予定していた、出国前日に会う日程より前にも、もう1回会いたいと連絡があった。でもほんの少しあとに、やっぱり難しいと連絡がきた。
その後、出国前日はやっぱり難しくなりそうなので、出発の3日前か4日前に会うのはどうですか?と連絡が来た。
私は、もう無理に会わなくても良いような気がしていた。
今まで、もうじゅうぶんすぎるほど会った。
海外赴任に出発する直前の忙しい中、無理して会うことで、これまでの良い思い出がかき消されてしまうような事がおきたら嫌だった。
むしろ、最後に会いたいのに会えないまま別れる方が良いような気がした。
(もしかして彼は、本当は私に会えない又は会いたくないけれど自分では言い出しにくいから、こうやって日程を何度も変動させて私の方から断らせようとしているのかも?)
もしそうなら、彼が新しく提示してきた2日は両方とも大丈夫だったが、大丈夫ですと伝えると自分が会いたがっていると思われそうで気が引けた。
「もう出国直前で、何かとお忙しいと思うので、本当にご無理なさらず」
「いえ、水木なら会えるんです」
「そうなんですね、それならぜひ!
水、木どちらでも大丈夫です。何時でも大丈夫」
「水曜、△△に部屋をとりました。」
ネットでそのホテルを検索すると、超一流外資系ホテルチェーンに属しているようで、一見して非日常的でゴージャスな場所だと分かった。
今までも、どこかに行く時はお洒落な場所を選んでくれていたと思うが、今回はレベルが違う。
前回会った時に“最後はちょっと良いところ考えます”と言っていたが、きっと清掃中で入れなかったラブホテルのペントハウスのような場所なんだろうなと想定していた。
なので、自分の想像を遥かに上回るサプライズに、私は本当に涙が出てきた。
(これで本当に最後なんだな…)
嬉しくて、というよりも、これでもう会えなくなるんだ、ということに押しつぶされてしまいそうで、
予想外なことに本格的に泣いてしまった。
(あんなにずっと、離れたい離れたいと思っていて、
やっとそうなれるのに…
私はなんでこんなに泣いてるんだろう?
意味わかんない)
しばし浸りたかったが、早く返信をした方が良いと思って、思ったままを書いた。
「ありがとうございます。
こんな素敵な場所、嬉しいけれど、最後感がすごくて泣けてきました」
本当にボロボロ泣いてしまったことは
伝えなかったから、彼は言葉のあやだと思っただろう。
「最後じゃないから。ただ、一つの区切りではあるので。こんな時くらい素敵な時間を過ごしたいなと思って。繁華街でもないし、平日の昼間に誰かが来るところでもないし。」
「早く水曜日が来てほしいような、ずっと来ないでほしいような。誰にも会わないとは思いますが、念のため変装していこうかな。
お会いするのを楽しみにしてます。」
色々試そうと思って文字を2文字くらい入力したところで、予測変換機能が敏感なせいか、今日と書こうとして“きょう”と入れると
なぜか私が単独で、又は彼と私が一緒に恐竜にまたがっているスタンプが出てきた。
私は彼の娘さんが恐竜好きと知っていたので、恐竜のスタンプを送った。
「恐竜に乗ってますね。うちの子が好きそう。」
更に恐竜スタンプを2つ送った。
「ドラえもんの世界観みたいで夢がありますね」
彼が海外赴任先に行ったら、こういう交流もなくなるんだろうなと思いながら、大して意味のないやり取りを続けた。
最後、自分が目をつぶって微笑んでいるスタンプを送ってやり取りを終わらせた。
ーーー
ここ数回、当日の朝に急に“会わない?”という
連絡が来ることが続いたから、前もって
予定が分かっているのはましな方だ。
最後だから何かしたいと思った。
でも形に残るものを渡せる関係性ではない。
彼にお別れの手紙を書いた。
好きとか恋とか愛とか、そういう言葉は一切ない、
一見すると淡々としたお別れの手紙だ。
でも、実は彼と私だけに分かる暗喩をたくさん入れた。
裏を読めば強烈なラブレターともとれる。
彼ならきっとある程度読み取るだろう。
でも、彼がたくさんの暗喩を読み取ったとしても
彼に執着するとか別れを嘆くとかではなく
別れを受け入れて彼の新しい場所での挑戦を応援する
ことに変わりない内容だ。
彼が暗喩を読み取れなかったとしても
それならそれでいい。
書きたいことは書いた、という
私の自己満足が満たされるから。
(彼はどのくらい読み取って、どんな反応をするだろう?)
それが、彼と会うことそのものとは別の
楽しみになった。
表面的なことしか読み取れなかったら、きっとシンプルなお別れの手紙と受け取ってあっさりした反応しかしないはずだ。もし彼がそういう人だとわかったら、本当にスッキリお別れできる。
暗喩に気づいて、なおかつ私に少しでも
気持ちが入っていたのなら、泣かないまでも
少しくらいうるっときてもいい。
そういうリアクションだったら、これまでの約10年も浮かばれる。
私は、“彼が表面的なことしか読み取れなくて
私をガッカリさせる”方の展開を願った。
(※でも実際には彼は私が願った方ではない方のリアクションをして、さらに予想外のことを私に言った。
そしてこの2年後にも、またあの時の△△ホテルに行こうかという話が出た。)
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ーーー
夜寝る時になってまた、
彼との今までの約10年を思い出し、
そしてそれが明日で終わるんだと思ったら
また涙がハラハラと流れた。
そして、寝不足の顔では会いたくない、
早く寝なきゃと思えば思うほど、
なかなか寝付けなかった。
でも、約束した時と夜寝る前に
そんなに泣いてしまったということは
彼には言わなかった。
自分でも意外な感情、感情というよりも
感情を飛び越えてこんなにも涙がたくさん出てきたことが自分でも理解できなかった。
彼は身体だけの関係の相手で、
私は彼とずっと離れたがっていた。
泣いてしまったからといって、
それをなんと伝えればいいかわからないし
言われた方も困るだろう。
(彼に会ったらいつも通りセックスだけして、
綺麗さっぱり別れよう)
そう思った。
※でもそうはうまくいかなくて、この約1年後に
このホテルに行くことがあり、この時のことを思い出してまた泣けてしまった。
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※『終わりかと思ったら始まりだった話』の記事に出てくる小説はこちらです。
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