『フィクサー』 (2007) トニー・ギルロイ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

ニューヨークの大手法律事務所に勤めるマイケル・クレイトン。彼は長年、事務所が表に出せない案件を裏で解決する「もみ消し屋」として働いていた。しかし長年の貢献にもかかわらず共同経営者にもなれず、私生活でも妻とは離婚し、従兄弟の投資話への出資が失敗して多額の借金を抱えていた。そんなある日、事務所のクライアントである巨大農薬会社に対する集団薬害訴訟で、担当弁護士の同僚アーサーが、原告団との協議中、いきなり服を脱ぎだして裸になり、原告団の一人の若い女性に「君が好きだ」と迫ったという知らせが入り、マイケルに事態収拾の命令が下る。しかし、事件を調べていくうちにマイケルは、農薬の危険性に関する内部文書をアーサーが入手し、会社の弁護を続けることに良心の呵責を感じ、奇行に走ったことを知る。

 

「フィクサー」は、正規の手段によらずに意思決定の過程に介入する資金、政治力、人脈などを持つ人物を指し、アメリカでは悪徳弁護士を指すこともある。しかし、この物語は(邦題の)「フィクサー」の物語ではなく、人間的に弱さを持つ一人の男(原題の)「マイケル・クレイトン」が多くの困難に苦悩する物語である。

 

第80回アカデミー賞作品賞ノミネート作品。受賞は『ノーカントリー』

 

監督は、ボーン・シリーズ(『ボーン・アイデンティティー』『ボーン・スプレマシー』『ボーン・アルティメイタム』)や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の脚本を手掛けたトニー・ギルロイ。この作品が初監督。しかし、彼は脚本業に専念した方がよさそう。

 

『ER』の小児科医のようにおどけて少々すかしたいい男が似合うジョージ・クルーニーが、終始苦み走った表情。常に緊張感が漂う作品の雰囲気は悪くないが、ディテールで納得できない設定が多過ぎる。

 

マイケルが命を狙われるシーンでは、彼は車で通りかかった丘で馬を見つけ、車から降りて馬を眺めている間に、その車が爆破される。このシーンは、映画の始まりに何の前触れもなく挿入され、その後に4日時間を遡って物語が再開する。印象的なシーンだが、まずなぜ彼がそう都合よく車から降りるのか説明がつかない。そして4日間のドラマの後にそのシーンが繰り返され、そこでは彼が自分の死を偽装するために所持品を爆破された車に投げ込むのだが、死体がなくて誰が騙されるというのだろう。

 

またアーサーの奇行も説明不能。会社の偽善に良心の呵責を感じ、原告側をアシストするためとはいえ、もっと効果的で常識的な方法がいくらでもあっただろう。

 

そしてそもそも、いかに会社の存亡がかかっていたとしても、大手企業が訴訟を有利に運ぶために、この作品に描かれているようにプロの殺し屋を雇って殺人まで犯すという設定は、あまりに陰謀論の度合いが甚だし過ぎる。

 

残念ながら、作品賞のノミネートというのも首を傾げる程の出来ではないだろうか。

 

★★★★ (4/10)

 

『フィクサー』予告編