数学者の夢(その2) | TERUのブログ

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つれづれに

2月に入ったので、そろそろ、素数の続きを書いてみましょうか。

いや、べつに、月一連載にしようと思ってるわけじゃないけど、数学ブログ書くと、けっこう知恵熱出ちゃうから(笑)、そのくらいの頻度になりそうですなあ。

さて、素数。

前回、2000年以上研究されているのに、いまだ素数を見つける「公式」は見つかっておらず、その難しさから、暗号に使われているって話をしました。

数学者にとって、すべての素数を導くことができる公式を見つけるのは夢なんですよ。

今日は、数学者がその夢にどんなふうに挑んできたか、いや、挑んでいるかを紹介しましょう。

と、いった(書いた)舌の根も乾かぬうちになんですが……

素数の公式を解説するのは、チョー難しい!

いま、真の素数公式に一番近いと思われているのは、ドイツの数学者、ベルンハルト・リーマン(1826~1866)が、1859年に発見した公式なんだけど……見てみますぅ?

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こちらでございます。名付けて、『リーマンの素数公式』。

どう?

これ見てあなた、解説してみる気になる?

わたしはなりません(苦笑)。

いや、うそは言うまい。無謀にも解説してみる気になって、しばらく知恵熱出してみたけど、やっぱ無理だわさ。

無理無理!

リーマンの素数公式を簡単に説明するなんて、ぜーったい無理!

なにせ、この式には、数学界の超難問『リーマン予想』が含まれているのだ。フェルマーの最終定理が解かれたいまとなっては、もっとも有名な未解決問題のひとつ。アメリカのクレイ数学研究所が100万ドルの懸賞金をかけてる問題です。

あ、そういえば急に思い出した。

故カール・セーガンは、宇宙人と電波でお話ができるってへんてこな人たちに、いつもこう聞いたそうです。

「地球人より、はるかに高度な科学を持った宇宙人に聞いてください。フェルマーの最終定理の証明の仕方を」

すると、宇宙人と電波でお話ができるという変な人たちは、みーんなが、みんな、カール・セーガンを無視したそうです(笑)。

でもね、フェルマーの最終定理は、地球人が自力で証明しちゃいましたから、こんどは「リーマン予想」が正しいか、それとも間違っているか、そのどちらかの証明を宇宙人に聞かなくちゃいけませんな。

ん?

わたくし、なんの話をしてたんでしたっけ?

ああ、そうだ。素数についてだ。なんで、こんなに脱線するかねえ。

オホン。

失礼しました。では、そろそろマジメに書きましょう。

ご覧のように、リーマンの式は、大変むずかしゅうございますので、解説は諦めました。だからまあ、わかる範囲で、ぼちぼち話してみますよ。っていうか、なにか語らないとブログにならないんで、がんばってみます。

そもそも、素数の公式が2000年以上も見つからないのはなぜでしょう?

それは、分布が不規則だからです。

もしも、素数が現れる頻度に、なんらかの規則(リズム)があるのなら、どんな大きな素数でも、簡単に見つかりますよね。

さらに、数学者は規則を発見するだけでなく、なぜ規則正しく現れるかの理由を考えて、それを証明することができるかも知れない。

ところが、素数には規則性がないように思えるんですよ。無限に続く自然数の中で、あるとき、なんの前触れもなく、ふいに現れる。それが素数なのです。

逆に、なぜ不規則なのか……いや、本当に不規則なら、それはそれで証明しなくちゃいけないんだけど、それすらできない。

つまり、もー、ぜーんぜん、まったく、わかんなーい!

というのが素数の恐ろしさなんです。

でもね、そーもいってられないので、数学者たちは、とにかく素数を探し続けました。その作業を続けるうちに、もしかしたら、規則が見えてくるかも知れない。

すると……

素数は、数が大きくなればなるほど、だんだんと、現れる頻度が少なくなるようなのです。

おー!

ついに、素数になんらかの「規則」めいたものが見えてきました。

もしも、素数が「どんな頻度で現れるか」を知ることができれば、素数の公式が作れるかも!

