月ヶ瀬小春のブログ -79ページ目

実話になるかもしれない作り話ショートショート「DNAは知っている」⑯

 10年後。ウィルスによる感染者は増え続け、世界の人口はウィルスが猛威を振るう以前の人口の4分の1になっていた。アメリカでも立ち入り禁止区域が増える一方だった。新聞には失踪した夫婦の写真が紙面を埋め尽くしている。その中には手塚の娘レイチェルとデビッドの写真も載っていたが、その後の手がかりは何1つ無かった。
 医療機関では、ウィルスのワクチンの研究が続けられていたが、新しいワクチンが開発されるたびにウィルスは変異し、ワクチンが効かなくなっていた。
医者1:「ちくしょう!ウィルスがまた変異している。なぜだ?俺たち人間の行動は、ウィルスに読まれているのか?ウィルスは、何もかも知っているって言うのか?」
 手塚はその様子を静かに見ていた。自室に戻った手塚は、パソコン画面に映るウィルスとDNAの配列図を見ていて、
手塚:「知っているのは、ウィルスじゃない。DNAだよ。DNAは知っているんだ。君たちは、知っているんだね。何もかも。あの村人たちを作ったのも、このウィルスを作ったのも、君たちだね。そして、これから君たちは、この地球の未来をあの村人たちに託す。そうだね。」
 と言って、パソコン画面のウィルスのDNAの配列図をなでた。手塚の眼に涙があふれる。そして手塚は退職し、残る余生を送ることにした。
 数年後、手塚は病の床に就く。医者が手塚の様子を見ている。
医者2:「家族を読んでおいてくれ。」
スタッフ:「わかりました。」
 医者とスタッフが病室を出る。入れ替わるように3人の男性が病室に入ってくる。
マックス:「手塚博士。」
 その声が聞こえたかのように手塚が目を覚ます。そしてマックスの姿を見た瞬間、
手塚:「デビッド!デビッドじゃないか!一体、どこにいたんだ?探したんだぞ!」
 手塚は喉に管を通され会話することができなくなっていたが、心の声ははっきりとそう答えた。
マックス:「デビッドは、僕の父です。」
手塚:「じゃあ、君は・・・・・。」
マックス:「あなたの孫のマックスです。初めまして、おじいさん。」
手塚:「そうか、レイチェルとデビッドの・・・・・2人は元気でいるのか?」
マックス:「両親は、亡くなりました。」
手塚:「そうか・・・・・・・」
マックス:「でも、両親は、とても幸せでしたよ。最期まで。2人とも、笑顔で逝きました。」
手塚:「そうか。それを聞いて安心したよ。あの時突然姿を消してしまったから、ずっと気になっていたんだ。」
マックス:「僕たちは生まれたばかりの状態では生きていくことができません。特にこの姿ですから、親はかなりショックを受けるはずです。だから彼らをマインドコントロールするしかなかった。」
手塚:「なるほど。でも、住む場所はどうしたんだい?」
マックス:「あの後両親は、立ち入り禁止区域になっていた町に移り住んだんです。ウィルスが蔓延し、住民が死滅した街だから、誰も近寄らないと考えたからです。」
手塚:「そうだったのか。じゃあ、他の失踪者も?」
マックス:「はい。自分の子供と未来を守るためにとった行動です。博士。彼らを覚えていますか?」
 2人の青年が手塚の傍に来る。
手塚:「君たちは・・・・・・・・・。」
ケビン:「マックス。僕が博士と会ったのは、僕が生まれたての時だ。博士は覚えてなんかいないよ。博士。初めまして。僕は、病院であなたが最初に観た額にもう1つの眼がある赤ん坊ですよ。」
手塚:「ああ、君はあの時の。立派になったね。」
ケビン:「初めまして、先生。」
 手塚とケビンが握手する。
マックス:「博士。もう1人紹介しますよ。」
ヤマト:「博士、初めまして。僕の父は、あなたが大変動後の日本に来たときに知り合った日本人です。」
手塚:「ああ。君はあの日本人の息子か。」
ヤマト:「初めまして博士。」
手塚:「そうか。この地球の未来を担う若者たちがこうして元気に立派に生きてくれている。本当にうれしいよ。そうだ。マックス。君に渡したいものがある。」
 しかし、手塚の手は自由に動かすことができくなっていた。マックスが”力”を使って1冊の本を引き寄せる。
マックス:「これですね。」
手塚:「そうだ。中を開けてごらん。」
 マックスが本を開けると、しおりが挟まっていて、しおりには四つ葉のクローバーが付いていた。
マックス:「これは?」
手塚:「デビッドと日本に行った時に見つけたものだ。その四つ葉のクローバーは、幸運のしるしなんだよ。」
 日本で調査していた手塚がアメリカに戻る時、その足元には一面、四つ葉のクローバーが生えていた。
手塚:「放射線による遺伝障害か?いや、でもこれは・・・・・そうか、お前たちは、あの村人たちに未来の可能性を見たんだね。」
 と言って、手塚は四つ葉のクローバーを摘み取った。
手塚:「君たちの住む大地に、その四つ葉のクローバーが咲きほこるのを楽しみにしているよ。そして、この、目が2つしかない人間の生き方だけは、決して真似をしてはいけないよ。目が2つしかない人間は、文明が発達するとともに、地球の生態系を無視した生き方をし始めた。文明の力でそれがコントロールできると思い込んでしまったんだ。その結果、数々の動植物を死滅させ、地球環境が壊れ始めた。やがてそれは人間そのものを蝕み、人間の心や本能まで狂いが生じるようになった。医者として様々な患者を見てきて、それを痛感したんだ。こんな間違いを絶対に繰り返してはいけないよ。これは約束だ。」
 マックスは手塚の手を握りしめ、
マックス:「はい。約束は守ります。」
手塚:「グッドラック。」
 手塚は静かに息を引き取る。
マックス:「ありがとう。また会いましょう。おじいさん。」
 マックスたちは、手塚の病室を出る。
 

