月ヶ瀬小春のブログ -98ページ目

もしかしたら実話になるかもしれない作り話 第4話 ⑤

 高橋は、北病棟の病室をのぞいてみた。うつろな表情で病室を徘徊している患者、男のしぐさで男言葉を話す女性患者、女のしぐさで女言葉を話す男性患者、人形を赤ん坊のように抱き、その人形に話しかける男性患者、どの病室も異様な患者ばかりだった。
高橋:「俺も医者になって長いけど、こんな異様な病室は初めてだよ。」
横山:「でしょうね。私も正直怖いのよ。」
高橋:「横山・・・・・。」
 高橋と横山は、リハビリ室にやってくる。そこで高橋はさらに異様な光景を目にする。リハビリ室には数人の患者がいたが、どの患者も手には哺乳瓶や、赤ちゃん用のおもちゃが握られていた。それを見つめる横山の表情も暗い。
横山:「このリハビリ室にいるのは、自分の仕事を頑張りすぎた人。仕事を休まず働いて、体がぼろぼろになって、それでも働き続けて、それで心が壊れてここに入院してきたの。患者たちがおもちゃを持っているのは、「育て直し」っていうリハビリを受けているから。患者の精神を子供の頃まで戻して心の治療をしていくのよ。異様に見えるけど、治療法としてはこれが一番最適なの。」
 そこに車いすに乗った女性患者がリハビリ室にやってくる。それにいづいた横山が女性患者に駆け寄る。
横山:「おはよう。昨日はよく眠れた?」
 女性患者はうつろで悲しそうな眼をしていた。膝の上にはぬいぐるみが載せられ、両手首には包帯が巻かれている。しかし左手首の包帯は血がにじんでいた。横山はそんな女性患者を自分の子供であるかのように接する。
高橋:「横山、その患者は君の身内なのか?」
横山:「いいえ。」
高橋:「じゃあ、どうしてそこまで。」
横山:「この子がこんな風になったのは、私のせいなの。」 
高橋:「君が?どうして?」
横山:「この子、生後7ヶ月まで笑顔がない「サイレントベビー」だったの。そのことが今の自分の人生に悪い影響を与えているんじゃないかと心配して私のところにカウンセリングを受けに来ていたのよ。私、この子をカウンセリングしていて、両親に協力してもらって心の病気を治療した方がいいと判断してある時、この子の両親に来てもらったの。そしたらこの子、ひどく怯えだしてねえ。部屋の物を両親に投げつけて帰れ、帰れ、って。そしたらね。この子、この子ね・・・両親に「生まれてきて御免なさい。」って言って自分の手首を噛み切って自殺しようとしたの。」
高橋:「・・・・・・・。」
横山:「一命は取り留めたけど、目を覚ました時にはこの子は・・・・・。この子、両親には自分の心の病気の事は内緒にしていたみたいなの。それを私が余計な事をしたばっかりに・・・・・。この子、今まで生きてきた時間の中でたったの7ヶ月、笑顔が無かっただけよ。たったそれだけのことでこんなに悲しい爆弾を抱えてしまうのね。この子だけじゃないわ。北病棟にいる患者のほとんどが、寂しい環境で育った過去があるのよ。」
高橋:「寂しい環境、か・・・・・。」
 その時、女性患者が膝からぬいぐるみを落としてしまう。それを見た女性患者が怯えて泣き出す。
女性患者:「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」
 横山があわてて女性患者を抱きしめなだめる。
横山:「大丈夫、大丈夫よ。先生怒らないから、怒らないから。ね。おりこうさんだから、もう泣かないのよ。」
 高橋はぬいぐるみを拾い、女性患者の膝に乗せ、頭をなでる。リハビリ室からスタッフが出てきて女性患者をリハビリ室に連れて行く。高橋と横山が女性患者を見送っていると、 突然、悲鳴が聞こえてくる。

もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第4話 ④

 2人の様子に妙な雰囲気を感じる高橋に、男性患者が話しかけてくる。
松本:「先生、食事はまだですか?」
高橋:「ええっ!」
長崎看護師:「松本さん、食事はさっき済ませたでしょ。はい、病室に戻って。」
 長崎看護師が松本を病室に連れて行く。
高橋:「今の患者の症状、まさか・・・・」
三村看護師:「2人とも若年性認知症に患者です。入院して、もう3年になります。」
高橋:「若年性認知症って、あの2人、20代か30代ぐらいだよ。」
三村看護師:「5~6年前から若年性認知症を発症する年齢が若くなってきていて、患者の数も増えてきているんですよ。」
 驚いて声が出ない高橋のところに1人の男性患者が通りかかり、すれ違いざまに肩がぶつかる。
高橋:「あっ、すいません。」
柴山:「きゃあっ!何するのよ!今、私に触ったでしょ!」
 柴山は女言葉で怒り出した。高橋は唖然として言葉が出ない。
柴山:「ちゃんと謝りなさいよ!」
三村看護師:「柴山さん落ち着いて。病室に戻りますよ。」
 そこに横山と岸本看護師が駆け付ける。
横山:「一体、何があったの?」
高橋:「すれ違いざまに肩がぶつかったんだ。俺は誤ったんだけど、あの患者さんが怒り出してね。」
三村看護師:「高橋先生に病院の概要を説明してたんですけど、こんな事になってしまって。本当にすみません。」
横山:「そうだったの。あとは私がやるわ。」
三村看護師:「わかりました。あ、あの、横山先生。」
 三村看護師は横山に小声で話しかける。
三村看護師:「柴山さんのトラブル、これで8回目です。」
横山:「そう。レベル5になったら、私を読んでちょうだい。」
三村看護師:「・・・・・わかりました。」
岸本看護師:「柴山さん、病室に戻りましょうね。」
柴山:「この病院、どうなってるのよ!」
 三村と岸本に付き添われて柴山が病室に戻っていく。
横山:「高橋君、大丈夫?」
高橋:「ああ、なんとかね。」
横山:「あの柴山さん、性転換手術を受けた人なの。最初に私のところにカウンセリングを受けに来たときは女だったんだけど、突然行方をくらませて、半年前に入院してきたときは男になってたの。」
高橋:「ええっ!もとは女の人だったんだ。」
横山:「7年前に性転換手術に保険が適用されることになったの。うちの病院にも手術を受ける患者が毎日のようにやってきたわ。そしたら半年後、今度は男に戻りたい、女に戻りたいですって。いろんな病院に通い続けてどの病院も聞き入れてもらえなくてそれでノイローゼになってうちに担ぎ込まれてくるの。今じゃ北病棟は、そんな患者でいっぱいよ。」

もしかしたら実話になるかもしれない作り話 第4話 ③

 翌日、高橋が廊下を歩いていると、再び「第3処置室」の前に来てしまう。高橋が引き返そうとすると、第3処置室の扉が開き、医療スタッフが患者を乗せたベッドを押して出てくる。患者の顔には白い布がかぶせられていて、スタッフの後から横山が出てくる。
三村看護師:「高橋先生?」
高橋:「ああ、三村君。」
三村看護師:「また、迷っちゃいました?」
高橋:「あの、第3処置室って・・・・・。」
三村看護師:「そういえば、高橋先生に、この病院の概要を説明するのを忘れてましたね。私が案内します。」
高橋:「ああ、ありがとう。」
 しかし高橋は、「第3処置室」が妙に気になっていた。
三村看護師:「ここが外来です。」
 高橋は三村看護師に案内されて外来を見て回るが、高橋は妙なことに気づく。外来患者が多いはずの内科や外科は閑散としていて、心療内科の診察室には多くの人が順番待ちをしていた。
高橋:「心療内科は人が多いなあ。前に俺がいたときは、内科や外科の外来患者が多かったのに。」
三村看護師:「高橋先生もお気付きですか。時代の流れっていうんでしょうかね。心の病気を発症する人が年々増えていましてね。日本は想像以上にストレス社会が深刻化しているみたいなんです。」
高橋:「そうなんだ。」
 エレベーターから高橋と三村看護師が下りてくる。
三村看護師:「病床は全部で300床あって、こちらが南病棟です。あとで北病棟も案内しますけど、北病棟に入る時は、患者に気を付けてほしいんです。」
高橋:「患者に気を付ける?どういうことだい?」
三村看護師:「それが・・・・・。北病棟は、精神疾患で入院されている患者の病棟なんですけど、いろいろとトラブルが多いんですよ。」
 2人は北病棟に入る。そこで高橋は、うつろな表情で廊下をうろついている女性患者を見かける。
高橋:「どうしました?」
多田:「私のお部屋、無いの。どこ行っちゃったの?」
 患者の様子に高橋が驚いていると、
長崎看護師:「多田さん、多田さんの病室はここですよ。ほら。」
 と言って、目の前の病室に連れて行く。病室から出てきた長崎看護師は、三村看護師に小声で話しかける。
長崎看護師:「今のところ患者に問題はありません。」 
三村看護師:「わかりました。何か問題が起きたら、私か、横山先生を読んでください。」
長崎看護師:「はい。」