数学者たちはそう考えて研究に没頭したんです。

素数の性質に関して、近年の数学者で、もっとは早く実りある研究をしたのは、レオンハルト・オイラー(1707~1783)です。

オイラーは、「すべての自然数を2乗して、その逆数を無限に足すといくつになるか?」という、当時未解決だった問題を考えていました。

そのとき、無限の足し算の式を変形すると、すべての素数が現れる、無限の足し算になることを発見したのです。

オイラーは、さらにその式を発展させて、1760年ごろには、今日(こんにち)「ゼータ関数」と呼ばれる式を作り上げました。

ゼータ関数と呼ばれるのは、のちにこの関数を研究したリーマンによるものです。その話はブログの後半で説明します。

さて、それから時は巡って、1792年のある日。

当時、15歳だった、カール・フリードリッヒ・ガウス(1777~1855)は、素数に興味を持っていました。彼は数を1000ずつ区切って、その中に現れる素数の数を地道に数えたそうです。でも、100万桁まで行く前に諦めたそうですが(苦笑)。

ところが!

この試みを続ける中で、ガウスは、くそまじめに素数を探さなくても、「ある数までに現れる素数の個数」を知ることのできる式があることに気がつきました。

それは、オイラーが32年前に思いついたゼータ関数と、基本的には同じ意味を持つ式だったんです。

15歳のときに、いったい、なにを考えてるんじゃガウス。頭よすぎ。(ちなみに、オイラーがゼータ関数を思いついたのは50歳をすぎてから)

ちょい余談ですが、ガウスは、まさに数学界の大天才ですね。事実、生前から「数学の帝王」なんて呼ばれていたらしいですよ。

しかーし!

喜ぶのはまだ早い。

ガウスの式は、素数の数をぴったりいい当てることはできないのです。「だいたい、このくらい」という近似値しか出ない。

たとえば、1000までの中に、素数は168個ありますが、ガウスの式では134個となります。1万までは1229個あるけど、ガウスの式では1022個となる。

でも、数が大きくなればなるほど、ガウスの式は、正確な素数の数に近づいていくんです。

このように、素数の個数をいい当てる式のことを「素数定理」と呼ぶんですが、定理と言うからには、証明されていなければいけません。

ガウス自身は証明しなかったけど、後にほかの数学者たちが、たしかに「近似値の出る式」であることは証明しました。(正確な個数が出るから証明されたわけではないところがややこしい)

その証明を行った一人が、今回話題のベルンハルト・リーマン。

彼は、オイラーの式に目をつけて、その式を自分なりに変えて証明を行いました。

そのとき式の中で、記号の「ζ」(ゼータ)を使ったんです。これはギリシア文字の6番目。アルファベットの「Z」の元になった記号です。だから、オイラーの式はゼータ関数と呼ばれるのです。(正確にはリーマンの名も入れて『リーマンゼータ関数』ですが、ゼータ関数と呼ぶのが一般的)

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こちら↑が、リーマンゼータ関数の基本形。

こいつをいろいろ展開していくと、このブログの最初で紹介した、あの、チョー難解な、リーマンの素数公式になるんざますのよ。

もう一回見ますか?

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↑これね。

リーマンは、この式を使って、素数定理の証明を行ったと(※注)、先ほど書きましたが……

そのときリーマンは、ある「仮定」を置くことにしました。その仮定こそが、「リーマン予想」と呼ばれる、数学界の超難問なのだ。

知りたい?

では、じっくりとお読みください。これがリーマン予想です。

『リーマンゼータζ(s) の自明でない零点sは、全て直線Re(s)=1/2上に存在する』

どう?

もーね、アホらしいくらい、ぜんぜん、意味わかんないでしょ(笑)。

自明でない零点ってなにさ?

