haruのブログ~争いはいらない ほしいのは愛だけ~ -216ページ目

恋蛍②

「よく言うよ、チェーンもしないでドア開けて…俺じゃなかったら、どうするの」

ユノは、ドアを閉められないようにか、長い脚を伸ばすとドアの中に入り込み、後ろ手にドアを閉めた。

「ユノ…あなたが十分危ないって」
「そう?」

涼しいを顔してユノは閉めたドアにもたれた。

「…悪いけど、私これから仕事だよ?」
「マジ?」
「うん、恐怖のZ勤」

コールセンターで一番恐れられている12時間勤務。

ユノは、片手で顔を覆い、天を仰いだ。

「駅まで、送るわ」

桜は楽しそうに言うと鍵を取りに部屋に戻った。



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「お、勝手に入らなかったね。えらい、えらい」

桜は室内に車の鍵を取りに戻った。玄関にではユノがしょんぼりと待っている。

「おい!俺、どれだけ犯罪者だよ!」

時刻は21時過ぎ…二人は小さな声で笑い合ながら鍵をかけ、並んでアパートを出る。

駐車場までの僅かな距離、ユノは桜の手を取りつないだ。

「…手、つなぐの?」
「嫌?なら離すけど」

桜はふふん、と鼻を鳴らして首を横に振る。
ユノは繋いだ手に、少し力を込めた。
ただ、駐車場はすぐそこで…桜が車の電子ロックを解除するとユノは桜の手を離し、運転席のドアを開けた。

「ありがとう」
「…こちらこそ。悪いな」
「そう言いつつ、腰に手を回さない!」桜は優しくユノの手を叩いた。



車内。

「今から入ると22-10時のZ勤か?ぎりぎりだな…」
「大丈夫、間に合うから」
「あんまり飛ばすなよ」
「…初めて送ったげた時もおんなじコト言ってたね」
「…あぁ、あの時か。俺が初めて桜の会社に行った日に社用車のバッテリー上げて」
「そうそう…あれからしばらくキム主任としか来なくなったよね」
「うん。車を使わせて貰えなくなったんだよ」
「そうなんだ…でも、そのおかげかな?」
「?」
「キム主任さんとうちの事務局のとしえさん…付き合ってるよ」
「え?ジェジュンと?」
桜は心底驚いてる様子のユノを見ると、可笑しそうに笑って頷いた。

会話が途切れ、車が大きくカーブする。程なくしてほの明るい駅に着く。

「はい、お疲れ様」
「こっちこそ…ありがとう」

「どういたしまして」
「あのさ、一度」

何をか言い出し難そうに口ごもる。

「?」
「食事でもどうですか」

唐突に思えた桜は笑いながら、
「…主任さんととしえさんの話に影響されたの?」
からかうように言った。

「…だったら、あんな時間に家まで押しかけると思う?」
「Z勤中にゆっくり考えるわ。じゃあ私、仕事行くね」




渋々、といった感じで長身のユノが窮屈そうに降車した。


桜はあだっぽく笑うとユノを残して車を出した。

恋蛍①

「落ちついた?」
「…なんとか」
「大丈夫?」

黙って頷く桜を、ユノはその逞しい胸にもう一度抱いた。


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『みずかみ さくらさまえ

げんきですか。はやくあいたい。さくらのこえがききたいです。でんわわしごとだけ?
また、すぐにあいたい。

ゆの』



桜は携帯に入った平仮名だらけのメールを見て吹き出した。
メールの差出人はユノ…チャン・ユンホ。
彼は桜の職場のメンテナンス会社に在席してる韓国出身の美丈夫だ。
ルックスもさることながら、それに相反するたどたどしい日本語と、

