彼と会った翌日、私は色々な予定が詰まっていてバタバタしていた。
夕暮れ時にやっと予定が終わり、夕焼けが綺麗な道を駅に向かって歩いていた。気持ちの良い風が吹いている中を、広い坂道を下っていくと大きな川があり、その先に駅がある。
“今日は彼が赴任先に向けて飛行機で日本を発つ日だけど、こんな夕焼けの中を飛行機で飛び立ってたら綺麗だろうな…”
実際には、彼が赴任先に発つ飛行機の時間など、
細かいことは聞かなかった。だから彼がどんな景色を見ながら飛び立ったのか、飛び立とうとしているのかなんて知らない。
やっぱり、私の中では“お別れした人”で、
うっかりセックスをしてしまっただけの人、という
思いが強くなっていた。あるいは、そう思わなければいけない、と思っていた。
すると、そのタイミングでスマホに通知が来た。
彼からきたのかな?と思ったが、違った。
見ると、それはmagic hourというタイトルがつけられたショートムービーだった。スマホが自動で作ってくれた、夕焼けが綺麗な瞬間の写真だけで構成されたショートムービーで、印象的な写真が15枚くらい次々に再生されていく。
その9割が、彼との密会旅行で撮ったものだった。
時々刻々変わって行く夕焼けの景色を、高いビルのガラス張りの展望台から一緒に見た。
大きな川の川面が赤みがかった紫色に変わっていき、街が夕焼け色に染まり、ビル街の向こうにぼんやり見える地平線いっぱいに最後の鮮やかなオレンジ色の線がパーッと広がって、日没となった。その瞬間、いきなり彼にキスされた。
そんな思い出が一瞬で蘇った。
“なんでこのタイミングで出てきたんだろう? 彼が向こうに戻る日にこんな通知が出てくるなんて、偶然にしてはできすぎている…!”
そのショートムービーをもう一度観て、さらにしみじみしてしまった。
以前の私だったら、すかさずそのムービーのリンクを彼に送っていた。
でも、私は彼とは“別れた”んだ、必要以上に
コンタクトを取らないようにしなきゃ。
そうじゃないと前の状態に逆戻りしちゃう…。
それに、彼からも日本を発つ連絡とかが無いんだから、私から送ることもないだろう。
“日本を発つ日に、こんな綺麗な夕焼けで、しかも
前にいっしょに見た夕焼けの写真がたくさん入ったムービーの通知が来て、なんとも言えない気持ちになりました。向こうに戻っちゃって寂しいという気持ちと、また会いたいって気持ちと、良いフライトをって気持ちが混ざってます”
のようなメッセージに、さっきのショートムービーのリンクを付けて送る?
でも、“別れた”相手への社交辞令の挨拶とするには
重すぎる。
彼にとって私は、結局のところは単なる都合のいい遊び相手なのだろうから、そんな内容を自分から送るのはなんだかシャクなことにも思えた。
(彼の方から先に、今から日本を発ちます!のようなメッセージが来ていたら送ったかもしれないが)
それに、私にとっても、彼は面倒が少ない身体だけの関係の相手だったはず。
気持ちを入れるのは間違ってるし、気持ちが入ってると思わせるようなメッセージを送るのも間違ってる。
自分のスマホに、そのショートムービーのリンクを保存して、そのまま帰宅した。
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