まず、「自明でない」というのは、ここでは本質的なという意味と捉えればいいでしょう。

自明な(つまり簡単な)解は、すでにオイラーがいくつか見つけています。オイラーはこの式を、整数で考えたんですよ。

ところがリーマンは、ゼータ関数の定義域を、複素数(虚数)に広げました。この複素数の中にこそ、自明ではない(本質的な)解があると言うんです。

つぎに零点。関数ていう零点とは、方程式で言うところの解のことですな。だから、「ゼータ関数ζ(s)の零点」というのは、「方程式ζ(s)=0の解」と言い換えても通じますね。

このことから、リーマン予想を言い換えると――

『ゼータ関数の本質的な解は、直線Re(s)=1/2上に存在する』

と言ってるわけ。

なに? その説明のほうが、もっとわからんって?

うー、だから、マジで説明が難しいんだってばー。今回ばかりは、書いてるぼく自身が、ちゃんと理解しているか疑わしいんだから。

では、ぼくに理解できる範囲で、最大限に簡単に言うと――

ゼータ関数(方程式)の本質的な解は、1/2の直線上、すなわち0と1の間に存在する!

ということなんです。

だからなにさ?

いや、だからですね(汗)……

ゼータ関数は、素数によって生み出された関数です。だから、この関数の性質が理解できるならば、素数を見つけるための完全な公式が作れるわけです。

で、リーマンは、大胆にも、その解が、0と1の間に存在するって言ってるわけ!

実際に探してみると、たしかに、存在するんです。あ、ちなみに、解になる複素数は無限に存在しますからね。

リーマンが予想した通り、0と1の間に、零点になる(解になる)数字がいくつも存在していて、いまではコンピューターによって、なんと、15億個も見つかっている!

要するに、コンピューターで、15億回も検証して、そのすべてが、リーマン予想が正しいと言ってるわけです。これを逆に言うと、リーマン予想に反する解は見つかっていないのです。

でも!

これらは、「数字を当てはめてみたら正しかった」というだけで、リーマン予想が証明されたわけではありません。力業で探してるだけ。

なぜ、リーマンの予想した通りになるのか、リーマン予想が発表されてから、153年も経つのに、いまだにわかんない。

どうしてこれほどリーマン予想を証明するのは難しいんでしょう?

それは、何度もいうように、ゼータ関数が(ひいてはリーマン予想が)、素数の性質を表しているからに他なりません。リーマン予想を大胆に言い換えると、「ゼータ関数のすべての零点(解)をあつめれば、素数の個数を知ることができる」ということなのです。

そう……それが実現すれば、素数判定(素数を見つける作業)も、素因数分解も、格段に簡単になるはずです。

リーマンは、2000年以上解かれていない素数の秘密を暴くための、トレジャーマップ(お宝の地図)を提示したんです。

え?

素数の秘密が暴かれるですって?

ちょっと待った。素数は暗号に使われていると前回書きましたよね。じゃあ、リーマン予想が証明されると、どうなっちゃうんでしょ?

いや、どーもこーも……どーなるんでしょうね?(苦笑)。

素数を探すのが難しいから暗号に使えるのに、リーマン予想が証明されて、もし簡単に素数を見つけることが可能になるのだとしたら、いまの暗号に支えられた社会システムが崩壊するかもしれません。

どひゃー。

フェルマーの最終定理は、350年かけて解かれましたけど、リーマン予想は、あとどのくらいかかるでしょうか?

それはだれにもわかりませんけど……数学者の意見をまとめてみると、いまのところ、進展はほとんどないそうです。山で言えば、まだ三合目にも達してないだろうということらしいです。

150年かけて、やっと三合目……

残念ながら、あ、いや、もしかしたら幸いなことに(苦笑)、ぼくらが生きている間に、リーマン予想が証明されることはなさそうです。暗号システムは、まだ当分の間、安泰のようです。

だれかが宇宙人に聞かない限り(笑)。

いや、冗談はともかく。

素数の秘密を暴くという数学者の「夢」が実現したとき、社会システムにとっては「悪夢」になるかも知れないというのは、皮肉なものですね。

と、締めるとカッコイイから書きましたが、リーマン予想の証明だけでは、いまの暗号システムは破られない可能性のほうが大きいという数学者もいます。いまの暗号システムに多少なりとも影響を与えるには、ゼータ関数を、L関数に広げた、拡張リーマン予想を証明する必要があるとかかんとか……

まったく、数学者の言うことは、サッパリわかりませんね。でもまあ、リーマン予想が証明されるだけでは、そんなに心配することは起こらないのかも(笑)。

ノンちゃん、今日のお話はわかりましたか?

