「空想の世界に憧れて」・・・・・・・オンライン小説連載中 -5ページ目

お気に入りの本~島本理生『ナラタージュ』

お気に入りの本~① 島本理生『ナラタージュ』 

島本 理生
ナラタージュ

第一回目は最近メキメキと頭角を現しつつある若手小説家、島本理生さんの『ナラタージュ』です。

一番最初にどの本を紹介しようかかなり悩んだのですが、手始めに「今、一番ハマッている本」からいこうかなと。

島本理生さんは芥川賞候補に何回か挙がっている方で、私が最初に読んだのは『生まれる森』でした。

もちろん、芥川賞にノミネートした作品だから・・と言う動機で読んだのですが感想は・・・・


しかし、ある日、書店をぶらぶらしていると、本の帯に書いてあった小川洋子さんの言葉に惹かれました。

「魂を焼き尽くす程の恋。 封印したはずのあの痛みを、よみがえらせてしまう小説」

帯買いでした。そして・・・どっぷり浸かってしまいました。


一言で表すなら「読みやすい素直な小説」です。こういう良作はまず読む前に「自分の心を素直にして読む」事をお薦めします。 自分に合う、合わないではなくとりあえず読み進めてみる・・そうすればいつの間にか最後まで読んでしまっていると思います。そして、自分の心の中に「恋する痛み」が目覚めるはずです。


この後紹介する綿矢りささんの『蹴りたい背中』が【静】なら、島本さんのこの作品は【動】です。

こんな作品を書きたい・・いや、書きますけど(笑)

現在2回目の読みに入っています。 感想などコメント欄に残して下されば嬉しいです^^




■あらすじ
大学2年生の春、泉に高校の演劇部の葉山先生から電話がかかってくる。高校時代、片思いをしていた先生の電話に泉は思わずときめく。だが、用件は後輩のために卒業公演に参加してくれないか、という誘いだった。「それだけですか?」という問いにしばらく間があいた。
「ひさしぶりに君とゆっくり話がしたいと思ったんだ」
高校卒業時に打ち明けられた先生の過去の大きな秘密。抑えなくてはならない気持ちとわかっていながら、一年ぶりに再会し、部活の練習を重ねるうちに先生への想いが募っていく。

不器用だからこそ、ただ純粋で激しく狂おしい恋愛小説。(以上、角川書店より引用)

バリア(障壁)~18

もちろん香織にはその事を話さなかった。

私は色々な質問をし、香織は少し浮かれたように答えた。
私の瞳から、香織が入り込んできているのが分かった。
久し振りに女の子と夢中になって話をしたような気がする。


最近、私を取り囲む女たちは最悪だ。
将来有望な(将来お金を運んでくれそうなと言った方が正しいかもしれない)バイクレーサーの卵と言う肩書きしか見ていない。 いつしか肩書きが取れる日が来たなら、奴等は引き潮のように去っていくだろう。
どの女も抱きたいと言えば自らスカートをまくし上げる・・・


残りのビールを流し込み、時計を探した。
店内には時計が無かった。 そういえば、スナックのような店には時計を置かないんだっけ。

香織はまだ来ていない。仕事先の美容室から来ると言っていたので20時くらいだろう。

「すみません、今何時ですか?」
百合子ママに聞いた。

「ちょうど8時よ、克哉君誰かと待ち合わせ?」

いえ、と答えてビールを追加で頼んでからもう一本煙草に火を付けた。

今日は開店初日なので店内はもう満員御礼状態だった。 百合子ママはあちらこちらのテーブルに顔を出し、名刺や店の連絡先が彫り込まれたライターを渡してまわっている。
カウンターの中も昨日プレオープンに招待されていた百合子の同級生が数名手伝いに来ている。


香織が来るまでの間、私は百合子を眼で追っていた。

夫は別居が始まってから、全くお金を出さなかったと言う。

しかし、だからといって不倫が認められる行為とは私は考えない。

塚田にも夫人が健在だ。 しかも昨日プレオープンに来ていた。

塚田夫人は百合子を終始眼で追っていた。


「私には関係ない」

そう呟いてビールを飲み干したとき、店の入口の鈴が鳴った。



約束どおり、香織が現れた。




次回へ続く・・・



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バリア(障壁)~17


次ぐ日から、私は百合子の店の常連客になっていた。

無類の酒好きと言う訳ではない。カラオケは苦手だ。実は人の集まる場所が大の苦手だったりする。

理由はひとつ。
波長の合う香織と、もっと話がしたかったから。

カラオケボックスの時に連絡先を聞くのが一般的なアプローチなのだろうが、携帯電話は持ってないし、越してきたばかりで部屋に電話も無い。なにせ香織に連絡先を聞く勇気を持ち合わせて無い。

というか2人きりだったならば、なけなしの勇気を振り絞って聞き出したかもしれないが、途中から翔子と瞳が妙に気を使って歌に集中している振りをしているのに気付いて、なんだか話しづらくなったと言うのが本音だ。
とにかく、香織ともっと話がしたいがために、店が落ち着くまでしばらく手伝いに来ると言っていた彼女の言葉を信じて通うことにしたのだ。

あの出来事以来、女性の言葉を信じたのは初めてだ。


私はカウンター席一番奥の椅子に陣取り、百合子ママにビールとキスチョコをオーダーしてから煙草に火を付け、ひと息吸い込んだ。そしてカウンターテーブルに置いてあった箸置きをいじりながら香織との昨日の会話を心の中で反芻した・・・・


