「あ、さっきのデザート食べない?」
「そうですね」
冷蔵庫に入れておいたデザートを取り出して、一緒に食べた。
私はとても喉が渇いていたので
デザートと一緒にたくさん飲んだ。
最近のSNSではダンス動画が多いとかインスタグラムとティクトクの違いとか、tefeさんもそういう動画みるの?とか、そういう話を彼は饒舌に話していた。
けれど私は、“もうすぐ海外赴任で日本からいなくなってしまう彼と会うのは、今日が最後かもしれない”とずっと思って聞いていた。
だから、楽しそうにSNSの話をしている彼の話の区切りをついて、少し改まった感じで言った。
これを話さなきゃ、と思っていたことだ。
「前に、結婚するからもう会わないようにしようって話をしたよね」
「うん、結局ずっと僕ら続いちゃったけどね」
「それはおいといて。あの時期も海外赴任になるかもって話があったと思うんですけど。
そこから10年くらい経って夢が叶って良かったですね。ちゃんと、おめでとうございますって言いたくて。寂しくはなるけど、本当におめでとうございます」
「ありがとう。僕がやりたいジャンルの最先端をやってる場所だから、本当に嬉しい。
向こうで見せられる業績もできたしね」
「汗かいたから甘いものが美味しいですね。今日も暑かったし。」
私は照れ隠しでデザートの話に戻した。
「こういう時間が人生の喜びですよ こういうのが無いとなんかね…」
(無言)
「まぁ 子どもがいなかったら離婚してるだろうけどなぁ、もちろん…」
「美味しかった、ごちそうさま。ティーソーダ好きなんです。」
ごくごくと飲んだ。
そしてむせた。
「いやいや楽しかったです。今日も急なお誘いだったのに会えてよかった。
僕はこの期間にやっぱりtefeさんがいてくれてすごく嬉しかった」
「期間?あ、コロナの間ね」
「コロナの間だけじゃなくて、この10年間ってこと」
「…この10年間の締めの、お別れの言葉?」
「いや、お別れってわけでもないんじゃないかな?僕はそんなに深刻に捉えてなくて。まぁ飛行機で行ったり来たり、別にできないわけじゃないし。ちょっと不便になりますけど。うん、なかなか今みたいな感じには会えないけど。」
「ここ1か月くらい、私たちなんだかすごく頻繁に会いましたよね」
「うん、まぁやっぱりね。しばらくあえなくなっちゃうし。楽しいし。」
「ていうか、もう会わないようにしようって何度言ったことか、ですよね。お互い」
「喉もとすぎれば熱さを忘れる、ですね。会ってて楽しいうちは、いいかなって。楽しかったし。僕が日本を発つ前に、もう一回くらい会いましょう。」
「そうですね…」
(寂しいけれど、彼の夢が叶って海外赴任が
決まったのだから悲しくはない)
「ここ、ほんとは上にペントハウスがあって
景色が見えるジャグジーがあるんだって。そこいいかなって思ったんだけど清掃に時間がかかるっていうから。」
「そうなんですね、イベント感がありますね」
「次に会うときは、本当の最後になっちゃうから。」
「寂しいな」
「次はそういう楽しそうなとこ行きましょう。僕たちはなかなかそういうとこ行けないから。考えますよ。」
「ご負担のない範囲で」
(そういう風に言ってくれるには嬉しいけれど、
絶対に実行される確証はないし、お互い家庭があるから、急にキャンセルということも無くはないだろう。ましてや海外赴任に出発する直前だ。そんなに期待はしていないが、そんなことを考えてくれるだけで嬉しかった)
「ところで引越し準備はだいたい終わったんですか?」と話をふった。
持ち物の予定や
現地の家具屋さんの話なども少し聞いて、具体的な生活がイメージできた。
彼が、全く未知の場所に行って消えてしまうわけではないことが分かって安心した。
ホテルをチェックアウトする時間になった。
「楽しかった。」
「私も。あまりお別れの感傷的な感じにならなくて意外でした。」
「今もうそういう時代じゃないんだよ。ちょっと海外に行ったからといって永遠の別れじゃないし」
「別れるはずが、逆に頻繁にあって、連絡もけっこうしちゃいましたね。なんか思ったことと逆の方向に現実が進んじゃった感じ。」
「そうだね、偶然じゃなくて、僕らが2人ともそれを望んだ結果なんだと思うよ。」
「…そうですね」
「会えるうちにあっておきたくて。今日も会えてよかった」
「私も」
また、他愛もない話に戻って、
一緒に駅まで歩き、そこで別れた。