不出来な外見ゆえに悲壮な学生時代を過ごした私にとって、ネットの人間関係は初めて体験する「楽しい人付き合い」でした。それまで自分の殻に閉じこもって外界から切り離された場所で孤独な時間を過ごしていた私は、ネットの友達から得る些細な情報がとても新鮮で、毎日が勉強と発見の日々でした。
ネットを初めて1年ほど経った頃、私は(ネットの中の)とある場所で有名になっていました。性別以外は顔も本名も住所も何も公開していない事から、ミステリアスな女性としてファンがついたほどです。私の日記や論述、色んな人との討論、様々な場所で私は思いのまま発言し、同性からも異性からも、「頼れる姐御」のような存在になっていました。
やがて私に興味を持った人々が、私の人物像を勝手に想像するようになりました。中でも最も多かったのが、「綾香は美人」というものです。
実際の私は・・・目も当てられないほどのブス。
時々、ファンの人から「綾香さんの顔写真見せて」と言われました。でも、私は自分の築き上げた「頼れる姐御」のポジションを守りたかったので、絶対に素性を明かす事はありませんでした。万が一、私の顔が皆に知れたら・・・「そんな顔で偉そうな事を言ってたのか?」と言われかねません。
私のよく参加していたチャットでは、頻繁にオフ会が開かれていました。オフ会というのは、ネットで交流のある人同士がオフライン(リアル)で実際に会う事です。実際に会って話す事で、ネット上とは違った楽しみも見出せるそうで、私も頻繁に誘われていたのですが・・・とても参加する勇気はありませんでした。参加すればその日から私はイジメの対象になりかねない・・・。学生時代と同じ事になって、せっかく見付けた居心地の良いネットの世界さえ追われてしまう・・・そう考えました。
だから、ミステリアスな女・・・「綾香」は、絶対に顔を見せないという事で、私の顔を見たがる人が増えて行き、私の知名度や人気はますます上がって行きました。