♣J
「そんな目で見ないでよ」
相葉ちゃんがちょっと怒ったみたいな、そんな顔をして、ふい、と俺から視線を逸らした。
ちょっととんがった口が可愛いな、なんて思ったけど、それにしたって なんでそんなことを言われてんのか 俺にはさっぱりわかんなくて。
「そんな目って……???」
そう聞き返した俺に、横を向いた唇は ますますとんがっていく。
『おおちゃん、どうしよう』
あの日、泣きそうな顔で俺に秘密を打ち明けてくれた時、相葉ちゃんのことは俺が守らなきゃって、俺が助けてやらなきゃって、そう思ったんだ。
「おおちゃん、なんでそんななの?」
「なんでそんなって、なにが?」
横を向いていた瞳が、今度は俺を睨むように見上げる。
「なんで、なんにも言わないで応援してくれたの?」
「なんでって……そりゃ、最初は驚いたけど。
けど、翔君はかっこいいし、仕事できるし、頭もいいし、優しいし、さ……」
そう言いながら、ちょっとだけ胸がちくんと痛む。
「……そりゃ翔ちゃんは、かっこよくて、仕事もできて、頭も良くて優しいけどさ。だからって、なんとも思わなかったの?」
「なんともって……」
相葉ちゃんの視線から瞳を逸らして俯いた。
なんとも思わないなんて、そんなわけない。
あの笑顔が向く先が俺だったらいいのにって、何度も思ったけど。
けど、翔君と相葉ちゃんがふたりでいると、ほかの誰といる時よりも楽しそうでキラキラしてて、俺から見てもお似合いのふたりだと思ったから……
「……俺、もういいんだ」
予想外の言葉に顔を上げたら、なんだか泣きそうな顔をしている相葉ちゃんと目が合って、慌てた。
「え……もういいって?え?なんで?」
翔君に限って、相葉ちゃんを傷つけるなんてこと、する訳ないって思うのに。
「もう、いいの。今までたくさんありがとね、おおちゃん」
「よくないだろ!全然『もういい』なんて顔してないだろ!」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出て、目の前の相葉ちゃんの、もともと丸い目がもっと丸くなった。
そんで、それからふわって笑顔になる。
「違うの。諦めるとか、悲しいとか、そんなんじゃないんだ。
翔ちゃんが悪いとか、そんなのでも絶対にないよ」
「じゃあ、なんで……」
「おおちゃん。俺ね、わかっちゃったんだ」
俺をまっすぐに見つめる黒く澄んだ瞳に、全部、持っていかれそうになる。
「おおちゃんが、なんでそんなに優しいのかって」
優しいのは、相葉ちゃんの方だろって思った言葉は、声にならない。
だって、俺を見つめたままで、相葉ちゃんがすげぇ綺麗に笑うから。
「俺ね……翔ちゃんじゃなくて、おおちゃんが好きみたい」
「……へ???」
相葉ちゃんは翔君のことが好きで
俺は、翔君にも相葉ちゃんにも笑っていて欲しくて……
だけど、いつの間にか、翔君よりも相葉ちゃんのことを目で追う時間が長くなっていって……
「俺、おおちゃんに甘えてんなって、甘えすぎだなって思ってたんだけど。
だけど、いつの間にか、おおちゃんの隣がすごく居心地よくなっちゃってさ……」
相葉ちゃんの言葉に、今度は胸がきゅって痛くなる。
同じ人を追いかけていたはずの視線が、いつからか重なることが増えたと思ったのは、気のせいじゃなかったってこと?
ふと視界に入った相葉ちゃんの手。
テーブルの上で組まれたその手は、強く握り締めているせいで色が変わっている。
「……あのさ、おおちゃん……
俺ん家で一緒に暮らさない?」
相葉ちゃんの手から顔へとゆっくりと視線をあげたら、今度は相葉ちゃんがふい、と視線を逸らして下を向いた。
「俺ん家、部屋も余ってるし……おおちゃんと一緒なら、きっと楽しいと思うんだ」
「……相葉ちゃんは、ほんとにそれでいいの?」
手を伸ばして相葉ちゃんの手にそっと触れて、ぴくりと動いた手を引き寄せて指を絡めた。
「俺、もう遠慮しなくていいってことだよね?」
「……え?」
今度は相葉ちゃんが不思議そうに俺を見つめる。
「だって、『両想い』ってことなんだろ?俺ら」
ぱちぱちと音がしそうな瞬きをしてから、くふふ、と笑う。
「うん、そう……『両想い』だね」
きゅって指に力を入れたら、きゅって同じだけの強さで握り返される。
「これからよろしくね、おおちゃん」
「こちらこそ、よろしくな。雅紀」
恥ずかしそうに笑うその唇に、ゆっくりと近づいた。
おめでとうございます!
Happy endです
智は幸せになれました
他の幸せも覗いてみますか?
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Writing by ぴっぴ Special Thanks!