月ヶ瀬小春のブログ -91ページ目

実話になるかもしれない作り話ショートショート 事後処理

 笹川がコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいる。新聞の一面には大きく「モンスターペアレントに判決」と書かれていた。笹川に妻にはこの記事が気になるらしく、朝食の準備をしながら笹川が読む新聞をちらちらとみていた。
笹川:「この事件がそんなに気になるのか?」
笹川の妻:「だって、同じ区内で起きた事件だったでしょ。それに、この事件がニュースになるちょっと前から、見かけなくなった人がいるのよ。」
笹川:「ええっ?」
笹川の妻:「近所の尾崎さんの奥さんよ。」
笹川:「ええ?・・・ああ、そういえば、最近、見かけないかな。」
笹川の妻:「買い物の時に、スーパーでよく見かけていたのに、急にぱったりと来なくなっちゃったんで、どうしたんだろうと思っていたのよ。そしたら、ニュースでその事件の事が出ていて、もしかしたら、と思って。」
笹川:「まさか。」
 その時、家のチャイムが鳴る。妻が玄関に出て扉を開けると、男性が立っていた。
笹川の妻:「尾崎さん!」
 その声に笹川も玄関に出てくる。
尾崎:「北海道に戻る前に、伺わせてもらいました。」
笹川:「北海道?」
尾崎:「本当は、何も言わずに向こうに戻ろうと思っていたのですが、子供が笹川さんのお子さんたちと仲が良くて、いろいろお世話になっていたこともあるので、笹川さんにはご挨拶しておこうと思って。・・・実は、今日の新聞の一面記事、私の妻の事なんです。」
笹川の妻:「やっぱり。」
笹川:「お前は、声が大きいだろ!」
尾崎:「妻は、5年間アフリカの難民キャンプでの労働だそうです。妻は、あの性格でこっちでも相当迷惑をかけていましたからね。当然だと思います。」
笹川の妻:「尾崎さんは?今、北海道とおっしゃっていましたよね。」
尾崎:「私は、北海道支社に転勤になりました。それで、向こうに家を買い、こっちの家は売ることにしました。子供たちは、長野県の農家に山村留学が決まり、現地の学校に通っています。今日は、残りの手続きのため、一時こっちの戻ることになったので、この機会にご挨拶に伺ったんです。」
笹川:「最近見かけないと思っていたら、北海道に引っ越しされていたんですね。」
尾崎:「ええ。でもこれはすべて、連邦裁判所の計らいなんです。」
笹川:「連邦裁判所の計らい?」
尾崎:「ええ。私の北海道への転勤、子供の山村留学、これ、連邦裁判所の人が考えてくれたことなんです。そして、北海道に引っ越すとき、妻を待っていてほしいと頼まれました。」
笹川の妻:「そうだったんですか。」
尾崎:「私も驚きました。妻が逮捕された時、今の仕事は断念するしかないと思っていました。ところが翌日、連邦裁判所の人が訪ねてきて、子供の山村留学先と、私の北海道支社への転勤の話をしてくれて、北海道で住む場所も教えてくれたんです。」
笹川:「裁判所がそんなことを。」
尾崎:「驚いたのはそれだけじゃないんです。」
笹川:「ええっ?」
尾崎:「妻が逮捕された3日後に子供が長野に引っ越して、私は1週間後に転勤先に引っ越しました。妻の逮捕がマスコミで報道されたのは、私たちが引っ越した後だったんです。ですから、子供たちもいじめに会わずに済んで、ほっとしています。」
笹川:「それも、連邦裁判所の計らいなんですかね。」
尾崎:「たぶん、そうだと思います。」
笹川:「奥さんを待っててあげてください。」
尾崎:「もちろんですよ。では、私はこれで。皆さんお元気で。」
 笹川が通勤のため駅に向かって歩いていると、車が近づいてきて笹川の前で止まり、中から柿沼が下りてくる。
笹川:「ああ、柿沼さん。」
柿沼:「時間なので迎えに来ました。」
 笹川は車に乗り込む。
笹川:「連邦裁判所もいきな計らいをしますね。」
柿沼:「被害者家族、加害者家族、1つの事件がきっかけでバラバラになるでしょ。裁判所の人たちは、長年、それを目の当たりにしてきた。連邦裁判所が設立された時、その辺も変えようと思ったんじゃないですか?」
笹川:「なるほどね。見学に行った時、裁判所は怖いところだと思ってたけど、イメージが変わりましたよ。」
柿沼:「連邦裁判所の判決内容や刑罰には怖いものが多いけど、本当は、裁判所とは一切関わらないでいてほしい思っているんですよ。考えてみてください。裁判所や、警察が忙しい世の中って、良い世の中とは思えないでしょ。」

