実話になるかもしれない作り話 ショートショート「次世代型ゲーム機」①
或る時代、1つのゲーム機が開発された。そのゲーム機は、ゲームソフトの映像を、人の脳内に直接送り込むことができる機能を持っており、この時代では革命的な発明品として評価され、このゲーム機が発売されるや、あっという間に売り切れてしまった。ところが、ゲーム機の販売を開始して1ヶ月もたたないうちにこのゲーム機は、製造、販売を中止してしまう。
そのゲーム機が製造販売を中止する1週間前、こんな事件が起きていた。
その日、ゲーム機の会社では、業務開始直後から苦情の電話が鳴りやまずにいた。
社員A:「はい、はい。申し訳ございません。こちらで調べますので、しばらくお待ちくださいませ。はい、はい。失礼いたします。」
社員B:「社長、他のゲームソフトの会社からもいくつか苦情の電話が入ってます。」
社長:「ええっ!で、先方はなんて言っているんだ?」
社員B:「それが、どの会社からの苦情も同じ内容なんですが、ゲームのプレイ中に突然フリーズしたとユーザーから苦情の電話がかかってきたそうです。それでゲームソフトを調べたところ、うちのユーザーだったので、調べてほしいとの事でした。」
社長:「一体、どういう事なんだ。プログラムに問題は無いはずなんだがなあ。」
社員の1人が、自社のゲームソフトを見ていると、
社員C:「社長、これ、見てください。」
社長がコントローラーを動かしてみるが、ゲーム内のキャラクターの中に、何の反応も示さず動かないキャラクターがいた。
社長:「なんだこれ、全然動かないのがいるな。」
社員C:「これ、うちのプログラムじゃなくてユーザーですね。」
社長:「こいつもユーザーだな。このユーザーの連絡先を調べてくれ。」
社員B:「わかりました。」
ほどなくしてユーザーの連絡先がわかる。
社員B:「これがユーザーの連絡先です。」
そして、ユーザーに連絡を取ってみたが、
社員A:「だめです。連絡が取れません。」
社員D:「こっちもだめです。」
社員B:「私のところも電話がつながりません。」
社長:「どうなってるんだ。ああ、君、ユーザーの住所を教えるから、直接行ってきてくれないか?」
安藤:「はい。わかりました。」
安藤と社員2人がエレベーターに乗り、下に降りる。それと入れ替わるようにもう1台のエレベーターの扉が開き、中から坂村警部とその部下が下りてくる。
もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第5話 ⑦
椎名:「この施設の卒業、そしてあなたにもう1つニュースよ。妹さんのご結婚が決まったの。妹さんは、あなたが帰ってから式を挙げると言っているのよ。」
高橋:「本当ですか?」
椎名:「お父様も、おばあ様も、大変お元気よ。お父様はあの後、会社を退職して、海外勤務のない会社に再就職されたの。何かあったら、すぐに家族のもとに駆けつけることができるようにって。みんな、あなたの帰りを待っているのよ。」
高橋:「そうですか。早くみんなに会いたいです。」
大谷:「そうだ、これを君に渡しておこう。」
と言って、高橋に銀の懐中時計を手渡す。
高橋:「これを僕に?大谷さんの物じゃないんですか?」
大谷:「それは君のために作ったものだよ。」
高橋は懐中時計を不思議そうに眺める。懐中時計の文字盤の蓋には青いガラスがはめ込まれていて、時計の裏面には不思議な模様の装飾が施されていた。高橋は、文字盤を見る。
高橋:「大谷さん、この時計・・・・」
大谷:「その時計は特別な物でね。普通の時計として使うほかに、もう1つ、特別な使い方があるんだ。いつか君に、詳しい使い方を教えるよ。」
高橋:「はい、ありがとうございます。」
椎名:「さあ、そろそろ行かなくちゃ。みんなが待っているわ。」
高橋:「本当にお世話になりました。」
高橋は、大谷、椎名と握手する。
椎名:「元気でね。」
