バリア(障壁)~15
宴もたけなわという頃、私はすっかり隅っこで手酌酒となっていた。
唯一の話し相手となりうる存在だった星矢は、始まってから1時間もしないうちに「気分が悪い」と言う理由で帰ってしまったのだ。 周りの社員は、どうせ社長と一緒の空気を吸いたくないのだろうと言っていたが、私も同感だ。 3姉妹は本日限りのホステス役・・・というよりは、お手伝いで大忙しでとても私のところへ来る気配はない。 カラオケの騒音に紛れて、完全にお店の置物のひとつに数えられている。
急に吐き気を催したので、私は席を立った。 少し飲みすぎたかも知れない。
誰に気付かれるでもなく独りトイレに向かった。
スナックを始める前は何のお店が営業していたのか分からないくらいの立派な広さを持つトイレで、今日流し込んだばかりのものを吐き出す。 赤を基調とした程よいセンスの便座カバーを少し汚してしまった。
今日は私の歓迎会だったような気がした。 早く帰りたい気持ちになりながら汚れたものを綺麗にしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「北条くん、大丈夫?」
声の主は百合子だった。
「あ、ちょっと待ってください。折角の便座を汚してしまって・・」
「開けてもらっていい?」
「自分でやりますから」
「いいから開けてちょうだい」
仕方なくドアを開けると、百合子が中へ入ってきた。
日本人が好みそうな、甘くてきつ過ぎない良い香りが鼻をくすぐった。 百合子も客に飲まされたのか、それとも照明のせいか分からないが肌が桃色に染まっている。 私は心音を聞かれない様に少し離れたが、いくら広いトイレといえども2人入れる程のスペースは無い。 私はいたたまれなくなって顔を背けた。
「あたしの同級生がそろそろみんな帰るらしいの。そうしたら娘達手が空くからさ、北条くん3人連れて駅前のカラオケボックスにでも連れて行ってくれない?」
「僕がですか?」
「北条くんもおじさんおばさんばっかりの場所じゃ息詰まるでしょ。若い子達で楽しんで来てね」
返す言葉を思案している間に百合子は店内の客に呼ばれて行ってしまった。
私は、開放される理由が出来たと解釈することにして、トイレを出た。
次回へ続く・・・
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