月ヶ瀬小春のブログ -84ページ目

実話になるかもしれない作り話ショートショート「DNAは知っている」①

 病室では1人の老人が臨終の時を迎えようとしていた。そこに数人の男性が入ってくる。男性たちは、白衣に帽子とマスクを身に着けていた。
男性A:「手塚博士。」
 男性たちが心配そうに見つめる老人手塚は夢を見ていた。
 若かりし頃の手塚は、アメリカの病院で医師として働いていた。そんな或る日、部屋の扉が勢いよく開き、中から手塚が飛び出してくる。手塚が向かったのは分娩室だった。
 手塚が急いで分娩室に入ると、スタッフたちの白衣は血まみれで、全員疲れ果てた表情で床に座り込んでいた。妊婦はすでに死亡していて、妊婦の足元の壁には何かが激しくぶつかった血の跡が付いていて、床には肉片が落ちていた。手塚はあまりにも悲惨な様子に目をそむけ、辛そうにつぶやく。
手塚:「またか・・・・・・・・。」
女性スタッフA:「破水が始まった瞬間、血が噴き出してきて、私の肩をかすめて肉片が壁にぶつかったんです。」
男性スタッフA:「最後の検診の時は元気だったのに、破水が始まったとたん、重力に耐えられなかったように胎児がひしゃげてしまうんです。」
デビッド:「一体いつまでこんな事を・・・。もう17年も続いているんですよ。」
女性スタッフB:「陣痛が始まった妊婦を見て、今度こそはって思うけど、結局これでしょ。もう限界だわ。」
手塚:「家族には私が説明するよ。急いで妊婦と胎児を調べてくれ。」
 アメリカでは17年間、子供が1人も生まれていなかった。政府が対策を取っているが、思うように進まない。以来、手塚はほぼ毎日、妊婦の家族に検査結果を説明していた。
 診察室には女性が座っている。
手塚:「あなたがキャサリンさんの家族ということですが、キャサリンさんとは姉妹ですか?」
女性A:「いいえ。私は彼女のパートナーです。」
 と言って指輪を見せる。
手塚:「ああ、最近耳にする同棲夫婦というやつですか。こういう場所には夫である男性が多いものでね。」
女性A:「同棲夫婦が悪いとでも言いたいんですか?」
手塚:「そんなことはありませんよ。ただ、検査結果に正直驚いていましてね。キャサリンさんは、精子バンクを利用して人工授精し、出産する予定だったわけですが、キャサリンさんの両親は、どうされていますか?」
女性A:「彼女の両親?えっと、彼女から聞いた話では、彼女は生後間もなく里親に預けられたので、本当の両親については顔も名前も知らないんです。」
手塚:「そういうことでしたか。」
女性A:「どうしてそんなことを聞くんですか?私は彼女がなぜあんなことになったのかが知りたいんですよ。」
手塚:「その、検査結果なんですが、亡くなったキャサリンさんと胎児のDNAを調べたところ、胎児のDNAに異常が見つかりましてね。キャサリンさんは、自分の父親の精子を利用して人工授精した可能性があるんです。」
女性A:「ええっ!」
手塚:「キャサリンさんの実の父親は、献血と同じ感覚で役に立とうと思われて精子バンクに登録されたようですが、キャサリンさんは自分の父親の精子であることを知らずに使用してしまったようですね。」
女性A:「そんな・・・・・。」
 中にはこんな夫婦もいた。
手塚:「検査結果を説明する前に聞いておきたい事があるのですが。」
夫:「何ですか?」
手塚:「あなたたち2人の両親はどうされていますか?」
妻:「夫は、生後間もなく里親に預けられたので顔も名前わかりません。私は実の両親に育てられましたけど、母親は3年前に亡くなりました。先生、どうしてこんなことを聞くんですか?」
手塚:「検査の結果、あなた方2人のDNAに共通している部分が見つかったんです。」
夫:「どういうことです?」
手塚:「あなた方2人は、兄妹である可能性があります。」
夫:「じゃあ、俺たちは、兄妹という事も知らずに一緒になったって言うのか・・・?」
手塚:「それが奥さんの不妊症の原因ですね。」
妻:「そんな・・・・・。父も母も、何も話してくれなかったわ・・・・。」
 妻は泣き崩れる。