大谷:「いつか、うまい酒を飲もう。」
高橋:「はい。みなさんさようなら。」
大谷:「さようなら。」
椎名:「さようなら、高橋アキラくん。」
高橋の目の前の扉が開き、薄暗い部屋に光が差し込んでくる。扉の向こうは真っ白な空間だった。白い空間では、鳥の美しいさえずりが響いている。その時高橋は何を見たのだろう。高橋の眼は希望に満ちて輝いていた。高橋は歩き出す。やがてその姿は、白い空間の中に消えていく。
その様子を大谷と椎名が見送るように見ていた。大谷はおもむろに銀の懐中時計を見る。椎名も銀の懐中時計を見る。
大谷:「果たして彼は、間に合うのかな。」
と、つぶやく大谷の言葉に、
椎名:「ええ。きっと。」
と答えた椎名の笑顔はとても晴れやかだった。
大谷:「いかがだったでしょうか。『もしかしたら、実話になるかもしれない、作り話』。物語は暗いものが多かったですが、これはすべて作り話です。
でも、この物語が、あなたが今生きている世の中で現実のもの、『実話』になってしまったら、どうなるでしょう。この物語が『作り話』のままで終わるか、それとも『実話』になるか。
それはあなた次第ですよ。」
もしかしたら、実話になるかもしれない作り話 第5話 ⑥
大谷:「マシンの調子はどうですか?」
椎名:「もともと、ゲーム機として開発されたものを、特に安全面を重視して改良してあるので、今のところは問題はありません。マシンの起動時間と体験者の体調をこちらが管理していれば大丈夫かと思います。」
大谷:「そうですか。施設のパンクを防ぐために導入されたのはいいが、導入直後からフル稼働だからね。その辺は気を付けておかないと。」
椎名:「はい。」
高橋:「大谷さん。」
大谷:「やあ、高橋君、久しぶりだね。椎名さんも本当にご苦労様でした。私と椎名さんと2人で高橋君の再教育プログラムを進めていくはずだったのに、ほとんど椎名さんにまかせっきりになってしまったね。」
椎名:「そんな。気になさらないで。子育ては女の特権ですから。大谷さんは、しっかりサポートしてくれていましたよ。本当に助かりました。」
高橋:「大谷さん、今日はどうしてここに?」
大谷:「何言ってる。今日は特別な日だよ。」
高橋:「えっ?」
椎名:「そうよ高橋君。あなたのこの施設でのカリキュラムすべて終了しました。卒業よ。おめでとう。」
高橋:「あっ、はい。ありがとうございます。」
大谷:「卒業と言っておいてなんだが、君に宿題がある。」
高橋:「宿題?」
大谷:「そう。1つ目は、絶対にこの施設には戻らないこと。もう1つは、警察、消防署、と裁判所、そして医者が忙しい世の中にしないこと。それが君への宿題だ。」
椎名:「警察、消防署と裁判所が忙しいという事はどういうこと?」
高橋:「それは犯罪や火災が多くて、いざこざやもめごとが多い・・・。」
椎名:「そうね。じゃあ、医者が忙しいという事はどういうこと?」
高橋:「病気になる人が多い、ということですか?」
椎名:「なるほど。自分の家族が殺されたり大事なものが盗まれる。火事で家が燃えてしまって、住むところが無くなる。家族がひどい目に遭ったのは、この人のせいだって裁判に訴える。昨日は気分が悪かったから、あの病院に行きました。今日はお腹が痛いからこの病院に行きます。そんな人たちがたくさんいる世の中って、良い世の中だと思う?」
高橋:「決して、良い世の中とは思えませんね。」
大谷:「そうだね。警察、消防署と裁判所。そして医者が暇になる世の中にする。これが君への宿題。いや、約束だよ。」
高橋:「はい、わかりました。」
椎名:「言葉でいうのは簡単だけど、実行するのは難しいのかもしれないわ。でも、できない理由ばかり考えないで、できる理由を考える事。あなたにならできるわ。私たちの仕事が暇になって、お払い箱になるような、そんな世の中にしてちょうだい。」
高橋:「はい。約束は守ります。」
大谷:「楽しみにしているよ。」
高橋:「はい。」