『痛くない死に方』 (2021) 高橋伴明監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

仕事に追われるあまり家庭崩壊の危機に陥っている在宅医の河田仁は、末期がん患者の井上敏夫と出会う。敏夫の娘・智美の意向で、痛みを伴いながらも延命治療を続ける入院ではなく「痛くない在宅医」を選択したとのこと。しかし、敏夫は苦しみ抜いた末に亡くなってしまう。父を自宅に連れ戻さずに病院に入院させていた方が苦しい最期にならなかったのではと、自分を責める智美の姿に河田は言葉を失う。「カルテではなく人を見ろ」がモットーの在宅医の先輩である長野浩平に相談すると、診断ミスの可能性を指摘され、河田は悔恨の念に苛まれる。その後長野のもとで診療現場を見学し、河田は在宅医の在り方を模索する。

 

日本では1950年代には8割の人が自宅で最後を迎えていたが、今日では逆に8割の人が病院で死に至っている。そうした現状、厚生労働省が推進しているのが在宅医療。

 

柄本佑演じる若い在宅医が患者の死を通して人間的成長を遂げていくストーリー。そして扱っているのは「尊厳ある死とは何か」という倫理的にも社会的にも議論が分かれるテーマ。

 

在宅医療に関して専門的な知見を持ち合わせていないので、映画を観ただけの印象になるが、在宅医療は医師にも家族にも相当な負担が掛かるように思えた。全ての医者が奥田瑛二演じる長野浩平のような「医は仁術」を体現する医者であることを期待する方が間違っているようにも感じる。映画前半は「痛くない在宅医」を選んだはずが、診断ミスで「痛い在宅医」になり、家族が患者の苦しみに同様に苛まれる介護の辛さを描いていたが、それが厳しい現実なのではないだろうか(映画の中では誤診による不必要な苦しみはあったにせよ)。

 

後半では宇崎竜童演じる末期がん患者が、死の恐怖がないわけではないはずなのに、飄々として静かに眠るように最後を迎えるのは理想ではあるが、果たしてどれだけの人が、まさにあのような「尊厳ある死」を自ら選び達成することができるのだろうか。反面、患者を管だらけにし「溺れさせる」病院が一方的に悪だと言わんばかりの描き方も疑問を感じた。在宅医療に専門知識がないゆえ、自分が間違っているのかもしれないが。

 

高橋伴明監督は自分の価値観を分かりやすくスクリーンに映し出すので、何を言いたいかが分かりやすい監督。在宅医療というものがあることを知り、これから真剣に考えなければならないのだろうと問題提起をしてくれた作品。その点だけでも観る価値はあった。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『痛くない死に方』予告編