実話になるかもしれない作り話ショートショート「平和村」②

 バスが道路を走っていると、やがて広大な麦畑が見えてくる。バスは麦畑の間を通り、集落の前で止まる。
白人男性1:「ここが平和村だ。」
 白人男性たちが平和村と名乗る集落は、麦畑のほかにも畑や果樹園が広がり、葉は青々と茂っていた。家畜も放牧され、村人たちが忙しそうに畑仕事をしている。その時、1人の男性が村の男に声をかけてくる。
弟:「兄さん!」
村の男:「お前!生きていたのか!」
白人男性2:「知り合いなのか?」
村の男:「俺の弟だ。あいつらに連れ去られた時、もう戻ってくることはないと思っていたんだ。」
弟:「俺も、あいつらにさらわれ、いきなり武器を持たされて戦闘に出された時、もう死ぬんだなって思ったんだ。でも、戦闘中に怪我をして動けなくなっていた時に、この人たちが来て助けてくれたんだ。」
村の男:「こいつらが・・・」
弟:「あの、どうして兄さんがこの村に?」
白人男性3:「身寄りのない子供や病人を収容しているときに人さらいと勘違いされてね。その誤解を解くためにここに連れてきたんだ。」
弟:「そうだったんですか。じゃあ、俺が兄さんを案内しますよ。」
白人男性:「そうか。じゃあ頼むよ。」
 弟は村の男を案内する。
弟:「ここはもともと難民キャンプだったんだ。ある時、村長のアイデアでここを村にすることにしたんだ。ここに、自分たちが住みたいと思う村を作りなさいってね。」
村の男:「住みたいと思う村?」
弟:「ああ。でも、最初は大変だった。難民キャンプの周りにはたくさん地雷が埋められていたからね。村を作るには、まずその地雷を取り除かないといけない。そしたら、村長のアイデアを知った日本企業が地雷を撤去できる重機を貸してくれたんだ。」
村の男:「日本にはそんなものがあるのか。」
弟:「地雷処理の大変さを知った日本企業が考えたものらしい。でもその重機のおかげで地雷はあっという間に取り除くことができたんだ。そしてそこに麦や野菜の種をまいて、畑を作ったんだ。」
村の男:「そうか。」
 村の男は弟の話を嬉しそうに聞いていた。
弟:「でもそこからがまた大変でね。最初のうちはなかなか麦や野菜は育たなかったんだ。1年ぐらいしてようやく麦や野菜が育ってきて、もうすぐ収穫できるっていうときに今度は畑泥棒が出て、麦や野菜を盗んでいくんだよ。」
村の男:「そりゃあ、ひどい話だ。」
弟:「それで仲間たちと一緒にその泥棒を捕まえて村長のところに連れて行ったんだ。そしたら村長が畑泥棒に、まだちゃんと育ってない野菜を盗んでどうするんだ。そんなに食べ物がほしいのなら、ここに来て自分で麦や野菜を育てろって言ったんだ。」
村の男:「その村長、すごいな。」
弟:「凄いのはその何日か後だよ。その畑泥棒、本当に家族を連れてこの村に引っ越してきたんだぜ。」
村の男:「はあー。」
 2人が歩いていると、別の畑があり、一面白い花が咲いていた。
村の男:「この畑は?」
弟:「これは綿の畑だよ。花がきれいだろ。この花、しばらくしたら、ピンク色に代わるんだ。それがまたきれいなんだよ。」
村の男:「そうか。」
弟:「俺たち男は家畜の放牧や畑仕事、女はこの綿を紡いで布を織るんだ。そして子供たちには読み書きを教える。ほら、あの建物が学校だよ。」
 学校からは子供たちの声が聞こえていた。2人が学校を覗くと、子供のほかに赤ちゃんを抱えて授業を受ける女性もいた。みんな楽しそうに笑っている。
 そこに白人男性と夫婦らしい初老の日本人の男女がやってくる。男性の方は、医者のようで白衣を着ていた。
村長:「この人がお客様?」
弟:「村長。」
村の男:「村長?この女が?」
弟:「兄さん失礼だぞ。」
村長:「あなたたち、兄弟なの?」
白人男性1:「身寄りのない子供や病人を収容していたら、人さらいと誤解されて銃を向けられましてね。それで彼をここに連れてきたら、弟がいることが分かったんですよ。」
村長:「そうだったの。よかったわねえ。」
弟:「兄は俺の事を死んだと思っていたらしくて。再会できて本当にうれしいです。」
村長の夫:「収容された時の彼はひどい怪我でねえ。でも今はすっかり回復してこの村の仕事を頑張ってくれている。本当に助かっているんだ。」
村の男:「そうか。よかった・・・・」
 そこに白人男性2が日本人夫婦を呼びに来る。
白人男性2:「二階堂先生。妊婦が産気づいているんです。来てください」
村長の夫:「わかった。すぐに行くよ。真奈美も来てくれ。」
村長:「わかりました。」
村の男:「弟を助けてくれてありがとう!」
 村長夫婦は振り返ってあいさつし、家に戻っていく。
村の男:「そろそろ、自分の村に帰るよ。」
白人男性1:「君の村まで送るよ。」
村の男:「あんたも、疑ってすまなかったな。」
白人男性1:「そんなこと気にするな。」
弟:「兄さん、俺・・・・・。」
村の男:「いい村じゃないか。ここでの仕事、がんばれよ。」
弟:「いいのかい、兄さん。」
村の男:「ここはお前が住みたいと思う村なんだろ?母さんにはお前が元気でいると伝えておくよ。」
弟:「ありがとう兄さん。そうだ。ほら、あそこに木が植えてあるだろ。あの木は重機を貸してくれた日本企業がここを離れるときに植えてくれた桜の木なんだ。」
村の男:「桜の木?」
弟:「春になると、きれいな花が咲くんだ。兄さんたちにも見せてやりたいんだ。またこの村に来てくれ。」
村の男:「ああ、わかった。桜が咲くころにまた会おう。」

