月ヶ瀬小春のブログ -81ページ目

実話になるかもしれない作り話ショートショート「DNAは知っている」⑩

 そこには額にもう1つの目が付いた日本人が立っていた。日本人は青い作務衣を着いて、手塚たちを不思議そうに見ている。
日本人:「やっぱりこの額の眼は不気味ですかね。実は、僕たちにもどうして額に目ができたのかわからないんですよ。」
手塚:「君が知っている限りでいいから、あの日何があったのか、話してくれないか。」
日本人:「ええ。あなたたちが”日本が死んだ日”と呼んでいる日の事ですよね。」
手塚:「いや、あれは・・・・・申し訳ない。」
日本人:「いいんですよ。日本は死んだも同然ですから。」
手塚:「君・・・・・・・。」
日本人:「あの日、というより、正確には日本で巨大地震が発生する3日前の事から話した方がいいかもしれませんね。その日、会社の帰りに何気なく月を見たら、満月だったんですけど、その月の色が人の血のような赤い色だったんですよ。」
手塚:「赤い色の月?」
日本人:「ええ。日本では、赤い色の月は天変地異の前触れだという昔からの言い伝えがあるんです。実際、1995年に起きた地震の時も、その2日前に赤い色の満月を見たという目撃例があったそうです。僕はそのことを思い出して、すぐに思い当たる友人すべてにメールや電話をして、月を見るように頼んでみたんです。そしたら、北海道、九州、沖縄、日本のほぼ全域で月の色が赤いという返事がきました。その当時、妻の妊娠が分かったばかりだったので、僕は迷わず生きることを選びました。そして翌日キャンピングカーを買い、集められるだけ集めた水と食料を持って、ネットで調べた地震の被害が少ない場所を探してそこに向かいました。」
手塚:「君の友人たちはどうなったんだい?」
日本人:「僕たちが避難してきた後、友人たちも続々と避難してきたんです。すごくうれしくて、心強くなりました。」
手塚:「そうか・・・。そして、あの日が来たんだね。」
日本人:「はい。避難してきて3日目の夜、空が急に青白く光ったんです。雷かと思ったけど、音は無く静かでした。その数分後に揺れが来たんです。僕たちが避難していたところは、ゆっくりとした大きな揺れでしたね。そんな揺れが30分続いたんです。」
手塚:「30分も?そんなに長い揺れだったのか。」
日本人:「ええ。激しい揺れではなかったけど、とにかく長かったです。それが不気味でしたね。揺れが収まった後、妻と車の外に出たら、友人たちも車から出てきて、抱き合って号泣しましたよ。」
手塚:「そうか・・・無事で何よりだ。ああ、でも、その額は・・・・・。」
日本人:「ああ、そう。これですよね。これは僕もどうしてできたのか解らなくて。友人は、放射能のせいじゃないかと言っているのですが。」
手塚:「放射能・・・。アメリカでもあの地震の後、人工衛星などを使って、日本を調べたら、日本の原子力発電所がすべて津波で破壊され、建物が無くなっていたそうだ。」
日本人:「そうですか。じゃあ、この目はやっぱり放射能のせいかもしれないですね。地震があった次の日、友人が空気に金属の味がするって言うんですよ。」
手塚:「金属の味?」
日本人:「その友人は、昔、ある原子力発電所が事故を起こした時の新聞記事に、原発の近所に住む住人が、空気に金属の味がすると書かれていたのを見たそうです。それを聞いたときは、ショックでした。地震の被害はそんなに受けなかったのに、放射能にやられるなんて・・・・・。でもその時、友人の1人が残された時間を大切にして、一緒に過ごそうといったんです。」
手塚:「覚悟を決めた・・・・・。」
日本人:「はい。僕たちは、残された時間を一緒に過ごすことを決ました。やがてみんなの髪の毛が抜け落ちて、いよいよだと思いました。でも、誰1人、死ぬ人は出ませんでした。」
手塚:「ええ?」
日本人:「髪の毛が抜け落ちて、1週間たっても、2週間たっても、誰も死ななかったんです。妻のお腹の子供も元気で、頻繁にお腹を蹴ってくると妻が言っていました。そのうち、抜け落ちた髪の毛がまた伸び始めたころ、額にこぶができたんです。」
 と言って日本人は額の眼を触る。