実話になるかもしれない作り話ショートショート「患者とその家族」②

 浅井たちは、少女の冷凍カプセルの保存場所に向かう。
小野の妻:「私たち、娘にかわいそうなことをしてしまったんですかね。私たちは、娘を助けたかった。だから、冷凍保存をお願いしたんです。でも、こんなに長い間待つことになるとは思わなかった。こんな事になるなら、あの子と残された時間を大切に過ごせば良かったのかもしれない。最近、そう思うようになりました。・・・・・・あの子の声が聞きたい。」
 浅井たちは、地下室にやってくる。地下室は病院スタッフに忘れ去られたかのような寂しいところで、少女のカプセルが1つだけぽつんと置かれていた。
浅井:「こんな所で50年も・・・寒かったろうに・・・・・。」
 早速浅井はカプセルを運び出そうとする。
院長:「本気なのか、浅井君。」
浅井:「はい。すべて僕が責任を取ります。」
 そして浅井たちは、少女を無事に蘇生させる。
院長:「やったぞ!」
浅井:「よかった・・・・・。小百合ちゃんだったね。今すぐ、会ってほしい人がいるんだ。一緒に来てくれるかな。」
小百合:「うん。」
 浅井は少女を連れて老夫婦の自宅に向かう。
小野の妻:「小百合・・・・・・・。」
 ベッドに寝ていた夫も苦しそうにしながらも
小野:「小百合・・・・・・・・・」
老夫婦は少女を抱きしめる。
小野の妻:「小百合、会いたかった。会いたかった。」
 少女は老夫婦を見てきょとんとしている。
小野の妻:「あなたが帰かってくるのを待っている間にこんなに年を取ってしまったから、わからないかもしれないわね。私たちは、あなたのお父さんとお母さんよ。」
小百合:「お父さん、お母さん。」
小野の妻:「そうよ。長い間、冷たいところに閉じ込めてごめんね。」
小野:「小百合、小百合・・・。もう、会えないと思っていた。先生、ありがとう、ありがとう、・・・ありがとう。」
 小野が握手を求めて浅井に手を伸ばす。浅井がその手を取ろうとすると、小野が力尽きる。
浅井:「小野さん?」
小野の妻:「あなた、あなた!」
 浅井は小野の脈を診るが、首を横に振る。
小野の妻:「あなた・・・・・。」
 小野の妻が泣き崩れる。
浅井:「小野さん。そろそろ小百合ちゃんを病院に戻さないと。」
 しかし、小野の妻は少女を抱きしめ、
小野の妻:「いいえ。この子は病院には戻しません。」
浅井:「小野さん。」
小野の妻:「あんな冷たいところに娘を閉じ込めるなんてできません。」
浅井:「でも。」
小野の妻:「この子をまた冷凍保存しても、病気の治療法が見つかるのはいつになるのかわからないんですよね。たとえ見つかったとしても、その時には私はもうこの世にはいないでしょう。この子をもう2度と1人ぽっちにはしたくないんです。私はもう長くありません。この子も難病で長く生きられないのなら、残された時間を一緒に過ごしたいんです。先生、お願いします。」
浅井:「わかりました。」
 その時、少女が激しく咳き込み、倒れる。
小野の妻:「小百合!小百合!」
浅井:「急いで病院に運び、治療したのですが、少女は息を引き取りました。検査の結果は肺炎でした。私のした事は、無謀な事だったかもしれません。でも私は、ご夫婦の力になりたかった。あのままご夫婦を見過ごすわけにはいかなかったんです。」
 連邦裁判所の映像室では増井の夫が浅井の裁判の様子を見に来ていた。その横にある人物が座る。
増井の夫:「ああ、柿沼さん。今日は時間切れだなんて言わないで下さいよ。」
柿沼:「大丈夫ですよ。時間は十分にとってありますから。」
 スクリーンには「判決投票の結果が出ました」という字幕が出て、そのあと法廷内の映像が映る。
裁判官(女):「判決投票の結果が出ましたので、本日は被告人の有罪無罪、そして刑罰が言い渡されます。」
裁判官(男)「それでは結果を見ましょう。」

