『ボイリング・ポイント 沸騰』 (2021) フィリップ・バランティーニ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

クリスマス前の金曜日、レストランにとっては一年で最も忙しい一日。人気レストランのスターシェフのアンディは、妻子との別居や衛生管理検査で評価を下げられるなど、さまざまなトラブルに見舞われストレスは最高潮に達していた。そんな中店はオープンするが、あまりの予約の多さにスタッフたちは一触即発状態となっていた。

 

ロンドンの高級レストランを舞台に、オーナーシェフのスリリングな一夜を、全編90分ワンショットで捉えたヒューマンドラマ。

 

シェフを主人公にした作品には良作が少なくない。自分は美食家とは程遠いため、好んで観ることはないのだが、それでも『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』 (2014)や『レミーのおいしいレストラン』 (2007) は秀作レベルだったし、『ディナー・ラッシュ』 (2000)や『マダム・マロリーと魔法のスパイス』 (2014)、『ザ・メニュー』(2022)は水準以上の作品だった。それらレストランを舞台にした作品ではスクリーンに映し出される料理が準主役となっていることが少なくない。食欲は人間の基本欲求の一つであり、それを視覚的に刺激することで「おいしい映画」となっていることがこのジャンルの勝利の方程式だろう。

 

しかし、この作品ではその勝利の方程式は取られていない。料理はあくまで脇に控え、とことんレストランの内幕で繰り広げられる人間模様を描いた作品となっている。

 

撮影上の制約だろうが、100人規模の客を(ほとんど料理をしない)シェフとスー・シェフのほか2-3人のシェフ・ド・パルティでさばくことは到底不可能だろうし、日常的にそれに相当するサイズのオペレーションを行っているとするとかなりドタバタでまともに機能しているレストランとは思えないのだが、そうした無理無理に目をつぶれば、なかなか楽しめた作品だった。

 

全編ノーカットのワンショットという手法を取る以上、時間を遡った映像や、ロケーションが大きく離れた映像を盛り込めないというのは、かなり大きな制約。その結果、スターシェフの抱えるストレス(特に家族との折り合いの悪さ)が説得力をもって描かれていなかったことが残念だった。ワンショットで撮られた秀作としては『ヴィクトリア』(2015)を挙げておく。

 

ドラマとしての深みはないが、92分通して楽しむことができた。エンターテインメントとしてよく出来た小品。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『ボイリング・ポイント 沸騰』予告編