起きてからメッセンジャーを立ち上げると、チャットレディーの仕事を紹介してくれた友達がいたので話し掛けました。



「昨日チャットレディーやってみたよ。」


「どうだった?売上あった?」


「あったよ。26000円だって。あれ本当に振り込まれるの?」


「初日からなかなかイイ売上じゃん♪

来月になるけど、一応ちゃんと振り込まれるよ。

締め日と給料日が半月ごとにあるから、

今日から15日までの売上は来月の1日に振り込まれて、

16日から31日までの売上は来月の15日に振り込まれるよ~。」


「じゃあ26000円は本当に振り込まれるの??」


「もちろん!」



友達の話を聞いても、にわかには信じられませんでした。だってあまりにも美味しすぎる話だし、こんな簡単に稼げるならみんなやってる筈だし。狐につままれた気分でした。



「初日で26000円も稼ぐんだから、もしかして○○さん抜くかもね。」


「○○さん??誰?」


「チャトレで有名な人。月収80万なんだって。

元キャバ嬢だけどキャバやめてチャトレやってんの。」


「へぇ~、そんな人がいるんだ。

でも月収80万なんて本当かねぇ・・・。嘘くさくない?」


「どうだろうね?私も知り合いじゃないからわかんないけど。

でも毎日2万稼いでも30日で60万でしょ?

昨日26000円稼いだ綾香からすれば現実的な数字じゃん。」


「うーん。

でも、チャットレディーのサイトにはさ、

毎月10万以上稼げるとか書いてたじゃん?

本当はそのくらいしか振り込まれないんじゃないの?」


「それはないよー。10万ってのは最低レベルの話だし。

60万以上稼げる!なんて書いちゃったら、

稼げなかった人から苦情来るから書けないんじゃない?

だってこれ、一応仕事だよ?月収10万なんて最低レベルでしょ。」


「そりゃそうなんだけど・・・。

月収60万も普通に考えたら非現実的な金額じゃん(笑)」


「チャトレなんてネットやってない人は知らないし、

知っててもほとんどの人は怪しがってやらないからね。

女の子が少なくて男が多いから、給料がイイのは当然だよ。」



真面目にチャットレディーについて語ったけど、それでも私の疑念は晴れませんでした。世の中そんなに甘くない・・・楽して稼げる方法なんて本当は無い・・・昔からずっと、そう信じていたから・・・。


それでも期待してしまってる自分がいて、毎日毎日暇さえあればチャットレディーのページにログインして、男達と適当な会話をして、日に日に増えて行く売上の数字を見ながら給料日を待ちました。



そしていよいよ初めての給料日。

締め日までに溜まってた売り上げは30万弱。

もしもこの金額が振り込まれていたら・・・。

期待なんかするもんか・・・と思いつつも、コンビニのATMへ向う間はずっと、「振り込まれていますように!」と祈るような気持ちでいました。もし振り込まれていなくても落ち込まないように・・・そう自分に言い聞かせながら機械にカードを入れて残高確認をすると・・・




預金残高・・・・・・・・297.230円




本当に・・・振り込まれた・・・。




私はその場で預金残高の全額を引き出し、ATM機のあったコンビニで好きなものを買い捲りました。ジュースにお菓子、カップラーメンにお惣菜、雑誌にサプリメント・・・欲しくもないのに目に付いたものはカゴに入れて・・・。きっと、稼いだという実感がまだ無かったから、それを感じたかったんだと思います。


家について、両手にぶら下げた3つのコンビニ袋を下ろしてから、もう笑いが止まりませんでした。夢が現実になったと実感できて、かつてない程の幸せを感じていました。



この調子なら私・・・大金持ちじゃん・・・!!



何をしても駄目で、続ける根性も無くて、楽な方へ楽な方へと流されるばかりで、その度に周りから責められ罵倒されていた私。


家事だってろくに手伝えずに母親からは毎日叱られてばかりの私。


自分の食欲も抑えきれず、疲れる運動もできずに太った醜い私。


仕事も運動も家事も勉強も、何もかも途中で投げ出すだらしない性格が顔に表れている私。



こんな最低な私でも、楽に稼げる手段を見つけました。

これでもう、嫌な思いをせずに、自分の好きなように生きていける・・・!



この時はまだ、この楽な仕事に何の問題も不安も苦労もありませんでした。

何の不自由も無い、極上の幸福を手に入れたような気になっていました。

もう二度と、顔や身体の事でクヨクヨ悩む事は無いと、そう思っていたんです。

「せっかく教えてもらったんだから、一度くらいやらなきゃ申し訳ないな。」


半分面倒くさく思いながら始めたチャットレディー。


「こんなのやってる時間があるなら掲示板で遊びたい。」

「知らない人とよそよそしい話をするのはつまんない。」

「お金なんかいらないからちょっとやってスグやめよう。」


始めてからもしばらくはそんな事を考えてました。

だって、いつもの掲示板に行けば「綾香」というブランドのような知名度があって、みんなが私と話したくて書き込んでくれるんです。私の一挙一動で掲示板全体の空気が浮いたり沈んだり、まるで私の掌だったんです。