実話になるかもしれない作り話ショートショート「DNAは知っている」⑨

パイロット:「2時間後に迎えに来る。」
 と言ってヘリは再び飛び立つ。
手塚:「こんなに変わり果てていたとはな・・・・・。」
 手塚たちが降り立った場所には、がれきと人骨が散乱していた。手塚は人骨に手を合わせる。他の調査員やデビッドは、ガイガーカウンターで放射線を測定している。
デビッド:「あの地震からずいぶん経つのに、まだこんなに放射線が強いんですね。」
手塚:「地震後の津波で原子力発電所の核燃料も流されたらしいからな。」
デビッド:「防護服を着ていなかったら、即死ですね。」
 調査員たちががれきの中を歩いていくと、1台のヘリが見えてくる。
手塚:「なんでこんな所に。」
デビッド:「あれ、軍用ヘリですね。」
調査員1:「くそー!先を越されたか!」
調査員2:「馬鹿者!声が大きいぞ!」
 数人の調査員が調査員1を止めに入る。
手塚:「先を越されただと?・・・あいつら、軍人だな。」
デビッド:「どうして軍人が?」
手塚:「わからないのか?俺たちはカムフラージュだよ。科学的調査と言ってはいるが、本当は、ここを軍事拠点にでもするつもりだろう。これはそのための下調べだ。」
デビッド:「じゃあ、水面下で日本の領有権をアメリカ、ロシア、中国で争っているっていう、あの噂は本当だってことですか?」
手塚:「そのようだな。」
調査員3:「気付かれたようですね。処分しますか?」
 と言って銃を構える。
調査員4:「待て。あいつらの処分は帰国してからだ。」
調査員3:「あいつらを呼んだのは、もともとそのためでしょ。」
調査員4:「確かにそうだが、今は早すぎる。」
調査員3:「くそっ!」
 手塚とデビッドは、軍用ヘリに近づく。ヘリには中国の国旗が付いていた。
デビッド:「先生、このヘリ、なんか変ですよ。」
手塚:「どうした。」
デビッド:「砂埃が付いているんです。こうやって手でこすると、こんなに。」
手塚:「本当だな。このヘリ、ここに降りてからかなり時間が経っているようだな。」
デビッド:「じゃあ、このヘリに乗っていた連中は、どこに行ったんだろう?」
調査員2:「そこで何やってる!時間がないんだぞ!」
デビッド:「はい!」
手塚:「今、そっちに行く!」
 調査員たちががれきの中を歩いていると、その先には意外な光景が広がっていた。
手塚:「何てことだ・・・・・・。」
 目の前に広がっていたのは、集落と田畑、日本の原風景そのものだった。
てづか:「これはまるで、白川郷だな。」
 調査員たちは、集落に近づく。集落に立ち並ぶ家は、日本古来の建物だったが、瓦屋根は1枚1枚が太陽電池パネルのような素材でできていた。集落のそばではプロペラに筒を取り付けたような不思議な形の風車が勢い良く回っている。
デビッド:「屋根瓦は太陽電にパネルで、あの風車は風力発電用、という事ですかね。」
手塚:「ああ。」
デビッド:「それにしてもあの屋根瓦、一体どうやって作ったんだ?」
手塚:「生存者がいたんだよ。日本は滅びてなんかいないんだよ。デビッド。」
デビッド:「そうですね。」
手塚:「巨大地震が起きた日の事を、”日本が死んだ日”だと?ふざけたことを言いやがって。」
日本人:「日本を調査しに来られたんですよね。何かわかりましたか?」
 その声に振り向いた手塚とデビッドは、思わず息を飲む。

実話になるかもしれない作り話ショートショート「DNAは知っている」⑧

デビッド:「負の遺産?」
手塚:「第2次世界大戦の時代に開発された細菌兵器や生物化学兵器の事だよ。もしかしたら、核兵器よりも恐ろしいものかもしれない。」
デビッド:「先生は、大規模火災でその”負の遺産”が漏れたっていうんですか?」
手塚:「それはわからん。ただ、シベリアと聞いた時に、その噂を思い出したんだ。」
デビッド:「先生が言っているのは、噂、でしょ。それに”負の遺産”と言っているけど、それが開発されたのは、第2次世界大戦の頃、はるか昔ですよ。先生、考えすぎですよ。」
手塚:「そうか。・・・考えすぎかな。」
 仕事が終わり、手塚とデビッドが病院から出てくる。
手塚:「レイチェルとお腹の子供の様子はどうだい?」
デビッド:「7ヶ月に入りました。」
手塚:「そうか。楽しみだな。でも、今はこんな時期だから、気を付けてな。」
デビッド:「はい。お義父さん。」
 2人が帰宅する様子を、数人の男が物陰から見ていた。
 翌日、手塚のもとに1本の電話か入る。
手塚:「もしもし。」
女性:「手塚博士はおられますか?」
手塚:「手塚は私ですが。」
女性:「実は、手塚博士に協力していただきたい事があり、電話いたしました。」
手塚:「はあ。何でしょうか。」
女性:「地震後の日本の環境調査が決まりまして、その調査団の一員として手塚博士に参加していただきたいのです。」
手塚:「それはかまいませんが、私はただの医者ですよ。大丈夫ですか?」
女性:「手塚博士は日本のご出身という事ですので、是非に、と思いまして。」
手塚:「そうですか。わかりました。環境調査に協力しましょう。」
女性:「ありがとうございます。出発は3日後。詳しいことはメールで連絡いたします。」
手塚:「3日後・・・。急だな。」
 そして3日後。病院のヘリポートで手塚は迎えを待っていた。そこにデビッドがやってくる。
手塚:「デビッド!君も調査団に参加するのか?」
デビッド:「ええ。先生の助手として参加してほしいと電話があったんです。」
 数時間後。防護服に身を包んだ手塚たちは、軍用ヘリで日本に向かっていた。やがて、日本上空にやってくる。手塚たちは、窓からその様子を見る。
デビッド:「あの海岸線、やけに白いですね。・・・いや・・・・あれは・・・・・骨だ!海岸線が骨で真っ白だ!」
 ヘリから見た日本の海岸線は、人骨が散乱し、白く見えていた。手塚はショックを受け、言葉が出ない。ヘリはさらに進み、東京上空にやってくる。高層ビルは無残にもすべてへし折れ、地震と津波の凄ざまじさを物語っていた。がれきは広範囲に広がっていたため、ヘリが下りる場所を見つけるのに時間がかかったが、何とか平地を見つけ、着陸する。