月ヶ瀬小春のブログ -88ページ目

実話になるかもしれない作り話ショートショート「償い」④

 1ヶ月後、真奈美は施設の仕事に慣れ、忙しい日々を送っていた。しかし外では、施設の環境や労働に耐えられずに自殺した人の遺体の処理が行われている。トラックも入ってきて、地雷に触れて死亡した人の遺体や、病気や怪我をした子供たちが運ばれてくる。施設を逃げ出した人は、翌日には遺体になって戻ってきた。施設に来たとき4人いた真奈美の部屋も、この時には真奈美1人になっていた。真奈美は働き続ける。そしてまた日本から施設での労働の刑罰を言い渡された日本人がバスに乗ってやってくる。
男性職員A:「ここが君たちの働く場所であり、住む場所でもある。」
 と、職員が説明する。
男性職員A:「この近くにはまだ処理されていない地雷がたくさん埋まっていて、ゲリラ化した兵隊たちもうようよいる。ここから逃げ出すことは考えない方が身のためだ。」
 真奈美の部屋に再び女性が入ってくる。しかし、1ヶ月もすると、部屋は真奈美1人になった。ある日、1人の女性が真奈美に話しかけてきたことがあった。
女性:「あんたさあ、よくこんな所で働けるねえ。逃げ出したいとは思わないの?」
真奈美:「逃げ出して、どうするの?どこに行くの?」
女性:「ええっ?」
真奈美:「パスポートもないのにどこに行けばいいのよ。この辺には地雷がたくさん埋まっているのよ。そんなんで、どうやって逃げるっていうのよ。」
女性:「それは・・・・・・。」
真奈美:「それよりもあなたは、どうしてこの施設に来ることになったの?」
女性:「・・・それは・・・。」
真奈美:「それは?」
女性:「裁判の、判決で言い渡されたから・・・・・・。」
真奈美:「そう。じゃあ、私と同じね。私、自分の子供を殺したの。それで裁判の判決でこの施設での労働を言い渡されたのよ。私がここに来たのは、ここで罪を償うため。あなたも私と同じ理由でここに来たのなら、逃げる事よりも、罪を償うことを考えたら?」
 その日の夜中、女性は施設を逃げ出し、翌日遺体になって帰ってきた。真奈美は働き続ける。
 そして5年後。真奈美の刑期が終わり、日本に帰る日が来た。
男性職員A:「5年間、本当にご苦労様でした。これをあなたに返します。」
 と言って真奈美にパスポートを手渡す。
真奈美:「ありがとうございます。」
 と、パスポートを受け取った真奈美だが、少し複雑な気持ちだった。数日後、真奈美はバスに乗る前に、京子たちに最後の挨拶をしていた。
男性医師:「ようやく日本に帰れるね。ご苦労様でした。」
真奈美:「本当にお世話になりました。」
京子:「良かったわね。真奈美ちゃん。元気でね。」
真奈美:「はい。いろいろありがとうございました。」
 真奈美はバスに乗ろうとするが、振り返り、京子の胸に飛び込む。
京子:「真奈美ちゃん。」
真奈美:「京子さん、私、やっぱり・・・・。」
京子:「真奈美ちゃん。あなたはね、日本に帰らなきゃいけないの。日本に帰って幸せにならなきゃいけないのよ。これは、約束よ。」
真奈美:「約束?」
京子:「そう、これは私と真奈美ちゃんとの約束。」
真奈美:「はい・・・・・。でも、もうちょっと、このままでいさせてください。」
京子:「もう、しょうがないわね。」
 京子はしばらくの間、真奈美を抱きしめていた。

