『最後まで行く』 (2023) 藤井道人監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

同タイトル韓国映画のリメイク版。映画でリメイクというと、オリジナルが面白いから作られるのは言うまでもないが、リメイクがオリジナルを越えることはあまりない。オリジナルを越えるべくの改変が、改変ではなく改悪となっているケースが多いように思う。最近のリメイクでオリジナルを越えたケースとしては『コーダ あいのうた』が思い浮かぶが、日本版『最後まで行く』もリメイクがオリジナルを越えたレアケースの部類。しかもクライムサスペンスという韓国映画お得意のジャンルで、日本の作品が韓国オリジナルを越えるのは、藤井道人恐るべしというべきだろう。

 

この作品がオリジナルを越えた点は、まず何といっても役者の演技による。岡田准一はアクションにこだわりのある俳優だが、本作ではアクションもさることながら演技そのもので見せてくれた。コミカルを狙ったシーンでも滑ってないし、緊迫感のあるシーンでも説得力があった。W主演と言ってもいい存在感の綾野剛も、比較的抑えめ(マブタひくひくの演技)と思わせての最後全開のT-1000ばりの不死身ぶりがよかった(特殊メイクのキモさもよかった)。

 

改変も概ね効果的。その中でも一番は、作品の構成で時間が一方向に流れるオリジナルに対し、この作品では一旦時間が巻き戻ることで、ストーリーに深みが増していたこと。綾野剛演じる矢崎が、オリジナルでは追う一方の立場の人間だったが、この作品では矢崎ですら追われる立場であるということがストーリーの妙。

 

映画は最初5分で岡田准一演じる工藤が人生のドツボにはまるところから始まる。その人生最悪という状況を一旦は切り抜ける(飲酒検問の)シーンで、日本版は矢崎を登場させている。その改変が矢崎の存在感をより印象付けていた。韓国では土葬であり、火葬の日本とは設定そのものを変えなければならないが、それを利用した改変も効いていた。

 

また、オリジナルでは存在しない柄本明演じるやくざ組長が全ての絵を描いているという重層的なストーリーもよかった。「またか」感がないでもない柄本明だが、それでもやはりよかったと思わせる存在感もさすが。

 

エンディングはオリジナルと全く違うが、邦題の『最後まで行く』に寄せたエンディングはオリジナルよりも数段上。ボコボコになった工藤が朝日を見ながら広末涼子演じる妻と言葉を交わしじわっといい感じで終わりかと思わせてのまさかのエンディングはとてもよかった。

 

この作品での難を言えば、韓国オリジナルでは説得力があった警察組織の腐敗具合が、日本だと少々作り物っぽくなること。勿論、日本においても警察をはじめとする公権力が100%正しいなどというナイーブな信念は持ち合わせていないが、それでも警察の裏金のみならずそれを上回る巨悪としてマネーロンダリングをする宗教法人を警察が擁護しているという矢崎の上司のキャラクターは行き過ぎ感があった。『ヴィレッジ』でも指摘したところだが、悪者を悪者らしくする「分かりやすさ」が藤井道人監督に物足りないところ。

 

アマプラやネットフリックスで配信中のオリジナルを先に観ておくとこの作品のよさは際立つかもしれないが、そうでなくても十分面白いと思われる。そしてこの作品を観てしまうとオリジナルは観る必要がないくらい、この作品の方がよく出来ている。それでもこの作品よりもっと面白い作品を作ってくれるだろうと期待させるのが藤井道人監督。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『最後まで行く』予告編