『或る殺人』 (1959) オットー・プレミンジャー監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

舞台はミシガン州。釣りとジャズを愛する弁護士ビーグラー(ジェームズ・スチュワート)だが、最近は依頼も減り秘書の給与支払いも滞るほどだった。彼の元に弁護の依頼が来る。愛妻ローラ(リー・レミック)がレイプされ、そのレイプ犯を射殺したという陸軍中尉マニオン(ベン・ギャザラ)の弁護だった。ローラの奔放な性格ゆえに、レイプではなく不倫であり嫉妬に駆られた結果の事件ではなかったのかという疑問が高まる中、法廷でビーグラーとダンサー検事(ジョージ・C・スコット)の論戦が繰り広げられる。
 

2時間40分と長尺であり、その大半が法廷での審議のシーン。この法廷での弁護士と検事の攻防はなかなか見どころがあった。マニオンが人を殺したことは争いのない事実であり、それをいかに無罪にするか。

 

弁護側が過去の判例をひっくり返して、その中から「抗い難い衝動(irregistible impulse)」による殺害行為は殺意があったとはみなされないという判例を見つけた時点で、無罪は観客には自明的に確定している。しかも、観客にはマニオンの行為は有罪相当(冤罪ではない)ということが最初から分かっているところが法廷物としては特異なところ。つまり判決はどうなるのだろうというハラハラ度は少ない。しかし、弁護側と検察側そして裁判長(これは実際の弁護士が演じている)の丁丁発止のやり取りは、結果が分かっていても興味は削がれなかった。

 

また実際の法廷では見られないであろうコミカルなシーンも息抜きとしては面白かった。

 

裁判官 「弁護人、そのさっきから言ってるパンティという表現なんとかならんかね?」
弁護人 「しかし事件に関係する重要な点ですから」
検事  「フランス語でいう手もありますが、もっと卑猥になりますね」

このような会話を大真面目にやっていたりする。また、弁護人が証人にサインを送りたくても、それを検事がさえぎり、検事の肩越しに弁護人があちこち動くシーンなども滑稽だった。

 

ただ、「抗い難い衝動」による殺害を弁護側が主張し、それを立証できるかどうかが鍵であるのに、弁護側の精神鑑定のみで検察側が鑑定しないということは実際あり得ないだろう。そして、ローラが実際にレイプされたかどうかが大きな争点になっているのも本筋の立証とは全く無関係(マニオンが思い込めばいいだけの話で、実際にレイプされたかどうかは意味がない)。そして、弁護側のレイプの立証の重要な証言を、実の娘がすることも全く解せなかった。

 

弁護人は検察側の証拠の取捨が恣意的であり真実を求める態度ではないと批判し、検察側はそれに色をなして怒るシーンが度々ある。弁護人の主張は当然なのだが、検察は有罪立証のみを目的としていることを自覚しているだけに、彼らが認めることはないにしろ「自分たちは真実を追求している!」と怒ることはないだろうなと感じた。少なくとも日本では。

 

弁護人のジェームズ・スチュワートの演技はオーバーアクションで、滑稽の度が過ぎるが、それに対して、検察官のジョージ・C・スコットの演技は迫力がありとてもよかった。そして、リー・レミックの可愛らしさが際立っていた。

 

法廷物として、細部は破綻しているが、十分に楽しめる作品。この手の作品が好きであれば見逃す手はない。

 

★★★★★ (5/10)

 

『或る殺人』予告編