『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』 (2023) マーティン・スコセッシ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

今年81歳を迎える巨匠マーティン・スコセッシ監督最新作。レオナルド・ディカプリオにとっては長編6作目のスコセッシ作品出演であり、ロバート・デニーロにとっては長編10作目のスコセッシ作品出演だが、この3人が同じ長編作品で組むのは初めてとして話題になっている(2015年の短編『The Audition』では、ディカプリオとデニーロが本人役でスコセッシ監督作品の配役を争うコメディで共演しているが)。

 

1920年代オクラホマ州、アメリカ先住民のオセージ族は、石油の発掘によって一夜にして世界でも有数の富を手にする。その財産に目をつけたのが白人入植者たち。彼らはオセージ族を巧みに操り、脅し、奪える限りの財産を強奪し、やがて殺人に手を染める。

 

この映画の原作は、2017年にベストセラーとなったデイヴィッド・グラン著ノンフィクション小説『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』であり、架空の物語ではない。

 

1890年代にオセージ族保留地の地下から石油が発見されたために、オセージ族は巨額の富を手にした。1920年代には、現在の価値で年間約4憶ドル(約600億円)に相当する石油が人々の生活を潤し、オセージ族は世界で最も裕福な部族と称されるまでになった。その富を収奪しようとする白人の強欲がこの作品で描かれている。勿論、そこには先住民族に対する差別的な妬みが背景となっている。

 

マーティン・スコセッシ監督の名前を映画史に刻む名作は、言うまでもなく1976年の『タクシー・ドライバー』だろう。その後、1980年の『レイジング・ブル』や1982年の『キング・オブ・コメディ』と傑作を生みだしたスコセッシ監督だが、個人的には80年代後半から2000年初頭までの彼の作品は、水準以上ではあるもののあまり評価していない。そのスコセッシ監督を再評価したのが2013年の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』であり、2019年の前作『アイリッシュマン』も秀作だった。そしてこの作品は、近年のスコセッシ作品では最良の部類に入る作品と言えるだろう。

 

レオナルド・ディカプリオの演技がとにかく素晴らしい。ロバート・デニーロ演じる叔父の権力に背くことができず、自身の欲望も律することできずに、妻を愛しながらも、その妻の殺害の企図を含め悪事に手を染めていく弱く愚かな人間を演じていた。当初この作品の脚本は、主役となるディカプリオの配役をFBI捜査官として先住民族連続殺人事件の真相を明らかにしていくストーリーだったらしいが、彼自身の進言で、自身を事件の渦中に置き、脚本を改変したと言われる。その試みは大成功だったと思われる。

 

エンディングで元ザ・バンドのロビー・ロバートソンに捧げる献辞が掲げられていた。この作品のサントラは彼によるもので、それが今年8月に逝去した彼の最後の音楽活動となった。彼の母親はカナダの先住民族であり、彼自身思い入れのある作品だったろう。高校時代にスコセッシ監督のドキュメンタリー『ラスト・ワルツ』を劇場で観て感銘を受け、それ以来ザ・バンドのファンである自分としてはうれしいものだった。
 

今年のアカデミー賞戦線では有力視されるべき作品であり、まず『レヴェナント:蘇えりし者』以上の演技を見せたディカプリオは主演男優賞の最右翼だと言える。観る価値は大きい。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』予告編