(『人間革命』第11巻より編集)
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〈転機〉 5
伸一は、これだけのことを言うのが、精いっぱいであった。
「困ることが起きたら、指導はいつでもしよう。しかし、私が経営の指揮を執ることは、これからはやらない。
これからの私の仕事は、そんな暇が許されなくなったんだよ」
これからの仕事、それは、いったい何だろうと、伸一は、いぶかった。
創価学会の発展の仕事というなら、戸田は出獄以来、今日まで、それこそ不惜身命の活動を続けてきたし、これからも、この仕事は変わらず続けていくはずである。
不審げな伸一を前にして、戸田は、しばらく考えているようであったが、ぽつりと言った。
「転機だな。人の一生には、幾たびも転機があるように、創価学会にも転機がある。
この転機を正確にとらえるかどうかに、未来の一切がかかることになる。
時機を逸すると、未来をもつぶしてしまうことになりかねない。今、その転機が来たようだ。ぼくの人生にも、学会にも」
戸田城聖は、こう言うと、汗を拭き拭き、しきりに麦茶を飲んだ。
そして、机の上の日本地図に視線を落とした。
地図に、各県ごとに書かれた数字は、八月末の会員世帯であった。
「これをご覧。広宣流布の伸展も、地方によって、大変なバラツキが、いつかできてしまった。
このまま構わずに前進するとしたら、今、世帯数の多い地方は、ますます膨張し、世帯のほんのわずかの地方は、いつまでたっても弱体のままだろう。
放っておけば、このアンバランスは、ますます広がるばかりだ。
どうも、今のうちに、至急、手を打つ必要がある。やがて来るであろう総進軍の時代に備えて、今のうちに、このアンバランスを、修正しなければならんと思うが、どうだろう。まず、これをご覧」