『アイリッシュマン』 (2019) マーティン・スコセッシ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

巨匠マーティン・スコセッシ監督の最新作。ドキュメンタリー作品『ローリング・サンダー・レヴュー: マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』を挟んで、フィクションとしては『沈黙-サイレンス-』(2016)に続く作品。

 

非常に高い評価を受けている作品だが、その評価には「マーティン・スコセッシ・バイアス」があると思われる。個人的には、『タクシー・ドライバー』(1976年)や『レイジング・ブル』(1980年)は確かに映画史に残る名作だが、以降の作品にはさほど目を見張るものはなく、『ディパーテッド』(2006年)や『ヒューゴの不思議な発明』(2011年)といった超がつく駄作もある監督だと思っている。特に前者は、すばらしいオリジナルに比して、ハリウッド・リメイクはこれほどひどいという好例として『アサシン 暗・殺・者』(1993年)と双璧だろう。

 

「スコセッシ・バイアス」なしに作品を評価すれば、そこまで絶賛するほどの出来とは思えないが、それでも近年のスコセッシ作の中では良作の部類(近年のスコセッシ作の中では『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)が出色の出来)。

 

ストーリーは、フランク・シーラン、ジミー・ホッファ、ラッセル・ブファリーノという3人の実在の男の物語。それぞれをロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシという稀代の名優が演じている。

 

第二次世界大戦後のアメリカ。全米最大の規模を誇る労働組合の全米トラック運転手組合(「チームスター」)のリーダー、ジミー・ホッファは大統領の次に有名な人物だった。その彼が不審な失踪を遂げる。巨大犯罪組織の内部抗争、アメリカ政権との繋がり、血で血で洗う権力闘争といった第二次世界大戦後アメリカの激動の裏社会を、ホッファの右腕であり、マフィアの大立者ブファリーノのヒットマンとしても働くシーランの目を通して描いていく。

 

実在の物語(ホッファの失踪の謎に関しては、この作品に描かれている内容のどこまで真実かは測りかねるものの)であるがゆえの面白さは確かにある。そして、通俗なギャング物にありがちな暴力によるカタルシスでは終わらず、愛するものを失った男の切なさが伝わる深さをもった作品だった。晩年のシーランが、ホッファとシーランの娘の二人が写った写真を看護師に見せるシーンは象徴的。彼がこの世で最も愛するものがその二人であり、それを彼は自らの責任で手離してしまっている。

 

ストーリーの面白さとテーマの重み以外で賞賛されるべきは、大御所俳優のオールスター的なキャスティング。その中でも、特に重要なのは、引退していたジョー・ペシの出演を成し得たことだろう。ペシは、スコセッシ監督の依願を50回以上断ったと言われている。そしてペシがブファリーノ役を引き受けなければ、デ・ニーロがブファリーノを演じ、主人公のシーランはリーアム・ニーソン(『ギャング・オブ・ニューヨーク』と『沈黙―サイレンス-』に出演のスコセッシ組)が演じることになっていた。ニーソンには申し訳ないが、クワイ=ガン・ジンではこの作品のデ・ニーロの代役は務まらないであろう。そしてペシの演技は、三人の名優の中でも一際光っていた。スコセッシ作品では9作目の出演となるデ・ニーロの存在感は言うまでもないが、アル・パチーノは、この作品が最初のスコセッシ作品(というのも意外と言えば意外だが)だからか、少々上滑りしていたように感じた。

 

またこの作品で評価されるのは高度なCG技術。派手なアクションやSFでもないこの作品でCGがフルに活用されたというのもあまり意識されないところだが、この作品のVFXは、スター・ウォーズ・シリーズやアヴェンジャーズ・シリーズを制作しているインダストリアル・ライト&マジック社が担っている。そしてCGが威力を発揮した結果、70代の三俳優(デ・ニーロとペシは76歳、パチーノは79歳)が、30歳代から半世紀に亘る物語の全ての年齢の演技を本人がこなしている。特殊メイクアップだけではない技術が、出演者の年齢の変容に使われ、非常に功を奏していた。

 

『グッドフェローズ』(1990年)や『カジノ』(1995年)のカタルシスを期待すると余りに冗長でスローな感を受けるかもしれないが、少なくとも自分にとってはその両作よりも楽しめた。それにしても3時間29分はさすがに長いか。

 

NETFLIXオリジナル作品であり、多くの人はNETFLIXで観ると思われるが、同じくNETFLIXで配信されている23分のドキュメンタリー『The Irishman: In Conversation』を観ることをお勧めする。個人的には本作品よりもそちらの方が凝縮した楽しみがあった(あくまで本編を観た上でのことだが)。

 

★★★★★★ (6./10)

 

『アイリッシュマン』予告編