# 5 心は孤独な狩人 ~ 君の噂を聞くたびに | 吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

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WEBエッセイ、第3回

                           

                   

 

 

子供の頃の過剰な孤独は、心に様々な傷を残す。

傷はいつまでも痛み、その痛みを消そうとして、心が様々な振る舞いを繰り返す。

1940年のアメリカ、カーソン・マッカラーズという23歳の若い女が、下記のような詩を基に一編の小説を書いた。

 

     心は孤独な狩人、

     いつも寂しい山中でひとり狩りをする 

 

君の噂を聞くたびに、私はこの小説を思い出す。

 

 

孤独にも痛みにも慣れ過ぎた心は、狩りをする。

鎮痛剤を求めて毎日狩りに出る。

そうして稀に獲物を手中にしたと喜ぶが、幻影の獲物は君をごまかし切れず消えていく。

その度に、君は新たな傷を創り、お馴染みの痛みに耐え、翌日また狩りに出る。

無明長夜の山中をいくら彷徨しても、もとより獲物などいる筈もないのに。

 

 

狩人の寂しさは死ぬまで消えず、心の痛みに快癒などない。

しかし、軽減はする。

そのためには、単に狩りを止めれば済むことだ。

山を下り、今日まで辿って来た道を一旦とって返し、

長閑な里を見つけたら、沐浴して旧い恨みや憎しみを洗い落とし、

人を許し自分を許し、静かな眼差しを取り戻せ。

そうして、新たな家を作れ。

君の子供が過剰な孤独とは無縁で育つ家を。

 

 

君の噂を聞くたびに、私はいつもそんなことを思う。

 

 

 (2022年4月16日)

 

 

 

吉岡暁 WEBエッセイ① 嗤う老人