実話になるかもしれない作り話 ショートショート「患者とその家族」①

 その日、医師の浅井は自身が勤める病院のエントランスロビーで1組の老夫婦を見かける。老夫婦は途方に暮れた様子でロビーの椅子に座っていた。見かねた浅井は、老夫婦に話しかける。
浅井:「どうしました?」
小野の妻:「この病院に娘が入院しているはずなんです。」
浅井:「入院しているはず?どういうことです?」
小野の妻:「その・・・。何と言ったらいいのか・・・。とにかくこれが娘が入院した時の書類です。」
 と言って、妻が浅井に書類を見せる。
浅井:「確かにうちの病院ですけど、これ、50年前の日付じゃないですか。」
小野:「娘が患った病気は何十万人に1人という難病だそうです。その当時は治療法がないので、将来、医学が発達してその病気の治療法が見つかる日が来るまで、娘は冷凍保存されることになったんです。」
浅井:「そういうことでしたか。」
小野の妻:「いつの日か娘は帰ってくる。そう信じて待っていました。でも、もう時間がないんです。」
浅井:「ええっ?」
小野の妻:「主人が末期のガンで。余命はもう1ヶ月もありません。その前になんとか娘に遭えればと思いましてね。それで、主人とここに来たんです。」
 午後、浅井はパソコンに向かっていた。
増井の夫:「浅井先生、何を調べているんです?」
浅井:「患者を探しているんです。」
増井の夫:「はい?どういうことです?」
浅井:「今朝、あるご夫婦に会いましてね。その後夫婦の娘さんがこの病院に入院しているらしいんです。」
増井の夫:「入院しているらしい?」
浅井:「ああ、その、娘さんは不治の病を患っていて、当時の医学では治療法がないという事で、将来医学が発達してその病気の治療法が見つかるまで冷凍保存されているそうなんです。」
増井の夫:「冷凍保存!」
浅井:「50年前の話です。」
増井の夫:「50年!」
浅井:「だめだ。見つからない。古いデータは残っていないのかな。」
 浅井は院長に相談してみた。
院長:「50年前に冷凍保存された患者?」
浅井:「院長はご存じないのですか?ご夫婦は確かにこの病院だと言っていました。書類も見せてもらいましたけど、入院手続きは確かにこの病院でしたよ。」
院長:「昔の患者のデータだったら、この病院のデータベースを見るしかないな。」
 浅井、院長と増井の夫が1台のパソコンと向かい合っていた。
浅井:「あった。ありましたよ。患者は、7歳・・・。こんな幼い子が、50年も・・・・・。」
院長:「この病気か。これは厄介だな。」
増井の夫:「50万人に1人と言われている病気ですね。」
浅井:「この病気の治療法は・・・。まだ見つかっていないのか・・・。」
院長:「50何人に1人の病気という事は、それだけ患者か少ないという事だから、治療法の研究も進まないわけだ。」
小野の妻:「今の医学では治療法がないからと、将来医学が発達して娘の病気の治療法が見つかる日が来るまで娘は冷凍保存されることになりました。でも、テレビや新聞で今まで治せなかった病気の治療法が確立されたとか、治療が難しかった病気に効くお薬が出来たっていうニュースを見ていると、娘は明日にも帰ってくるんじゃないかって思いました。そう思い続けて、気が付いたら、50年も経っていました。」
増井の夫:「確かに、今の医療の発達を見ていると、どんな難病も治療できるように思うよな。」
浅井:「この子の冷凍カプセルはどこにあるんですか?」
院長:「浅井君、どうするつもりだ?」
浅井:「この子を両親に合わせるんです。」
院長:「何、馬鹿な事を言ってる!この患者の病気は治療法が確立されていないんだぞ!」
浅井:「両親に合わせるだけです。そのあと、この子をカプセルに戻します。」
院長:「冷凍保存された患者が蘇生した事例もまだ無いんだぞ。」
浅井:「それは、今の医療技術ならできるはずです。」
院長:「しかし・・・・・。」
浅井:「とにかく時間がないんです。この子のカプセルの場所を教えてください!」
院長:「わかった。」