トランプ政権発足の45日後に制作が発表され、スティーヴン・スピルバーグの作品としては『レディ・プレイヤー1』の後から制作が開始したが、先に完成・公開された作品。スピルバーグ作品の中で最も制作期間が短い本作の完成をそこまで監督が急いだことには、トランプ政権下でのメディア統制に対する危機感があったと言われている。我が国での現状を鑑みると、洋の東西を問わず、時代の潮流というのは同じであることに感銘を覚える。

 

時代は1970年代初頭。ドワイト・アイゼンハワー政権下で少数のアメリカ軍人からなる「軍事顧問団」をベトナムに派遣して以降、ベトナム戦争介入を始めたアメリカは、その後のJFK、リンドン・ジョンソン政権下で積極的な介入の度合いを強めていったが、戦局は芳しくなく泥沼化の様相を呈していた。そのベトナム戦争を分析した国防総省の報告書(「ペンタゴン・ペーパーズ」と呼ばれる)は、介入拡大の過程においても明らかに不利な戦局を示唆していたが、政権はそれを伏せてベトナム戦争へとのめり込んでいった。そして、反戦機運が高まっていたリチャード・ニクソン政権下の1971年、ニューヨーク・タイムズ紙が「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在をスクープする。ワシントン・ポスト紙も独自に同情報を入手して記事を掲載し、ライバル紙のニューヨーク・タイムズ紙と連携して、「政府の機密漏洩」という観点から司法手続きにより記事を差し止めようとする政権と争う。

 

社会的に意義が高い歴史的事実を扱った作品だが、小難しいことを言わなくても、十分(というかとてつもなく)楽しめるエンターテインメントに仕上がっている。さすがスピルバーグ。そしてスピルバーグのシリアス系の作品(『シンドラーのリスト』『プライベート・ライアン』ほか)をあまり高く評価してこなかった自分としては、スピルバーグのシリアス系の作品としてはベストだと感じる(それでも、自分にとってのスピルバーグの全作品中のベストは『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』だが)。

 

緊張感のある展開が続き、登場人物の心理も分かりやすく描かれていて、全く退屈するひまがなかった。

 

主人公二人であるワシントン・ポスト紙発行人(会社株式公開を控えているタイミングの事件であり、株式公開後は社長)のキャサリン・グラハムを演じるメリル・ストリープと、編集主幹のベン・ブラッドリーを演じるトム・ハンクスは初の共演。この二人の演技が素晴らしい。特に、メリル・ストリープの、最初はビジネスの場にはお門違いという扱いしかされていない女性が、タフなシチュエーションでずばっと決断をして以降の強靭な精神力を発揮する人物像のパフォーマンスは、さすがオスカー最多ノミネート俳優(19回、男優・女優を通じて最多)の演技だった。

 

作品のテーマのエッセンスは、タイムズとポストの新聞記事掲載を是とする最高裁判決に添えられた最高裁判事の意見に集約されている(映画の中では、判決の模様を電話で口述される形で読み上げられた)。

 

「我が国の建国の父は、アメリカ合衆国憲法修正第1条において、民主主義における本質的な役割を果たすために必要な報道の自由を与えた。報道機関は、統治する者にではなく、統治される者に仕える。」

 "In the First Amendment the Founding Fathers gave the free press the protection it must have to fulfill its essential role in our democracy. The press was to serve the governed, not the governors."

 

エンディングは、ウォーター・ゲート・ビルで働く警備員が夜間の巡回中に、ドアの鍵がテープでロックされないようにされていることを気付くシーンで終わっている。まさに『大統領の陰謀』(1976年)のオープニング・シーンにつながるもの(同じウォーターゲート事件を情報源の「ディープスロート」側から描いたのが『ザ・シークレットマン』)。このアメリカ政治史上最大のスキャンダルであるウォーターゲート事件につながる、ここからパンドラの箱が開いたというかのようなエンディングは絶妙。

 

過去の史実に基づく作品でありながら、現代的な訴求力を持っており、なおかつ上級のエンターテインメントとして勧められる作品。見逃すべからず。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告編