月ヶ瀬小春のブログ -96ページ目

もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第4話 ⑪

 第3処置室では柴山がベッドに寝かされていて、横山がその様子を見ていた。やがて柴山が目を覚ます。
柴山:「ここはどこ?私の病室じゃないわ。」
横山:「ここはね、特別な病室なのよ。それよりもあなた、高橋先生にした事覚えてる?」
柴山:「そうだ、先生。またあいつを見たの。あいつが私を殺しに来たのよ。どうして私を捨てたのって、殺しに来たのよ。先生、怖いよ。」
横山:「覚えてないんだ・・・。柴山さん。あなたがあいつって呼んでる人、誰だかわかる?」
柴山:「ううん。知らない。あいつ、誰?」
横山:「あの人はねえ、あなたよ。」
柴山:「私?」
横山:「手術を受ける前の、女だった時の本当のあなたよ。」
柴山:「じゃあどうして私を殺そうとするの?」
横山:「殺そうとしたんじゃないわ。彼女は怒っているの。本当の自分を捨てたあなたに怒っているのよ。あなたが手術を受る前、私あなたに何度も言ったはずよ。本当の自分も大切にしなきゃダメだって。あなたは今の自分ばっかり大切にして、本当の自分の事はほったらかしじゃないの。彼女が起こるのも当然だわ。彼女はね、ずっと前からあなたの心の中でとても寂しい思いをしていたのよ。」
柴山:「ごめんなさい。」
横山:「そうね。ごめんなさいを言わないといけないわね。本当のあなたと、お父さん、お母さんにね。あなたのお父さんとお母さんは、あなたが男になりたいって言ってたことにとても反対してたでしょ。」
柴山:「うん。」
横山:「それなのにあなたはそんな姿になって・・・。」
柴山:「そうだ。お父さんとお母さん、私がすごくかっこよくなってお家に帰ったらね、お父さんもお母さんも凄く泣いてたの。朝起きて、お家にお父さんとお母さんがいないから、私、探したの。そしたらね、お父さんとお母さん、お風呂で倒れてたの。血がいっぱい出てた。お父さんとお母さんはどこに行っちゃったの?」
横山:「柴山さん。あなたは今からお父さんとお母さんのところに行くのよ。それでね、お父さんとお母さんにごめんなさいを言うのよ。」
柴山:「うん。」
 横山は柴山に注射を打つ。
横山:「お父さんとお母さんが待ってるわ。」
 ほどなくして柴山が意識を失う。横山はもう1本注射を打つ。
横山:「こんな事しかできなくてごめんね。私たち、もう限界なの。ごめんね。」
 横山は柴山の前で泣き崩れる。

もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第4話 ⑩

院長:「何もかも、私のせいだな。」
高橋:「どういうことです?」
院長:「もう、25年になるか・・・・・。私は25年前に患者を殺したんだよ。」
藤堂:「院長!」
院長:「当時の日本では安楽死は認められていなかったから、私は殺人罪で裁判を受けることになった。裁判の結果、私は患者の魂を救ったとして無罪になったんだ。そして日本でも安楽死が認められるようになったんだよ。だが、本当にそれでよかったのかな。」
藤堂:「何を言っているんです。院長は、患者の意思を尊重したんです。医者として当然のことをしただけですよ。」
院長:「25年前だったらそんな理由が通るかもしれない。でも今の医療の現場はどうだ。病気を治療する場所というよりも、人を処分する場所になっているじゃないか。横山君が第3処置室に行く回数も増えているだろ。」
藤堂:「それは・・・・・・。」
院長:「高橋君、医者は何のためにいるのかな。」
高橋:「院長。」

もしかしたら実話になるかもしれない作り話 第4話 ⑨

高橋:「院長。」
院長:「高橋君大丈夫かね?」
高橋:「はい。大丈夫です。」
 そこに藤堂と横山が駆け付ける。
横山:「高橋君!」
 横山は高橋に駆け寄り、傷の応急処置をする。そこに医療スタッフがストレッチャーを運んでくる。警備員が柴山をストレッチャーに乗せ、病室に運ぼうとする。
横山:「待って下さい。その患者は第3処置室に運んでください。」
高橋:「第3処置室?」
 高橋は、第3処置室から顔に布がかぶせられた患者を乗せたストレッチャーが出てきたことを思い出す。
高橋:「横山、君は患者を・・・・・。」
横山:「高橋君は、気付いていたみたいね。あの第3処置室は、患者を安楽死させるための部屋なの。日本でも、安楽死が認められるようになったのよ。」
高橋:「それじゃあ、医者の手に負えない患者は殺せと言っているのと同じじゃないか!」
藤堂:「俺たちだって、治せる病気は治したいよ。でも、もう限界なんだ。」
高橋:「お前がそんなことを言ってどうする。」
院長:「高橋君、君は北病棟の患者を見たよね。彼らの中には、20年以上も入院している患者もいるんだ。」
高橋:「だから、患者を安楽死させるっていうんですか?」
横山:「入院してくるときは家族と一緒なのに、治療費や入院費用の事で家族と連絡を取ろうとしたら、その家族が音信不通で消息も分からなくなっているのよ。」
藤堂:「そんな患者の治療費は、国が負担してくれている。今、日本の病院のほとんどがうちと同じ状態なんだ。その国の負担も、そろそろ限界に来ている。」
高橋:「そんな・・・・・。」
横山:「高橋君、リハビリ室を見たでしょ。あの部屋にいた人たちはね、みんな、医者だった人たちなの。」
高橋:「なんだって!」
藤堂:「リハビリ室の人たちと、お前はまだましな方だ。俺と同期の医者は、患者に殺されたのもいるんだ。」
 院長は、とてもつらそうに話を聞いている。
長崎看護師:「横山先生、第3処置室の準備が整いました。」
横山:「わかりました。すぐに行きます。」
高橋:「待て!横山!」
横山:「ありがとう。高橋君。」
 横山は第3処置室に向かう。