実話になるかもしれない作り話ショートショート「DNAは知っている」⑮

 死亡した調査員たちが次々に運ばれていく。その様子を手塚とデビッドは、甲板の上で見ていた。
スタッフ3:「君たちは許可が出るまでその防護服は脱がないでくれ。」
手塚:「ああ、わかった。」
 スタッフたちが調査員が撮影したカメラを運び出しているとき、手塚は自分のデジタルカメラをこっそりと海へ投げ入れる。
デビッド:「先生、何をするんです。」
手塚:「村人たちを守るためだ。俺たちがこうして生きて帰ることができたのは、村人が俺たちを守ってくれたような気がするんだ。だから俺たちも、彼らを守ってやらねばならん。」
デビッド:「そうか。そうですね。」
 デビッドは、デジタルカメラをこっそりと床に置き、足で踏みつぶす。
デビッド:「2人ともカメラを無くしたと言ったら、話が出来すぎていて、かえって疑われると思ったんでね。」
 そこにスタッフがやってくる。
スタッフ3:「君たちが撮影したカメラを見せてくれないか。調査員たちのカメラには何も映っていなかったんだ。」
手塚:「いや、それが、日本上空に来たとき、思わず興奮してヘリから撮影していたら、手が滑ってカメラをヘリの窓から落としてしまったんだよ。すまん。」
デビッド:「実は僕も、防護服の手がこんな状態なのでデジタルカメラの操作がやりにくくて、それで落として壊しちゃったんですよ。」
 それを聞いたスタッフは、あきれてぼやきながら帰っていく。
デビッド:「ビンゴでしたね。先生。」
手塚:「そうだな。」
 死亡した調査員たちを検査した結果、体内からウィルスが検出される。しかしこのウィルスも、DNAが変異し、別物になっていた。手塚とデビッドも1ヶ月間隔離され、徹底的に検査されたが、放射線の被ばくは確認されず、ウィルスも検出されなかった。その後2人は退院し、それぞれ仕事に復帰する。
 医療現場ではワクチン開発とウィルスのいたちごっこが続いていた。マスコミでは、毎日のように臨月の妻と夫の失踪事件が報道されている。
 そんなある日、手塚のもとに電話が入る。
手塚:「もしもし。」
デビッド:「先生。」
手塚:「おお。デビッドか。久しぶりだな。」
デビッド:「レイチェルが子供を産みました。男の子です。」
手塚:「そうか、それはおめでとう。」
デビッド:「それが・・・・・・・。」
手塚:「ええ?どうした・・・・・・・まさか、赤ん坊には・・・・・・・・・。」
デビッド:「そうです。この子には・・・・・・。でも大丈夫。心配しないで下さい。」
レイチェル:「パパ。」
手塚:「レイチェル。」
レイチェル:「パパ。私たち、もう行かなきゃいけないの。」
手塚:「行かなきゃいけないって、どこに?」
デビッド:「僕たちは、この子のおかげで本当に幸せになることができたんです。この本物の幸せを守るために、行かなければならない所があるんです。」
手塚:「何だって!」
レイチェル:「いろいろありがとう。さよなら。パパ。」
デビッド:「お元気で。さよなら。お義父さん。」
手塚:「待て!行かないでくれ!レイチェル!デビッド!」
 手塚が車でデビッドの家に駆けつける。玄関のエアーシャワーの時間が長く感じられ、手塚は八つ当たりをする。
手塚:「早く扉を開けろよ!この馬鹿野郎!」
 ようやく扉が開き、手塚は室内に入る。
手塚:「レイチェル!デビッド!」
 しかし、家の中は、家具1つ無く、もぬけの殻だった。
手塚:「行かなきゃいけないって、一体、どこに行くというんだ。デビッド、君はあの時、どこにもいかない、大丈夫だと言ってたじゃないか。」
 手塚は泣き崩れる。その後、手塚は警察に捜索願を出したが、レイチェルとデビッドの消息は、解らなかった。