実話になるかもしれない作り話ショートショート「償い」③

 昼の休憩時間。昨夜の騒ぎと施設の作業に慣れない真奈美は食事が喉を取らず、外で座り込んでいた。真奈美は深くため息をつく。そこに京子がやってくる。
京子:「私もここに来たときはあなたと同じだった。特に子供に馴染めなくてね。でも、食事だけはちゃんと取らないともたないわよ。あなた、昨夜から食事を取ってないでしょ。」
真奈美:「・・・はい。」
 2人が話をしていると、施設の子供たちが京子に近づいてくる。京子は子供たちと遊び始める。子供たちは手や足が不自由だったが、屈託のない笑顔で京子と遊ぶ。
男性医師:「こんな場所じゃ、慣れるのには時間がかかるもんだよ。」
 と、男性医師が真奈美の隣に座る。
真奈美:「先生・・・。」
男性医師:「ここに来たばかりの人は君のようになかなか仕事に慣れない人がいるよ。でも、自分がなぜここに来る事になったのか、それを考えたら、落ち込んでいる場合じゃないと思うよ。」
 真奈美は京子の言葉を思い出した。
京子:「私たちは逃げてはいけないの。ここに居るしかないのよ。その時が来るまではね。」
真奈美:「逃げてはいけない、その時が来るまでは・・・。」
男性医師:「え?」
真奈美:「京子さんが言っていた言葉なんです。」
男性医師:「京子さんが、そんなことを・・・」
真奈美:「はい。でも、その時が来るまでの、その時って、どういう事なんでしょうか。」
男性医師:「・・・たぶん、自分の罪の償いが果たせた時なんじゃないかな。」
真奈美:「自分の罪?」
男性医師:「京子さんは、君と同じように、罪を償うためにここに来たんだ。」
真奈美:「ええっ!京子さん、ボランティアの人じゃないんですか?」
男性医師:「ああ。京子さんは、自分の子供を虐待して死なせてしまったんだ。ここに来たのは、裁判所の判決でここで自分の罪を償うためだった。」
真奈美:「京子さんが・・・」
男性医師:「京子さんは、旦那さんと2人でここにきたんだ。だけど、2人ともなかなか仕事に馴染めなくてね。俺たちにもよく反発していたよ。ある時、旦那さんがここを逃げ出そうと言った。京子さんは、夫についていくことにした。その日の夜中に2人は施設を逃げ出した。そしたら、旦那さんが地雷を踏んでしまってね。」
 昨夜の光景が真奈美の頭をよぎる。
男性医師:「旦那さんは、京子さんの目の前で爆死したんだ。京子さんは1日中泣いていたよ。その時に京子さんの心境に変化があったようで、その後、子供たちの面倒を見てくれるようになって、他の仕事も進んでやってくれるようになったんだ。」
 京子が子供たちと楽しそうに遊んでいる。
男性医師:「あれから15年。今でも京子さんはここで働いてくれている。彼女には本当に感謝しているんだ。」
真奈美:「15年?京子さんの刑期って、そんなに長いんですか。?」
男性医師:「いや。京子さんの刑期は5年だった。でも、刑期が終わる直前、自分の罪の償いはまだ終わっていないので、ここに残ると言い出してね。そんなことを言う人は初めてだったから正直戸惑ったけど、でもいろいろ助かっていたこともあるんで、そのまま働いてもらうことにしたんだ。」
真奈美:「そうだったんですか。」
 そこに、杖をついた子供が近づき、真奈美に花を手渡す。
真奈美:「これを私にくれるの?・・・ありがとう、ありがとう。君はやさしい子だね。」
 真奈美は子供を抱きしめ、泣き出す。
真奈美:「私・・・子供を産んで、捨てたんです。妊娠したことを彼氏に相談したら、それは困るっていうから・・・中絶も考えたけど、そんなお金はないし、怖いから・・・それで病院で赤ちゃんを産んで、でも育てられないから、退院した時に赤ちゃんを公園においていきました。」
男性医師:「君が産んだ赤ちゃんは、どうなったの?」
真奈美:「・・・テレビのニュースで、公園で赤ちゃんの死体が見つかったって言ってました。テレビに映っていた公園が私が赤ちゃんを置いていった公園と一緒だったから、私、怖くなって警察に自首しました。」
男性医師:「君は、自分がした事について、今はどう思っているの?」
真奈美:「赤ちゃん、寒かっただろうな。怖かっただろうな。きっと私の事怒っているだろうな。私、本当に悪いことをしたんだなって思う。」
男性医師:「そう・・・・・。」
真奈美:「ごめんなさい。」
 真奈美は花をくれた子供を抱きしめ、ずっと泣いていた。

実話になるかもしれない作り話ショートショート「償い」②

 女性たちの仕事は、難民キャンプの子供たちの世話だった。施設の子供たちは無邪気に遊ではいるが、ほとんどが腕や足を無くした子供だった。別の建物には病気や重症の怪我を負い、寝たきりの子供もいた。
 作業中、爆発音が聞こえてくる。驚いた真奈美たちが様子を見に外に出る。
京子:「誰かが地雷に触れてしまったみたいね。ここではよく起きる事なのよ。」
 1日の仕事が終わり、部屋に戻った真奈美は、疲れと慣れない環境で気分がめいってしまい、すぐにベッドにもぐり込んで寝てしまう。夜中、真奈美は物音で目を覚ます。同じ部屋の女性が、ドアを開けて外に出ようとしていた。真奈美は女性に声をかける。
真奈美:「ちょっと、どこへ行くの?」
女:「あんたも一緒に来る?」
真奈美:「えっ?」
女:「ここから出ていくのよ。」
真奈美:「そんなの無理よ。パスポート燃やされちゃったじゃない。」
女:「大丈夫よ。」 
 真奈美と女が外に出ると、男が待っていた。
男:「こっちだ。」
女:「彼、私の連れなの。地雷処理の場所に行くとき、道をチェックしていて逃げ道がわかったっていうのよ。」
真奈美:「でも・・・・・・。」
 男と女がフェンスをよじ登る。しかしフェンスのすぐ横にはどくろの看板が立っていた。
真奈美:「そっちに行っちゃだめ!」
 次の瞬間、地雷が爆発し、逃げ出そうとした男女は吹き飛ばされてしまう。爆発音を聞いたスタッフと京子が駆け付ける。
京子:「大丈夫?怪我はない?」
真奈美:「京子さん。」
 真奈美は泣きくずれる。京子は真奈美を抱きしめ、
京子:「ここに来たとき、職員の人が妙な事はするなと言ってたでしょ。私たちはね、逃げてはいけないの。ここにいるしかないのよ。その時が来るまではね。」
 翌日。
真奈美:「あの・・・・・・。」
京子:「おはよう。・・・どうしたの?」
真奈美:「私、仕事していいんですか?」
京子:「ええ。もちろん。どうしてそんなことを聞くの?」
真奈美:「私、昨夜、逃げ出そうとしたのに、罰は受けなくていいんですか?」
京子:「そんなもの無いわよ。早く手伝って。」
真奈美:「はい。」
 真奈美は施設の仕事を手伝う。その間にも施設には傷ついた子供や、地雷の処理中に死亡した人の遺体が運ばれてくる。