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うーんと……えーっと……

ノンちゃん、考えてるフリしなくてもいいから(笑)。



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※注
じつは、リーマン自身は、自分の作った素数定理を完全には証明しませんでした。完全な証明は、リーマンが論文を発表してから36年後の1895年、フォン・マンゴルドによって行われました。

なお、ここでいう証明とは、リーマンの素数定理が「機能」することの証明であって、リーマン予想の証明ではありません。
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追記1
リーマン自身、自分のリーマン予想の証明に取り組みましたが、すぐに諦めたそうです(笑)。正直にも彼は、そのことを論文の中で告白しています。

彼は『与えられた数より小さい素数の個数について』と題した、わずか8ページの論文の中で、こう書いている。

「私は少しばかり粗雑で成果のでなかった試みの後に、差し当たりこの証明には手をつけないでおくことにした。なぜなら、以下の私の研究の目的にはなくてもよいとおもえたからである」
(訳:平林幹人、『リーマン予想』、日本評論社)

「私の研究の目的にはなくてもよい」なんて、負け惜しみに聞こえるけど(笑)、リーマンは、自身の予想を証明する困難さを知っていたのでしょう。できない証明に没頭して、人生をむだにしたくなかったってことですね。

話は変わりますが、リーマン予想が証明されなくても、量子コンピュータなどが実用化されると、いまのコンピューターで数千年かかる計算も、たった数十秒で解けると期待されています。そうなると、素数を探すのも簡単になって、いまの暗号は使えなくなるでしょう。リーマン予想の証明より、そっちのほうが早いかも。っていうくらい、リーマン予想を証明するのは難しいそうですよ。

また素数には、双子の素数問題や、ゴールドバッハ予想などなど、未解決の問題が山積みです。しかし、これらも素数の現れる頻度に関係しているモノが多く、リーマン予想が証明されて、素数の性質がいくらか理解されれば、解ける問題なのかも知れません。

最後にもう一つ。
ほとんどの数学者は、リーマン予想が正しいと信じていますが、もちろん、間違っている可能性だって一兆分の一はあるかもしれない。その場合は「間違っている」という証明が必要で、「正しい」とする証明と同様に難しいのでしょう。
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追記2
ここから先は、読みたい人だけ。リーマン予想を、もう少し専門的に解説します。

リーマンの素数公式の真ん中あたりに、1/2+αί、1/2-αίとあります。
ίは、2乗するとマイナスになる虚数です。この虚数を使って表される数が複素数と呼ばれる数なんです。

つまり、リーマンの素数公式とは、1/2+αί、1/2-αίという、2つの複素数をすべて足したのが、素数の個数に等しいという式なんですね。(式の中の「Σ」(シグマ)は、総和の記号です)

それを踏まえた上で、リーマンが置いた予想(仮定)とは――

「1/2+αίと1/2-αίこそが、リーマンゼータ関数の、自明ではない零点のすべてである」

ということになるようです。(ぼくの理解が正しいなら……)

ということで――

ζ(1/2±αi)=0

という方程式の、「α」の部分に当てはめてる複素数を、いまもコンピューターで探し続けていて、それが15億個を超えてもなお、上の式(リーマン予想)は成り立つのです。

それだけ探して反例が見つからないのだから、どうやらリーマン予想は正しそう……という程度のことしか言えないのが現状です。上に示した通り、解が1/2の直線上、つまり0と1の間にあることしかわかりません。その範囲を絞り込むことすらできないのです。

リーマン予想の証明は、本当に、はるか彼方にあって、見果てぬ夢なのです。
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数式の画像をWikipedia等、いくつかのサイトから拾わせてもらいました。感謝、感謝、感謝!