『パラサイト 半地下の家族』 (2019) ポン・ジュノ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

カンヌ国際映画祭でパルム・ドール受賞という冠がなくとも、その高評価は前評判として伝わっていた。先に紹介した「米ローリング・ストーン誌「2010年代のベスト映画TOP50」」でも、「『WIRED』が振り返る2010年代(映画編)」でも選ばれていた作品。

 

監督自らネタバレ厳禁というメッセージを流すのだが、確かに中盤までは先が全く読めない展開。しかし、自分は中盤(雨のキャンプ・シーン以降)で方向性が読めてしまった。『パラサイト』というオリジナル・タイトルと「半地下の家族」という邦題の副題がネタバレと言えばネタバレだから。その中盤までは「ははーん、これがパラサイトの形態なのね」というものが、中盤以降は「なるほど、なるほどー。違う(「寄生虫」という文字通りの)パラサイトの形態に移行するって話なのかな。それにしても最初に思っていたパラサイトをなぜ捨てるんだろう」と不思議に思って観ていた。

 

ネタバレ厳禁という作品は、意表を突いた大どんでん返しが含まれている。そして伏線が巧妙に仕掛けられていて、ヒントが与えられていることが必要。全くヒントがない不意打ちでは突拍子がなく、大どんでん返しの「やられた感」がないため。ネタバレ厳禁と言われた最近の映画では『カメラを止めるな』があるが、始まってものの数分でストーリーが読めてしまったため「やられた感」は全くなかった。それでも映画愛にあふれた好ましい作品ではあったが。また自分が全く評価していない監督にM・ナイト・シャマランがいるが、彼の『シックス・センス』にはあまりに唖然として、すぐにもう一度劇場で観直して、伏線の不自然さに腹が立ったのを覚えている。そうしたいわゆるネタバレ厳禁モノとは明らかに本作が違うのは、多分2回目以降も面白さは削がれないだろうと思った。つまり、ギミック的な意外さだけがこの作品のよさではないということ。

 

ポン・ジュノ監督の名前が日本で認知度が上がったのは、自分のイメージでは2006年の『グエムル-漢江の怪物-』。韓国で大ヒットという触れ込みだったが、怪獣物の本場の日本では韓国内ほどにはヒットしなかった。個人的には、今まで観たことのないウェットな異国情緒漂う怪獣物にやられ、DVDも後日購入したほど。しかし、ポン・ジュノ監督の本領が発揮されたのは、それに先立つ『殺人の追憶』(2003年)であり、『ほえる犬は嚙まない』(2000年)だろう。

 

そうしたいかにも韓国映画然とした作品とは趣を異にしたのが、ハリウッドに進出して制作した前々作の『スノーピアサー』(2013年)と前作の『オクジャ/okja』(2017年)。前者には本作でも主役を務めるソン・ガンホが出演していたり、後者では舞台が韓国の山奥の山村だったりしたが、それを除けば韓国映画とは分からない作品だった(とは言え、そこはポン・ジュノ監督らしく、一癖も二癖もある作品ではあったが)。

 

そのハリウッド制作の2作品を経て、韓国映画に「帰ってきた」のがこの作品だろう。いかにもポン・ジュノ監督らしい作家性の強い作品であり、またハリウッドの空気を吸って、「洋物」を咀嚼して、よりグレードアップした感がある作品。それが全世界で高い評価につながっているのだろう。

 

抜群に面白いと言えばそうなのだが、自分には納得できないというか理解できない部分をこの作品には感じてしまう。それが(ネタバレに注意しながら)先に述べた作品前半の「パラサイト」を捨てることになる(そして結果、別の「パラサイト」に移行する)動機の弱さである。「半地下の家族」の副題に含まれた「半」という状況は、地上と地下の境界にあり、そこに住む家族がなんとかして地上に這い上がろうとする物語という意味が込められている。経済格差が物語の大きな背景なのだが、なぜ地上に上がるチャンスを自ら潰すのかを自分には理解できなかった。それはポン・ジュノ監督が、この作品の世界的大ヒットがありながらも、会見で「おそらく、海外の観客はこの作品を100%理解することはできないだろう。この作品はあまりにも韓国的で、韓国の観客が見てようやく理解できるディテールが散りばめられている」と言った理由がそこにあるように感じる。半地下に住む人々が地上に住む人々に対しての思い、そして印象的な言葉で言うならば「韓国の地下鉄の匂い」が分かるほどでなければ、この作品は100%理解できないのではないかと感じた。そうしたモヤモヤがどうしても引っ掛かってしまった。

 

カンヌ国際映画祭の審査員長のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』 『レヴェナント: 蘇えりし者』の監督)が「本作は様々なジャンルがミックスされており、切迫した事柄をユーモラスに描けている」と評し、満場一致でパルム・ドール受賞だった作品。ただ個人的好みとしては同年のコンペティション参加作品では、ケン・ローチ監督の『家族を想うとき』を上に取るし、ポン・ジュノ監督の作品では、先に挙げた『殺人の追憶』を上に取りたい。見逃すべき作品であることは間違いはないが。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『パラサイト 半地下の家族』予告編