『事件』 (1978) 野村芳太郎監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

神奈川県の山林で、若い女性の刺殺死体が発見された。被害者はこの町の出身で、厚木の駅前でスナックを営んでいた23歳の坂井ハツ子であった。数日後、警察は19歳の上田宏を容疑者として逮捕する。宏はハツ子が殺害されたと推定される日の夕刻、現場付近の山道を下りてくるのを目撃されていた。宏はハツ子の妹、19歳のヨシ子と事件翌日から駆け落ちをし、同棲を始めていた。彼女はすでに妊娠三ヵ月であった。そして宏の殺人、死体遺棄容疑の裁判が開始される。裁判が進むにつれて、意外な事実が白日の下にさらされていく。

 

大岡昇平の原作を新藤兼人が脚本化。1978年の毎日映画コンクールの日本映画大賞及び日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作。個人的には、日本アカデミー賞は全く評価していないが、毎日映画コンクールは重要な賞という認識。

 

作品はかなりの部分、法廷での証人尋問及び検察と弁護人との攻防に費やされている。その合間、合間に過去の事件に関わる経緯が描かれている。公判の進捗に合わせて、当初は検察の冒頭陳述で主張された単純な殺人(しかも被告人の罪状認否では否認しない)に見えたものが、関係者同士の複雑な関係により、複雑な様相を呈していく過程が興味深い。その過程では、退廷後の裁判長と左右陪席との会話で、裁判官の心証が揺れ動いている様子も描かれている。

 

この作品の大きな魅力は、そうした刑事裁判での公判手続きがかなり念入りに考証されており、本格的な法廷ドラマとなっていること。アメリカ映画では法廷を扱った作品は、「リーガル・サスペンス」として一つのジャンルと確立されている印象がある。『十二人の怒れる男』を頂点として、古くから『情婦』『或る殺人』といった多くの良作がある。邦画でも法廷シーンがある作品は少なくないが、ここまで法廷を主な舞台とした作品はなかったように思う(『十二人の怒れる男』のパロディである『12人の優しい日本人』くらいか)。判決で不定期刑が言い渡され、「少年法に基づく求刑ではそうなんだ」と今更ながら勉強になるシーンもあった。法曹三者の迫力あるやり取りを演出するのは、佐分利信(裁判長)、丹波哲郎(弁護人)、芦田伸介(検察官)。重厚な演技だった。

 

ネックは、事実が明らかになるにつれ、事件そのものに少々現実味が失われたこと。自死を覚悟するかのようなハツ子の行動や、犯行時の宏の心境もあまりピンとこなかった。ただ、「事実は小説よりも奇なり」と言うから、むしろ納得感のある展開よりもリアリティがあるのかもしれない。

 

★★★★★ (5/10)

 

『事件』予告編