(『人間革命』第11巻より編集)
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〈転機〉 4
伸一は、戸田の決意の容易ならざることを、すぐさま悟らざるを得なかった。彼は、無言のまま、戸田の顔を、じっと見るよりほかはなかった。
戸田は、優しい口調で語った。
「君たちは、まだ若い。若いうちに、さまざまな苦労を買ってでもやっておくことだ。それがいつか、必ず生きる時が来るものだ。
苦労しない男に、いったい何ができるか。なんでもやっておくことだよ。
しかし、ぼくぐらいの年齢になると、自分の人生が、いやでも見えてくる。ぜひとも果たさなければならないことが、はっきりと見えてくるものだよ。
時間が、もはや限られていることも、いやになるほど見えてしまう。
それで、限られた時間に、果たすべきことを、果たさなければならぬということになったら、どうしても、自分の仕事を選択し、整理しなければならないことになる。
すべきことが、重大であればあるほど、気ままな選択は許されなくなってくる。
広宣流布に、わが身の一切を捧げた私だ。その道は、万年の先を志向しているが、今、やっと第一歩を踏み出したばかりにすぎない。
そして、私には、あまり時間がない。確固とした軌道は、誰がなんといっても、このぼくしか、敷くことはできないだろう。
そう考えると、私は、自分の限られた時間の一日一日を、大切にしなければならなくなった。
そこで、どうでもよいこと、誰でも間に合うことからは、この際、一切、身を引こうと決心したんだよ」
「先生、お話は、よくわかりました。先生の、これからの広宣流布の総仕上げのために、お体を大切にしながら、自由にご活躍をお願いします」