日本人にはない謙虚さで、女性の多い職場では有るものの、男女問わず皆に好かれている。

桜は一人微笑むと、教えて貰った個人の番号にかける。すると、びっくりするほどユノが早く出た。


「もしもし」
「桜…?」
「素敵なメールありがとう」

「本当に、桜?」
「そうだよ。声が違う?」
「うん」
「だって、あれはお仕事用だもん」
「今は?」
「地声」
「地声?」

桜は、コールセンターで働いている。最初は派遣社員だったが、

今では会社から請われて正社員まであと一息の契約社員だ。
特に美声、と言う自覚はなかったが、顧客に安心感を与える声質らしく、

勤務態度の真面目さも有り、職場内で重宝されている。



「あ~、なんて言うのかな…Neutral?」

ふん、と電話して向こうで悔しそうに鼻を鳴らす音が聞こえた。

「Neutral?俺と話してるのに?」


心底悔しそうに言うので、桜は声をたてて笑った。

「ね、桜。今俺どこにいると思う?」
「え?わかんないよ…」
「桜んち」

桜は慌てて、カーテンを開けて外を除く。アパートの外は街灯が無人の道路を照らすだけ…。

「ユノの嘘つき!誰もいないよ」なぜか落胆と憤慨がないまぜになって、桜は声を荒らげた。

不意に部屋のチャイムが鳴る。

「ユノ、一回切っても良い?誰か来たわ」
「こんな時間に?」
「宅配便かな」
「…危ないから、切らない方が良いんじゃない?」

ガチャ…。

「!」
「こんばんは」
「…日本には迷惑防止条例があるし、ストーカーは法律違反よ」

ドアの外には誰であろう、ユノ本人が立っていた。

泣いて 泣いて 泣きやんだら

「ジェジュンヒョン」
「…」
「そんなに泣いたら、涙、無くなって乾き死んじゃいますよ」



そんなに責めないで…あなたが悪い訳じゃない。



「…大丈夫だよ、そのために飲んでるし」



呆れた。



「…あなたって人は」
「何だよ。こないだおれに非道いことしたの、誰だよ」

目が据わってる。
一人称も変わってる。

「お前、忘れたの?」

ひた、と睨み据えられる…こないだ?
…ああ、あの時か。
あの時は、僕にも僕なりに思いが有った訳で。



非道いって?…そうですけど、何か?



そうは言っても触らぬ神にたたりなし…酔っ払いの相手をしているより、学生の本分は勉強なので。


鞄から筆記用具を取り出して、課題の下書きでもしたほうが、時間が有意義に使える気がします。

経済学は畑違いだけど、面白い…僕は夢中になって下書きを始めた。




「…チャンミン?」


「はい、何でしょう」


「何してるの?おれを慰めに来てくれたんじゃなかったの??」
「課題…明日の午後イチが提出期限なんで」
「チャンミンは、エライね。飲んだくれのおれとはエライ違い…」
「学生ですからね」


「アジアのスーパーアイドル『東方神起』じゃないの?」


「はい」



とびきりの笑顔付きで答えると…すねた。



と思ったら、違うみたいで。

顔を伏せ、またしゃくりあげて泣いている。



…僕は、課題を諦めてペンを置いた。



「ヒョン」
「…チャンミンはさぁ、なんでそんなに頑張れるの?…例えば、勉強とか」
「簡単です。勉強した結果得たもので、もたらされる喜びを考えたら簡単に出来ます」

途中を大分はしょって、ざっくりと答える。

「例えば、それはなぁに?」

「大切な人の笑顔とか」
「…オンマとか?」

一瞬、答えまいか、と思ったが、笑顔で頷いた。

「そうかぁ…」



ジェジュンヒョンは少し、遠い目をして逡巡する。



「おれに出来ることってなんだろうね」



泣きやんでくれて、ちょっと安心する…僕には、ヒョンの涙を拭くことが出来ないから。
泣きやむまで一緒にいることしか出来ないから…。



「あ、そうだ」
「なぁに?」

まだ赤い双眸をしているけど、少し落ち着いた様子のジェジュンヒョンが可愛らしく小首を傾げる。

「これ。こないだのお詫びです」

鞄から薄い包装紙を取り出すと、ジェジュンヒョンは怪訝そうに

「随分、薄いね」
「見たら判りますよ」
「開けて良い?」
「もちろん」

包装紙を破ると、ヒョンはびっくりして叫んだ。

「絵本!…しかも、えーご!」
「大丈夫、これくらい誰でも読めますよ。」
「え~、無理…」
「だったら、ユチョンヒョンに、寝物語にでも読んでもらって下さい」

ジェジュンヒョンはがっくりとうなだれた。

「…大体、チャンミンからのお礼とかお詫びってさぁ…」うなだれながら、ぶつぶつ言ってる姿が面白くてつい、笑ってしまう。



「でも、ありがとう」そう言って、ジェジュンヒョンは膝を叩いた。

僕はよく判らなくて、首を捻る。
するとジェジュンヒョンは、おいでおいでをする。

「ちょっとだけ、抱っこさせて」
「僕を?…して、じゃなくて?」
「うん」

そう言って僕を抱き寄せたジェジュンヒョンから、いろんな思いが…偲いが、流れ込んで来た気がした。



「ね、ジェジュンヒョン」
「なぁに」

抱き寄せられたまま、僕は問う。
「この課題、提出は明日の午後イチなんです…明日の午前中で良かったら、僕も…一緒に行っても良いですか?」

ジェジュンヒョンの心拍数が上がる…僕の肩に、また新しい涙の粒が零れた。

「…ありがと。今日は、一人だったから…行けなかった…」



ユチョンヒョンはドラマの撮影。
ジュンスヒョンはミュージカルコンサート。



…ユノヒョンに、頼れば良いのに。



「じゃあ、夜食作るよ!課題がはかどるように!」



しっし、と僕を膝から降ろすと、ジェジュンヒョンは台所に向かった。



後に残されたのは、僕と課題、そして、プレゼントした絵本…。



タイトルは…『ハチドリの一滴』。



「大丈夫、たくさん有りますよ」



僕は独り言ちると、また課題に取り掛かった。
































~完~