10月の北米公開から心待ちにしていた作品。その期待にたがわない素晴らしい出来だった。
1937年のオリジナル『スタア誕生』から3回目のリメイク。オリジナルでは、ハリウッドでの成功を夢見る田舎の少女のシンデレラ・ストーリーだったが、1954年のジュディ・ガーランド版『スタア誕生』では、シンガーがその歌唱力を見出されてハリウッドでミュージカル女優として成功する設定になり、1976年のバーブラ・ストライザンド版『スター誕生』では、それまでの女優の設定がミュージシャンに変えられている。
設定としてはレディー・ガガをメイン・キャストとして、ミュージシャンが主役という1976年版の設定を踏襲している。それゆえ1976年版のオマージュは少なくない。レディー・ガガ演じるアリーが、自分の外見の中でも大きな鼻を気にしているというところや、バスタブの中でジャック・メイン(ブラッドリー・クーパー)に化粧をほどこして戯れところなど。
オリジナルからのオマージュとして印象的なのは、アリーを呼び止めて振り向かせ、ジャックが「もう一度顔を見たかっただけさ」と言う2度のシーン。
俳優からミュージシャンと設定を変えることでのメリット・デメリットはあるが、1976年版のリメイクでは、そのデメリットがより強く出ており、あまり感心できる出来ではなかった。
成功者としてのヒーローが成功以前のヒロインを見出して、彼女を成功に導くが、自分が落ち目となり、彼女に迷惑を掛けることをよしとせず彼女への愛のために命を捨てるというのがオリジナル+リメイクを通じての基本ストーリー。俳優というイメージが資産の職業に比して、ミュージシャンという自分のパフォーマンスで勝負という職業では、「自分のイメージがパートナーに迷惑をかける」という設定に説得力がなくなるという問題点がある。1976年版では、その問題点が顕著に出ていた。
その問題点は、本作では実にうまく処理されていた。聴力を失いつつあるというミュージシャンとして決定的な欠陥を持ち、子供の頃から複雑な家庭環境にあってナイーブな面を持つ弱い人間としてヒーローを描くことで、彼が命を捨てることの説得力があった。より現代的な設定がそこにはあった。
レディー・ガガの存在感はこの作品を唯一無二のものにしている。作品の中で、彼女がカントリーシンガーとしてのキャリアを歩み始めた頃の楽曲は心を揺さぶる。皮肉なのは、彼女がポップミュージシャンに路線を変更して大成功を収めてから、マネジャーがプラチナに髪を染める進言を自分らしくないと言うところ。ちょっとした遊び心か。
3回目のリメイクのプロジェクトとして、当初はクリント・イーストウッド監督+ビヨンセが予定されたが、ブラッドリー・クーパー監督+レディー・ガガは、間違いなくそれを上回る結果をこの作品は実現したと思う。
これまでのオリジナル+2回のリメイクでは、オリジナルが一番よかったが、このリメイクはそのオリジナルを越えるもの。愛に生きる二人が、悲劇的な結末を迎える切なさがとてもよく描かれていた。
珠玉のラブ・ロマンス作品として観逃すべきではない作品。是非。
★★★★★★★★ (8/10)