♣10
相葉ちゃんがブランケットを持ってきて、そっと翔君に掛ける。
「もう少し飲むよね。」
「うん。 じゃ、もうちょっとだけ。」
俺のグラスに焼酎を継ぎ足してくれる。
「俺、おおちゃんに聞いてほしいことがあるんだ。」
「ん? 何?」
「あのね・・・。」
ちょっとためらうようにグラスに視線を落とす。
珍しい。相葉ちゃんがこんな風に言い淀むなんて。
何か深刻なことだろうか。
「どうした? なんかあった?」
相葉ちゃんがくいっとグラスを煽ると、ふーっと大きく息を吐く。
「俺・・・、翔ちゃんが好きなんだ。」
「えっ?」
今、なんて?
「急にびっくりするよね。 ごめん。」
「いやあの・・それって・・・。」
「うん。 友達の好きじゃなくて恋愛対象としてってこと。」
「えぇっ!?」
「しー。」
相葉ちゃんが人差し指を唇に当てて、翔君の方を振り返る。
「ぐぉー・・・すぴー・・・。」
ぐっすりと眠り込んでいるのか、軽く鼾をかいている。
「あっ、ごめん。」
「くふっ、大丈夫みたい。
よく寝てる。」
翔君を見つめる眼差しがすごく優しい。
ずきん・・・。
どこかわらない胸の奥の方が痛い。
そっか・・・。 そうだったんだ。
「最初は単に友達として、メンバーとして好きなんだって思ってた。
でもそのうち、会えないと寂しくて、今何やってるのかなとか誰と一緒なのかなとか、
翔ちゃんのことばっかり考えるようになって。
女優さんとかと楽しそうに話しているのを見ると、なんかもやもやして。
ああ、俺、翔ちゃんに恋してるんだって気づいたんだ。」
「翔君は知ってるの?」
「ううん。
だって翔ちゃんってさ、根は優等生じゃない?
そんなの受け付けないよ。」
「・・・。」
「やっぱこういうのって、気持ち悪いって思う?」
相葉ちゃんが不安そうに俺を見る。
「ううん。思わないよ。」
ぶんぶんと頭を振って強く否定する。
「・・・よかった。」
「でも、どうして俺に?」
「おおちゃんだからだよ。」
「へ?」
「おおちゃんって人のこと絶対に否定しないじゃない?
だからみんな、おおちゃんの傍にいると優しい気持ちになれるんだよね。」
「そ、そうかな。」
「そうだよ。
俺さ、一緒にいて一番安心できるのはおおちゃんなんだ。」
「俺も相葉ちゃんといるとほっとするよ。
なんか波長が合うっていうか、何も言わなくても通じ合える気がするんだよね。」
「うん。俺も。」
誰よりも優しい相葉ちゃん。
どんな時でも、そのとびっきりの笑顔で周りの人を幸せにしてくれる。
「実は、告っちゃおうかなって思ったこともあったんだ。
でもそれで今の関係を壊すくらいなら、何もしない方がいいのかなって。
少なくとも好きな人の笑顔を一番近くで見ていられるから。」
寂しそうに目を伏せる。
「でもそれってつらくないか?」
「・・・うん。 つらいよ。」
うつむいた相葉ちゃんの肩が震えている。
「つらくてつらくて・・・、もうどうしていいかわからなくなることがある。」
「相葉ちゃん。」
そんなにも翔君のこと・・・。
「くふっ、なんでおおちゃんまで泣いてんの。」
「だって・・・。」
「ぐすっ・・ありがとう。」
大きな手が背中に回って、しっかりと抱きしめられる。
「おおちゃんに聞いてもらって少し楽になった気がする。
これで明日からも頑張れるよ。」
相葉ちゃんが涙を拭いながら笑顔を見せる。
「ほんとに・・それでいいの?」
「えっ?」
「このままで、相葉ちゃんはほんとにいいの?」
「だってさ、告ったせいで避けられたりしたら、
俺、耐えられないよ。」
「翔君はそんなことで避けたりしないと思うぞ。」
「そう・・かな・・・。」
「そんなに器の小さい男じゃないだろ?」
「・・・うん。 そうだね。
俺、頑張ってみようかな。」
「俺も応援するからさ。」
「ありがとう。 おおちゃん。」
固く握手を交わす。
あ~・・・、俺、何やってんだろ。
三日後、俺達はもうすぐ始まるツアーに向けての練習でスタジオに籠っていた。
「は~・・・これ以上は覚えらんねぇよ。」
翔君がよれよれと椅子にへたり込む。
「だよね~。」
相葉ちゃんも汗だくだ。
ライブの構成も少し変わったので、新しく覚えなければならない部分もある。
「智君は余裕だよな~。」
「そんなことないよ。」
「俺、間に合う気がしないよ。」
「まだ時間があるから大丈夫だって。」
部屋には俺と翔君と相葉ちゃんの三人。
ニノは映画の撮影があって昼過ぎに帰ってしまい、
松潤は演出についてスタッフと会議中だ。
「智君、仕事これで終わりだよね。」
「うん。」
「じゃ、この後飲みに行かない?」
「えっ?」
「はい! 行く、行く!」
相葉ちゃんが俺の後ろから元気に手を上げる。
俺、邪魔かな。
「ごめん。 俺、ちょっと用事があるから。」
「えっ? そうなの?」
「うん。 せっかくだから二人で行けば?」
「じゃあ、そうするか。」
「翔ちゃん、また飲みすぎないでよ。」
「外なら大丈夫だって。」
「ほんと?」。
楽しそうに話す二人を見ているのがつらい。
だめだ。 応援するって言ったのに・・・。
俺は今どんな顔をしているのだろう。
二人に背中を向けたまま、手早く着替えをすませる。
ん?
なんとなく視線を感じて振り返る。
そんな智を見つめるのは
Writing by リフ Special Thanks!