『バービー』 (2023) グレタ・ガーウィグ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

7月21日の全世界公開後、2週を終えた時点で「Billion Dollar Club」(興行収入が10億ドルを越える)入りし、今日現在(8/14/2023)で歴代世界興行収入第25位というとんでもない大ヒットを記録している作品。そして、女性監督による歴代最高の興行収入を叩き出した作品となっている(これまでの記録はパティ・ジェンキンス監督の『ワンダーウーマン』の8.2億ドル)。「バーベンハイマー」批判は日本だけの過剰反応で、微塵も影響していない結果となっている。

 

マーゴット・ロビーがプロデューサーとしてグレタ・ガーウィグ監督を選択した時点で、ただならぬ作品が作られるだろうと予想されたが、グレタ・ガーウィグがこれほどのエンターテインメント作品を作ったことは正直驚きだったし、マーゴット・ロビーのプロデューサーとしての手腕は高く評価されるべきだろう。マーゴット・ロビーがオーナーを務める映画制作会社がLucky Chup社。これまで『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』 (2017)や『プロミシング・ヤング・ウーマン』 (2020) といった相当尖ったフェミニズム映画を世に送って来た。そのマーゴット・ロビー=Lucky Chupが『レディ・バード』(2017)、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』 (2019)のグレタ・ガーウィグと手を組むのであれば、注目せざるを得ないだろう。主役はガル・ガドット(Gal Gadot's Barbie premier)が予定されていたが、彼女がスケジュールの都合で降板し、マーゴット・ロビー自身が主役を演じることになって大ヒットしたことも運命的なものを感じる。

 

物語は、バービー人形の世界観が体現したバービーワールドからリアルワールド(=人間界)にバービーが旅をし、そこでの経験から彼女自身が変わっていく典型的な成長譚。バービーワールドは女性優位社会であり、ケンほか(といっても大勢のケンと一人のアラン)の男性は付属品、そしてそれが人間界の裏返しであるという揶揄が基本構造。痛烈に男性優位社会を批判しつつも、この作品が男性が観ても笑える作品になっているのがこの作品の大ヒットの大きな理由である(「バービーがリアルに生きていたら」というコメディ作品として、あまりフェミニズムを深く考えずとも、老若男女楽しめるということもあるのだが、それではこの作品の深い制作意図は理解していないことになろう)。男性が、女性が興味がないにも関わらず蘊蓄を語りたがるくだり(『ゴッドファーザー』がいかに素晴らしい作品かを滔々と語るシーン)は映画好きとしては痛いところを突かれた感があったし、ギターの弾き語りでロマンチックなムードを盛り上げようとする辺りも(自分はギターを弾かないのだが)「あるある」感満載で、男性ながら笑えた。

 

そして、この作品がフェミニズム映画として優れていると感じたのは、女性にとって理想的と考えられるバービーワールドにおいて男性がいかに理不尽な状況であるかを描くと同時に、それは女性にとっても必ずしも幸せな状況ではないと描かれていること。バービーワールドとリアルワールドでは男性と女性の優位性が逆転しているのだが、この作品で描かれた様々な状況を男女を入れ替えて考えることで、ジェンダー社会がどうあるべきかを考えさせるように作られている。例えば、リアルワールドでいかに男性優位社会が素晴らしいかを知ったケンが、バービーワールドで男性優位の社会を作ろうとして、その企ては阻止され「時間は掛かるかもしれないが、努力する」と言われるところなどは、まさに女性が歴史上挑戦して阻止され言われ続けたことと重なる。

 

バービーがリアルワールドのバス停で老女と出会い、彼女が美しく老いていることに感動してそのことを口にすると「I know.」と返すシーンは、自分の生き様を他人の評価に左右されないという女性の矜持を感じさせる象徴的なシーンだった。

 

また、バービーは結局、バービーワールドを離れて、寿命があり生きる辛さがある人間となることを選択するのだが、それはマーゴット・ロビーやグレタ・ガーウィグが描きたかった、人生を肯定するポジティブ・エナジーにあふれたエンディングだと思われた。

 

この作品では音楽のセンスのよさも注目を集めているが、ピンクのイメージが全くないビリー・アイリッシュのテーマソングで締め、バービーの衣装もピンクから落ち着いたカラーになっているところも象徴的だと思われた。ただエンディングが意味するところは分かりにくく、自分が監督であれば尿意を催した(バービーは排尿しない(できない)ためバービーワールドのバービーは飲み物をリアルには飲まない)バービーがトイレに入って、あるべきものがあるべきところにあることを知って驚く声をドア越しに映して終わるシーンで締めただろう。

 

単なるエンターテインメント作品では終わらない非常にクレバーな作品だが、単なるエンターテインメント作品としても十分に楽しめる作品。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『バービー』予告編