実話になるかもしれない作り話ショートショート「DNAは知っている」⑭

デビッド:「その夫婦は、見つかったんですか?」
手塚:「いや。家族が手を尽くして探したそうだが、いまだに何の手がかりもないそうだ。」
デビッド:「そうですか・・・・・。」
手塚:「デビッド。レイチェルがいま大事な時だが、君もレイチェルと急にどこかに行ってしまうなんてことはしないでくれよ。」
デビッド:「わかってますよ。先生。」
 調査員たちが歩いていると、もう1機の軍用ヘリが見えてくる。ヘリにはロシアの国旗が描かれていた。
調査員2:「ちくしょう!ロシアにも先を越されていたか!」
 ロシアの軍用ヘリは扉があいていて、中では人が倒れていた。
デビッド:「中に人がいるじゃないか!」
手塚:「デビッド、待て!」
 と言って手塚はコクピットを指さす。コクピットにも人が座っていたが、防護服の中は骨になっていた。
手塚:「おそらく、中国のヘリでも同じことが起きたんだろう。」
デビッド:「僕たち、生きて帰れるでしょうか。」
手塚:「わからん・・・・・。」
 その時、手塚は、あるものを見つける。
手塚:「これは・・・・・・。」
 デビッドが振り向くと、手塚が地面をじっと見つめていた。
デビッド:「先生!時間がありませんよ!」
手塚:「すまん。すぐに行く。」
 手塚はそれを拾い、デビッドを追いかける。
 調査員たちは、ロシアのヘリを調べていた。
調査員3:「隊長。乗組員は全員死亡しています。」
調査員2:「一体、何があったんだ。まあいい。先を急ぐぞ。」 
 そして調査員たちは迎えに来たヘリに乗り、日本を後にする。
手塚:「あの村の住民を見て思ったんだが。」
デビッド:「ええ?」
手塚:「村人は何か不思議な能力を持っているようだ。」
デビッド:「言われてみると、確かに。」
手塚:「それに、あの神棚に置かれていた模型。おそらく、村人たちはDNAの声を聴くことができるのかもしれん。」
デビッド:「DNAの声?」
手塚:「もちろんこれは推測だよ。でも、どうしてかな。自分でも不思議に思うほど、妙な事を考えてしまう。」
デビッド:「先生・・・・・・・」
 ヘリが母線に近づき、着陸する。その時、ヘリが大きく揺れる。手塚とデビッドは壁につかまるが、調査員たちは全員倒れる。
手塚:「おい!どうした!しっかりしろ!」
 手塚は調査員を起こそうとするが、調査員たちは全員死亡していた。手塚はヘリの扉を開けてスタッフを呼ぶ。
手塚:「おい!早く来てくれ!」
 スタッフがヘリに駆け寄る。
スタッフ1:「一体、どうしたんだ!」
手塚:「わからん!全員死んでいるんだ!」
 調査員たちが運び出される。
スタッフ2:「日本で何があったんだ?」
手塚:「わからん。とにかく日本の放射線量は想像以上に数値が高かったよ。生存者もゼロだ。俺たちが日本で見たものは、瓦礫と犠牲者の骨の山だった。あの場所はもう使い物にはならんよ。」