# 21 ひな祭りの写真 【私の空の巣症候群 その2】 ~ ペットロスと空の巣症候群 | 吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

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WEBエッセイ、第3回



                    

 

 

   写真中の4本足の方は、生まれた時から、吸血コウモリか何かみたいな剣呑そうな顔つきをしていた。少しも可愛くなかった。案の定、気性の荒い猫に育ち、いつも余所の猫とうるさいキャットファイトを繰り返していた。
   冬になると、いつも夜中に私の膝の上に乗って来た。
   単に暖を取るためで、可愛げなど何もない。それが証拠に、私の膝から期待した熱量を摂取できないと判断すると、さっさと飛び降りてベッドに直行した。
   晩年は猫の命取りである腎臓を悪くして、何度も動物病院に運び込んだ。よく痙攣を起こした。ソファに寝かせ撫で続けていると、すぐに痙攣は治まった。(これはもうダメか)といつも思ったが、その度にしつこく生き返った。(なんてしぶとい奴だ・・・!)と私は感嘆した。
   この吸血コウモリは、七年前の春に死んだ。結局、20年以上長生きしたことになる。
 何かの折に、その鳴き声、臭い、ちょっとした仕草を思い出す。すると、未だに目の奥が痛み、慌てて瞬きを繰り返す羽目になる。


   写真中の直立2足の方も、生まれた時は前髪の薄い剥げ坊主で、少しも可愛くなかった。離乳食が始まった頃でも、なんだか焦点のボケたような大きな目でこっちを眺め、あやすと、(うるさいワ)という風にブイっとそっぽを向いた。
  多くの家庭と同様に、我が家の親と子の歳月も幕が下り、剥げ坊主も大人の女になって家を出た(# 10  私の空の巣症候群【雑談1】)。

   出た後は、もう別人だ。再会する機会があっても、いちいち話すことが片腹痛い。頻りにこちらの健康を気遣ったりする。それが余計にしゃらくさい。もちろん別の湧き上がる想いはあるが、私はそっちの方の心情を雄弁に物語る世代に属していない。


   写真中の二匹とも、もういない。それでも、過去のある1点の時空間、春三月のひな祭りの時の姿のまま、今も私のディスプレイ上に現れる。

   近頃、この画像をディスプレイから削除しようかなと思い始めた。
   理由?ペットロスと空の巣症候群の両方に罹患すれば分かる。