁判所と比べると、全然雰囲気が違うよ。」
梶田(男):「かっこいいよなー。」
増井(妻):「でも、裁判所なのに人が多すぎない?」
増井(夫):そうだね。」
柿沼(女):「ここ、社会見学ではダントツ1位の人気スポットなんですよ。」
安藤:「人気スポット?ここが?」
増井(妻)「じゃあ、このたくさんいる人たちも、社会見学の人?」
柿沼:「ええ。じゃあ行きましょうか。はぐれないようにして下さいね。」
 柿沼のグループは、パソコンがたくさん置かれた部屋にやってくる。
柿沼:「ここは連邦裁判所の資料室です。ここで行われた裁判の内容や調査資料が見られるんですよ。」
 資料室は人がいっぱいで、ほとんどのパソコンが使用されていたが、柿沼たちはなんとかパソコンを2台借りてデータを検索し始める。
増井(夫):「はあー。こりゃ凄い。過去の裁判の内容が詳しく書かれているぞ。」
笹川:「税金を私的に利用したとして、被告人の政治家、官僚全員を有罪とし、刑罰として被告人全員の全資産を没収し、アフリカ中央部の対人地雷埋設地帯で無期限の地雷除去作業を行うよう言い渡した。」
安藤:「えー。そんな刑罰があるんだ。」
梶田:「怖わー。」
安藤:「あっ、これ。初動捜査のミスで一般人を誤認逮捕した元警察官の被告人に、仮釈放なしの懲役30年だって。凄い。」
柿沼:「ああ、その事件ねえ。この裁判所が作られた頃、憲法や法律が一部改正されましてね。そのときに冤罪とか誤認逮捕した警察官も法的に裁かれることになったんですよ。だから、ここができた当時は警察官が逮捕されたニュースがしょっちゅう流れていましたよ。」
梶田:「わあ、これ、詐欺事件の裁判だけど、被告人は仮釈放無しの終身刑だってさ。」
笹川:「仮釈放無の終身刑だったら、ここにもあるよ。」
柿沼:「詐欺事件とか再犯率が高い犯罪は終身刑が多いんですよ。仮釈放も、今はまだ残ってるけど、そのうち廃止になるそうですよ。」
増井(妻):「こっちは子供を虐待して死なせた夫婦が10年間難民キャンプで労働だって。」
増井(夫):「怖いなー。」
増井(妻)「悪いことはできないわねー。」
柿沼:「犯罪被害者の意見の中に、生きて罪を償ってほしいとか、死刑は自分の苦しみから逃げているとしか思えないっていうものがあったんですよ。そしたら、判決投票の刑罰に地雷処理とか、難民キャンプの労働と書いた人が出て、それで定着していったみたいです。」
笹川:「柿沼さん、その判決投票ってなんですか?」
柿沼:「ああ、説明するの、忘れてましたね。この連邦裁判所の判決は、一般の人たちが有罪、無罪そして刑罰を投票して決めるようになってるんですよ。」
安藤:「へえー。おもしろそう。私も投票してみたいわ。投票用紙はどこにあるんですか?」
柿沼:「後でご案内しますけど、携帯やパソコンのメール、ファックス、でも受け付けていますよ。」
安藤:「便利ね。」
柿沼:「それよりもみなさん。そろそろ裁判の放送が始まるみたいです。行きましょう。」
梶田:「ここはそんなこともやってるんだ。」
 柿沼たちは、資料室の隣にある小さな映画館のような部屋に入っていく。その部屋も人が多く、立ち見の見学者がいた。
安藤:「凄い、立ち見の人がいるわよ。」
柿沼:「裁判の放送はここのCSチャンネルやネット配信で自宅でも見れるんですけど、ここに観に来る人が多いんですよ。」
 柿沼たちは、人ごみをかき分けるようにして席に座る。スクリーンには「判決投票の結果が出るまでの間、初公判のVTRをご覧くださいという字幕が出ていた。やがてブザーが鳴り、VTRが流れる。
 

もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第2話 ③

 別の相談室には坂村が座っていた。そこに女性裁判官が部屋に入ってきて坂村の向かい側に座る。そのあと男性裁判官が分厚い資料を読みながら部屋に入ってきて女性裁判官の隣に座る。
椎名(女):「いつもご苦労様です。坂村警部。」
坂村:「ああ、どうも。」
椎名:「なんだかお疲れのようですけど、大丈夫ですか?」
坂村:「そんなに疲れたように見えるかい?実はここに来るとき部下に、自分も一緒に裁判所に行くとか、俺1人で大丈夫かとか、さんざん言われたんだ。まるで子供扱いだよ。捜査にミスがなければ何も心配することはないのにね。」
椎名:「あら、それは大変ですね。」
坂村:「ここが設立された時、ここの捜査官の再捜査で誤認逮捕や冤罪が発覚して身内が大量処分されただろ。あれ以来、身内はここを怖がっているよ。お前、とんでもないものを作ってくれたな。」
大谷(男):「俺は司法に携わる人間として当然のことをしただけだよ。」
 
 5年前。ある裁判の法廷。弁護側の席には大谷、検察側の席には椎名、そして傍聴席には坂村が座っていた。椎名、裁判長、裁判員たちは驚いた表情で大谷を見つめている。
 この裁判の被告人は、数人の係員に取り押さえられながらも、今にも大谷につかみかかろうとしていた。
被告人:「この裁判を全部検察側に任せるだと!話が違うじゃねえか。おまえ、一体、何考えてるんだ!」
大谷:「妙だな。君、警察の取り調べでは意味不明のことを言っていたそうだね。私が君に面会した時もそうだった。この法廷に入る時も、君は精神状態に支障をきたしているような素振りをしていた。それがどうだ。今の君は私に対して怒りをあらわにしている。ということは君は私の言葉をはっきりと理解出来ているようだね。警察の資料と矛盾しているんだよ。どうしてかな。」
被告人:「それは・・・・。」
大谷:「それは?どうしたのかな。」
被告人:「それは・・・・。」
大谷:「どうやら君は、会話ができるようだね。だったら話を続けるよ。君の事件だけど、まったくひどい事件だよねえ。ほら見てごらん」
 大谷は犯行現場や、被害者の遺体の写真を被告人に見せる。
大谷:「この子は5歳、この子は8歳、それからこの子は3歳だった。これは君が起こした事件だよ。」
 被告人は顔をそむける。
大谷:「どうして目をそむけるんだい?これ全部君がやったことだよ。」
 被告人は震え始める。
大谷:「こんなひどい事をしてしておいて君は精神に支障をきたしたふりをして罪を免れるつもりだったのかい?でも、この子たちを殺害したことは事実だよね。」
被告人:「もう、勘弁してくれ、頼むよ。」
大谷:「もう一度聞く。この裁判に弁護士は必要ないよね。」
 被告人はうなだれ、係員に支えられて被告席に戻る。
大谷:「椎名さん、後のことはよろしくお願いします。」
 椎名はうなづく。傍聴にいた坂村は法廷を出ていく。
 
坂村:「おかげで誤認逮捕や捜査ミスはなくなったが、この事件だけはなあ。」
椎名:「少年法が廃止されたのに、こんな事件が起きるんですね。」
大谷:「被告人の年齢が気になるなあ・・・・・。」
坂村:「ああ・・・。俺はどうなっても構わん。とにかく徹底的に再捜査してほしいんだ。頼む。」
大谷:「ああ、わかったよ。」