香織たちとは奇遇にも故郷が私と同じだった。
母親である百合子と地元でも有数の実業家だという父親は、性格の不一致と言う事で別居中らしい。(本当の所は父親の浮気癖が酷いので百合子が愛想を尽かしたのが本当のところらしいが。娘達は知ってて知らない振りをしている・・・)

二年前に百合子の実家のあるこの街に4人で越してきたらしい。

当初、百合子は精神的ショックから引きこもりになり心身ともに弱っていたが、そのときに友人を介して知り合った塚田進の会社で働くようになってから、徐々に快方に向かってお店をやるまでになったという事。

そのお店は大部分を塚田が無償で出資しているという事・・・



「お金だけの関係じゃないだろうけどね・・」


煙草をふかしながら独りつぶやいた。

瞳と一晩明かす勇気が無くて外に出た時、私はしっかり見てしまった。

百合子が塚田の事務所の裏口から中へ入っていったのを。

公園のブランコに座ってこの眼で。




次回へ続く・・・



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バリア(障壁)~16


私は香織、翔子、瞳の3姉妹を連れて駅前のカラオケボックス「パワフルボックス」に来ていた。


時間は午後9時。 いわゆる一番混み合っている時間帯にすんなり入れたのは幸運だった。

香織たちは部屋に入ってドリンクを頼むと、一斉に選曲を始めている。


ひとつ深呼吸をした。狭いカラオケボックスの中は決して空気の良いところではないが、「ゴミの匂い」はしなかった。 もしかしたら香織たちの身に着けている微かな香水のような、いや、シャンプーと石鹸のような香りが心地よくて気にならないのかもしれない。 私は特に選曲をするわけでもなく、3人を観ていた。



香織たちはこれでもか、これでもかと仲良く順番に歌い、3人が好きな共通の曲は合唱と化していた。

それでも微妙に好みは分かれているようで、翔子と瞳はかなり好きな曲が重なっている。

2人で人気女性アーティストの曲を歌い始めた時、香織が隣に座ってきた。


「克哉君は歌わないん?」

「俺はカラオケ苦手だから・・」

「でも私、克哉君の歌ってるの聴きたいな」

「・・少し酔いが醒めたら考えておくよ」


既に酔いは醒めていると思う。 しかし、香織が私の身体にぴったりとくっついてくるせいからか、なんかまだ酔いが抜けていないような感覚・・・ 香織は初対面のときからそうだが、人懐っこくて積極的な性格で私は幾らか押され気味だ。でも、このドキドキする感覚は嫌いじゃない。 むしろ好きな感覚だ。
瞳の時に感じたのは淡い思春期のような、百合子の時は男の本能を刺激されたような。 香織は・・・・そう、恋の始まりのような。

最初は寄り添われるのを避けるようにして座っていたが、いつしか私も香織に重さを与えていた。


ボックスの中は騒音で充満していたが、自分の胸の高鳴りは多分香織に伝わってしまっていると思う。

その反対に、香織からは触れ合う肌の温度が上がっているのが感じられた。




次回へ続く・・・





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バリア(障壁)~15


宴もたけなわという頃、私はすっかり隅っこで手酌酒となっていた。


唯一の話し相手となりうる存在だった星矢は、始まってから1時間もしないうちに「気分が悪い」と言う理由で帰ってしまったのだ。 周りの社員は、どうせ社長と一緒の空気を吸いたくないのだろうと言っていたが、私も同感だ。  3姉妹は本日限りのホステス役・・・というよりは、お手伝いで大忙しでとても私のところへ来る気配はない。 カラオケの騒音に紛れて、完全にお店の置物のひとつに数えられている。


急に吐き気を催したので、私は席を立った。 少し飲みすぎたかも知れない。

誰に気付かれるでもなく独りトイレに向かった。

スナックを始める前は何のお店が営業していたのか分からないくらいの立派な広さを持つトイレで、今日流し込んだばかりのものを吐き出す。 赤を基調とした程よいセンスの便座カバーを少し汚してしまった。

今日は私の歓迎会だったような気がした。 早く帰りたい気持ちになりながら汚れたものを綺麗にしていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「北条くん、大丈夫?」

声の主は百合子だった。

「あ、ちょっと待ってください。折角の便座を汚してしまって・・」

「開けてもらっていい?」

「自分でやりますから」

「いいから開けてちょうだい」


仕方なくドアを開けると、百合子が中へ入ってきた。


日本人が好みそうな、甘くてきつ過ぎない良い香りが鼻をくすぐった。 百合子も客に飲まされたのか、それとも照明のせいか分からないが肌が桃色に染まっている。 私は心音を聞かれない様に少し離れたが、いくら広いトイレといえども2人入れる程のスペースは無い。 私はいたたまれなくなって顔を背けた。


「あたしの同級生がそろそろみんな帰るらしいの。そうしたら娘達手が空くからさ、北条くん3人連れて駅前のカラオケボックスにでも連れて行ってくれない?」

「僕がですか?」

「北条くんもおじさんおばさんばっかりの場所じゃ息詰まるでしょ。若い子達で楽しんで来てね」


返す言葉を思案している間に百合子は店内の客に呼ばれて行ってしまった。



私は、開放される理由が出来たと解釈することにして、トイレを出た。



次回へ続く・・・




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