主演ジェニファー・ローレンス。後に『ハンガー・ゲーム』(2012年)でブレイクする彼女だが、前作『あの日、欲望の大地で』(2008年)ではヴェネツィア映画祭の新人俳優賞であるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞し、本作ではアカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。早くから演技では認められていた彼女だったが、2回目のノミネートの『世界にひとつのプレイブック』では主演女優賞受賞を果たしている。
日本ではあまり知られることのないヒルビリーを扱った作品。「ヒルビリー」とは「丘のスコットランド人」という意味だが、オザークやアパラチア山脈に移住したスコットランド系アイルランド人のことを指す。彼らは1845年からアイルランドで起こった「ジャガイモ飢饉」の後、アイルランドから移住してくるのだが、平地は既にイギリス人によって占有されていたため、彼らの小作人となるよりは、自分たちの所有できる土地を求めて山岳地帯に分け入った。それ以来、非常に地縁性の強い血族集団を形成し、閉鎖的な因習と村の掟が法律よりも重んじられる独自の社会を築いていった。貧しさゆえに、元々は密造酒で生計を立てていた彼らが、現代では覚醒剤密造などに従事することも少なくないと考えられている。アメリカにおいては、典型的な「貧しい田舎者」「レッドネック」の代名詞がヒルビリーである。
ミズーリ州オザーク地方に住む17歳のリー(ジェニファー・ローレンス)は、心を病んだ母に代わって幼い弟と妹の世話をしながら、貧しい生活をしのいでいた。父親は覚醒剤の密造をしていた父親が逮捕されていた。ある日、彼女の家に保安官が訪れ、父親が自宅と土地を保釈金の担保にしたまま失踪たことを告げる。もし父親が法廷に出頭しない場合、彼女と家族は住むところを失ってしまう。リーは、家族を守るべく父親の行方を捜すため、親族を尋ねて回るが、彼女の親族はそれを全く歓迎しなかった。
作品を観る前にヒルビリーのことを知らなければ、かなり理解できない部分が多いと感じた。アメリカではそれがないだけに理解されやすい作品であろう。終始陰にこもった雰囲気であり、「村の掟」を破った父親の暗い結末を暗示しているが、それを打ち破るリーの強さが印象的だった。とは言え、全体的なストーリーは一本調子で、少々メリハリに欠ける感じ。サンダンス映画祭審査員賞という高評価はイマ一つ説得力に欠けるか。
★★★★★ (5/10)
近年のサンダンス映画祭審査員賞受賞作の個人的評価
2009年 『プレシャス』 ★★★★★★ (6/10)
2010年 『ウィンターズ・ボーン』 ★★★★★ (5/10)
2011年 『今日、キミに会えたら』 ★★★★★ (5/10)
2012年 『ハッシュパピー~バスタブ島の少女~』 ★★★★ (4/10)
2013年 『フルートベール駅で』 ★★★★★ (5/10)
2014年 『セッション』 ★★★★★★★★ (8/10)
2015年 『ぼくとアールと彼女のさよなら』 ★★★★ (4/10)
2016年 『バース・オブ・ネイション』 ★★★★★★★ (7/10)
2017年 『この世に私の居場所なんてない』 ★★★★★★ (6/10)