それがチャットレディーの仕事だと、「綾香」だからって特別に扱われる事も無いし、私の影響力なんか全然なくて・・・。正直すごく退屈でした。


話し掛けてくる男はたくさんいました。つまらない会話がやっと終わっても、間髪入れず次の人が話し掛けてきて、また同じようなつまらない会話の繰り返し・・・。


「何歳?学生?」

「彼氏いるの?一人暮らし?」

「携帯のアドレス教えて!電話番号教えて!」

「写メ交換できる?」

「暇してるの?今日会わない?」

「エッチな話はOK?」


どの男も同じような事を聞いてきて、私の返事にも同じような反応。そのうち相手にするのも馬鹿馬鹿しくなって、ほんの数時間でやめてしまいました。くだらない質疑応答ばかりのチャットには馴染めなかったし、やっぱりいつもの掲示板の方が居心地が良いから。


その日の真夜中、いつもの掲示板に書き込んでもほとんど人がいなくて暇になったので、暇つぶしの為にもう一度、チャットレディーの方にログインしました。こっちには時間を持て余した男がたくさんいて、ログインしてすぐに話し掛けられました。

時間が遅かったせいか、この時に話し掛けてきた男達は昼間の男達とは少し違った雰囲気でした。もっとお互いの距離を大事にしてるというか、私に興味を持ってくれてるというか、何となく「話してもいいかな」って思える感じでした。


チャットに夢中になってるといつの間にか朝になっていて、相手の男は会社に行く時間になり、それでチャットを終えました。私も時間を忘れるほど夢中になっていたんだから、すごく楽しかったんです。昼間はあんなに鬱陶しく感じたチャットが楽しくなってしまってて。


私も夜通しチャットしてたので眠くなってきて、寝る前に自分の売り上げを見ようと思いました。別にお金が欲しくて始めたわけではなかったけど、どんなもんなのか気になって。それに、いくらかでもお金が稼げるなら儲けモンだと思って。それで売上確認ページを見てみると・・・


26000円


私は自分の売り上げ金額を見て目を疑いました。

ケタが一つ違うのかと思いました。2万6千円・・・本当に??

「こんな簡単に、しかもネットで楽して稼げる筈がないじゃない。

こうやって表示してるのはダミー。振り込まれるわけないよ。」

そう思いながらも、内心ドキドキしていました。

もし、こんな簡単に稼いだお金が私の物になるなら・・・何に使おう?


でも、あまり期待しても後から凹むだけなのであまり期待はせずに、その日は眠りにつきました。

私がネットにのめり込んで行くのを、家族はずっと不審に思っていました。両親は、両親は私の部屋に来る度にお小言、妹からは「気持ち悪いよ」とまで言われました。実際、私は一日中パソコンに向っていたので、気持ち悪いと言われても仕方が無かったと思います。


そんな生活を繰り返していたある日、ネットで仲良くなった女の子に突然メッセンジャーから話し掛けられました。



「綾香って話すの上手いよね。面白いし。」


「え?そう??」


「キャバ嬢とかやったら絶対売れると思う!」


「そ、そうかなぁ・・・(苦笑)」


「だって綾香が書き込むと(掲示板が)すごい盛り上がるでしょ?」


「そうなの?」


「そうだよ!人が寄って来るんだもん。綾香にはカリスマ性があるよ。」


「え~?よく分かんないけど(笑)」


「綾香さ、チャットレディーやってみたら?」


「チャットレディー?何それ??」


「チャットしてお金貰う内職みたいなやつ。

WEBカメラで顔とか見せながら男と話すの。

バーチャルキャバクラみたいな感じ?(笑)

私も暇な時にやってんだけど、小遣い稼ぎ程度にはなるよ。」


「ネットでやるの?」


「うん。普通にメッセみたいにチャットするだけ。

話す時間が長ければ長いほどお給料が高くなる。

綾香ならきっと、かなりイイ線行くんじゃない?」


「う~ん・・・。でも私、顔は見せたくないなぁ。」



こんな私の顔なんか出したら、誰も相手にしてくれないし、笑い者になるのが目に見えていたから・・・。だからWEBカメラなんて、始めから眼中に無くて。もちろん、そんなカメラを使わなきゃいけないチャットレディーなんかも興味ゼロ。



「綾香って美人なんでしょ?

美人でそのカリスマ性なら無敵じゃん。

チャットってキャバより稼げるから、キャバ嬢あがりの女多いよ。

でも、すれてるキャバ嬢と綾香は全然違うし。

絶対イイ線行くと思うからやってみなって!」


「私、顔出すのは本当に嫌なんだ。知り合いに見つかったら大変だしね。

だから残念だけど、チャットレディーは出来ないよ・・・。」


「顔出さなくても出来るのあるよ?それならいいんじゃない?

でも、美人なら顔出した方が得だよ~??」


「美人じゃないから損になるよ(笑)」



こんな風に誘われて、半信半疑のままチャットレディーとやらを始めました。