実話になるかもしれない作り話ショートショート「平和村」

 中東のとある国での話。貧しい町や村に、時折1台のバスがやってきて、親を亡くした子供、病気に苦しむ子供とその母親、そして身寄りのない年寄りや病人をバスに乗せて走り去っていく姿が見られた。
 その日もある小さな村にバスががやってきた。バスからは3人の白人男性が下りてきて、子供や女性、年寄りをバスに乗せていた。その様子を村の男が不審に思い、白人男性たちに詰め寄る。
村の男:「おい。お前たち、どうして女子供を連れて行くんだ。聞いた話じゃ、他の町や村でも女子供を連れ去っているそうじゃないか。目的は何だ?」
 白人男性たちは顔を見合わせる。
白人1:「確かに地元の人から見れば、外国人が人をさらっているように見えるか。」
白人2:「村の住民には俺たちの目的を説明して、許可を取っていたつもりだったんだが。」
村の男:「質問に答えろ!」
 村の男は銃を構える。
白人3:「まあ落ち着け。俺たちは、平和村から来たんだ。」
村の男:「平和村だと?」
白人3:「内戦やテロで怪我を負った人や病人、親を亡くした子供に病気で苦しむ子供とその母親、そして身寄りのない年寄りを平和村に収容している。」
白人1:「この村に入る時、人が埋葬されているところを見たよ。この村では医者がいなくて、病気や怪我をしても、十分な治療が出来なくて死者がたくさん出ているんじゃないのか?」
村の男:「確かにそうだが・・・・・。だったら、お前たちにこの村人たちを助けることができるのか?」
白人2:「時間はかかるが、それが俺たちの目的だ。」
村の男:「ほう。じゃあ、俺をお前たちの村に連れて行け。お前たちが本当に人助けしているのか確かめてやる。」
白人1:「疑り深い奴だな。バスに乗せてやるから、その銃を下ろせ。」
村の男:「大丈夫だ。弾は入っていない。」
 白人1が銃を受け取る。そして銃を確認した後、銃を空に向けて引き金を引く。
白人1:「平和村に向かう途中で俺たちを襲うつもりだったようだが、それじゃあ困るんだよ。」
 白人男性たちは、驚く村の男をバスに乗せ、村を後にする。