『F1/エフワン』 (2025) ジョセフ・コシンスキー監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

トニー・スコット監督が『トップガン』(1987)の後にそのレース版と言うべき『デイズ・オブ・サンダー』(1990)を撮ったことにならうかのように、ジョゼフ・コシンスキー監督も『トップガン マーヴェリック』を撮った後にそのレース版を撮ったということなのだろう。そして結論から言えば、2時間35分存分に楽しめたが、終わって何も残らない作品。ジョゼフ・コシンスキー監督を高く評価する自分としては、期待し過ぎた感はあった。

 

制作はブラッド・ピットがオーナーのプランBエンターテイメント。設立当初は『トロイ』、『チャーリーとチョコレート工場』や『キックアス』といったエンターテイメント系の映画を制作していたが、近年、特に2013年の『それでも夜は明ける』以降、『グローリー/明日への行進』やバリー・ジェンキンス監督の『ムーンライト』『ビール・ストリートの恋人たち』といった社会的メッセージ性の高い(特に人種問題に関して)作品を制作し、『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』といった映画業界の暗部を暴くほかの制作会社がしり込みしそうな尖った作品を作り続けていた。そのプランBエンターテイメントが久々といった印象の文字通りフルスロットルのエンターテイメント系作品。主演はオーナーのブラッド・ピット自身で、彼のキャリアで最高額の出演料を自らに支払ったという。売り込みに必死と感じるのは皮肉に過ぎるだろうか。

 

自分が驚いたのは、この映画の制作にF1の統括団体であるFIAが全面協力していること。だからこそ実際のレース現場で臨場感溢れる撮影ができたというリアリティはあれど、あまりに設定にリアリティがなさ過ぎて「FIA的にそれでいいの?」と思わざるを得なかった。

 

「将来を嘱望された天才が挫折後に復活する」&「かつてのスーパースターが未来のスーパースターを鍛え上げる」というドラマはスポ根物の定番中の定番ストーリー。しかしF1で30年のブランクというのは、現代のF1がいかに最先端の技術の集結であることを理解すればするほどあり得ないという感想を持つだろう。百歩譲ってストーリーの都合上それはいいとしよう。しかし、安全を無視したダーティなレース戦略が「是」とされるのはどうか。カーレースのヒエラルキーの中でハイレベルであればあるほど(そしてF1がその頂点であることは言うまでもない)、スポーツマンシップに則った、そして人命を最優先する運営がされるはず。F1ファンは眉をひそめるであろうナンセンスなストーリーをFIAがよしとしたことが個人的にひっかかった。

 

カーレースを扱った映画としては、技術的な進化によりヴィジュアル+サウンドはベストな作品と言えるだろう。しかし、作品全体のクオリティとしてはかなり低調。カーレースを題材とした作品では、ニキ・ラウダとジェームズ・ハントを描いたロン・ハワード監督『ラッシュ/プライドと友情』 (2013)を上に取る。

 

そしてジョセフ・コシンスキー監督作品としては、山岳消防士を描いた『オンリー・ザ・ブレイブ』 (2017)が素晴らしい作品であることは言うに及ばず、『オブリビオン』 (2013) そして『トップガン マーヴェリック』 (2022)の方がベターな作品と言うべきだろう。

 

問題は人間ドラマの薄さ。主人公ソニー・ヘイズは大事故がトラウマとなって一線を退く(モデルはマーティン・ドネリー)。そのトラウマからの脱却は恰好の材料だが、映画の中では悪夢に一度うなされるだけ。またピットクルーだった父親との写真を大切にしているが、その父親の思い出が全く描かれていない。尺の長さがほとんどレースシーンに使われ、登場人物、特に主人公ソニー・ヘイズの描写すら弱い。

 

また『トップガン』でも女性教官とのロマンスはいる?と感じたのだが、本作でもレースメカニックのリーダーのケイトとのロマンスは、ハリウッド映画にはロマンス+セックスは付き物という余計なものを感じてしまった。

 

あまり考えなければエンジョイアブルな作品。考え出すと「マンガだなあ」だけにとどまらず「なんだかなあ」な作品。それでも2時間35分は楽しめると請け負える作品。シリーズ最終戦のラスト1周の緊張感は観る価値あり。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『F1/エフワン』予告編